保内夜一の不思議奇譚
その日、俺は友人の天崎と一緒に大学から帰っていた。
俺の名前は保内夜一。
特筆すべきものなんて何も無いどこにでもいるような大学生。
「今日の授業だるかったなぁ」
「ほんとになぁ」
そんな事を話しながら歩いているとふと道路に目がいった。
そこには黒い塊があった。よく見ると耳がありそれが猫だと言うことはわかった。
「あれ、危なくないか?」
「んぁ?なにが?」
俺が指さした猫は道路の真ん中にうずくまって動かない。
そこに車のヘッドライトが近づく。
危ない…っ。
そう思えば知らぬ間に身体が動いていた。
車の前に飛び出し道路にうずくまる猫を抱き上げ反対側の歩道に飛び込んだ。
「お、おい!大丈夫か?夜一!!」
天崎の叫び声に手を挙げ答え腕の中の猫に目をやった。
「おーい、大丈夫か?猫、生きてるか?」
声をかければ猫は目を開けじっと俺を見てきた。その瞳は青と緑のオッドアイだった。
「にゃーん」
小さく鳴けばそのまま俺の腕の中で丸まり眠りに落ちた。
「急に飛び出るから驚いたぞ、怪我ねぇか?」
「あーうん、俺武術してたから受身は完璧、心配しないで大丈夫だ」
車を避けてこちら側の歩道に渡ってきた天崎に答えながら眠る猫を見つめた。
「そいつ生きてんの?」
「生きてる、とりあえず俺連れて帰るわ」
この猫をそのまま放置することなど出来なく抱っこしたまま立ち上がった。
その日はそのまま天崎と別れ家へと帰った。
「とりあえずこれでいいか」
家に着けばタオルケットで猫を包みクッションに置いた。
「さて、晩飯どうすっかなぁ」
「おい人間」
キッチンに行こうとすればいきなり声がかかった。この部屋には自分以外居ないはずだ。恐る恐る振り返るも人は居ない。居るのは拾った猫だけだ。
「話しかけたのは私だ人間」
再び声がかかる。確かに声は拾った猫から聞こえた。
「ね、猫が喋った」
「ふむ、私は普通の猫とは違うからな」
その猫はタオルケットから出て座った。その姿は凛としていた。
「私の名は吉備津彦今回は助けて頂き感謝する」
「は、はぁ…」
「お前名前は?」
「ほ、保内夜一です」
思わずその場に正座をしながらそう答えた。
「今回のお礼にお前の願いを叶えてやるぞ」
黒猫ー吉備津彦はハッキリそう言った。
「願い?待って今の状況が理解できない」
俺は頭を抱えた。
「この世には理解できない事など沢山あるぞ、若いうちから慣れておくべきだ」
しれっと言うがそんなこと出来るかよと内心呟いた。
「さぁ、願いを言えばいい」
「…っ」
この時の俺は知らなかった、これから大変な自体に巻き込まれるなんて…