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4.一人ではない。

事態は深刻。










「師匠、これってもしかして……!」




 ミルの姿を見て、アーニャが息を呑んだようにしてこちらを見る。

 彼女が言わんとしたことは分かった。指先から四肢にかけての変色と壊死、さらには呼吸困難の状態。これの軽症の状態を先日、僕と少女は目の当たりにしていた。


 ――『ラミレアの毒』で、ほぼ間違いないだろう。



「だけど、どうして……?」



 僕は急ぎ少年のもとへと駆け寄って、その患部を確認した。

 壊死はかなり進行しており、たとえ解毒したとして末梢神経が元通りになることはない。それどころか、このままいけば臓器が壊れてしまうに違いなかった。

 しばし考えてから、僕はアーニャにこうお願いする。



「アーニャ、いまからありったけの準備はできる?」

「ラミレアの茎、ですか?」

「そう。とにかく、たくさん……」

「わ、分かりました!!」



 こちらの申し出に、少女は大慌てで外へ飛び出していった。

 それを確認してから僕は、エルさんに訊ねる。



「エルさん。いつ頃からこうなっているのか、分かりますか」

「いつ頃から、ですか……?」

「はい、些細な変化でも構いません」

「………………」



 すると彼女はしばし悩んだ後、ふとこう言うのだった。



「実は、ミルだけじゃないんです」――と。




 それを聞いて、僕の肝は一気に冷える。

 そして、詳しく事情を聴いた後に小屋の外へと飛び出すのだった。









「そんな……そんな、ことって……!?」




 僕は一心不乱に貧困街の区画を走り回る。

 彼女の言葉が正しいのなら、事態は思った以上に深刻かもしれなかった。そして、その嫌な予感は見事に当たってしまう。



「…………!!」



 ――息を呑んだ。


 僕が発見したのは、日差しを避けるように陰に身を横たえた子供たち。

 そして、彼らの指先はやはり――。




「壊死、してる……!」




 数名の子供のうち、一人の指先に触れて確認した。

 その症状はミルよりも軽いが、ラミレアの毒の影響であることは間違いない。呼吸も荒く、みな一様に喉が渇いたと訴えていた。

 そんな彼らを診ていると、一人の男性が声をかけてくる。



「お前さん、そのような穢れに触れて大丈夫なのか……?」

「え、穢れ……?」



 驚いて振り返ると、そこにいたのは一人ではない。

 症状が出ていない子供を連れた親に、あからさまな不快感を示す大人たち。彼らはまるで汚物を見るような目で、日陰で倒れている子供たちを見ていた。



「その子たちは、なにかの罰を受けているのだろう? きっと呪いだ」

「呪い、だって……?」



 そして、そんなことを言う。

 僕が驚くと男性は、代表するように続けるのだ。



「あぁ、そうだ。エルの息子のように、穢れた魂を持つからだろう?」――と。



 それは、言いようのない偏見だった。

 彼らはラミレアの毒について、知見がまったくない。

 だとすれば子供がこのようになっても、原因を見つけられないのだ。



「違います、これは呪いなんかじゃ――」

「どいてください……!」

「え……?」



 だから、それを否定しようとした時。

 人の隙間を縫うようにして、一人の女性がコップを手に現れた。



「アン!? ほら、お水よ……?」



 そして、倒れる子供の中から自身の娘を見つけ出して。

 コップの中にある水をゆっくりと飲ませた。

 すると――。



「げ、ほ……! げほげほ!?」



 アンと呼ばれたその子は、身体を痛みに震わせてむせ返る。

 その瞬間、僕は見た。



「……もしかして…………!?」







 少女の指先の壊死が早まったのを。

 それは間違いなく、ラミレアの毒による反応に違いなかった。



 


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