3.二人の訪れた場所で。
はい、シリアス入ります。
「すみませんでした。師匠」
「いや、大丈夫だけど。どうしたんですか、急に倒れて……」
「な、なんでもないです!!」
アーニャが倒れて、しばらく。
僕と彼女は王都の街中にある公園に立ち寄っていた。
そこで少女が回復するのを待っていたのだが、気付けば日も傾き始めている。そろそろ帰宅の準備を始めた方が良い、そう思われた。
「それにしても、どうしていつもの服装なんですか?」
「ん、だって楽ですし……」
そう考えていると、どこか不満げにアーニャが言う。
僕は自分の着ている服を見て、首を傾げた。先ほど試着した服は、ひとまず公爵家に届けてもらうこととして、今のところは普段着を使用することにしたのだ。
しかしながら、アーニャの視線はどこか恨めしくもあり。
僕はどうしてそこまで執拗なのか、と気になってしまうのだった。
「まぁ、いいです。これから何度でも……」
「…………?」
対して彼女は、聞こえないほどの小声でぼそぼそと何かを口にする。
ますます首を傾げる結果となったのだが、今はとりあえず置いておいていいだろう。そう考えて僕は、家路に就くことを提案しようとした。
その時だ。
「お願いします! 息子を助けてください!!」
なにかを必死に懇願する女性の声が、耳に入ってきたのは。
「え、なんだろう……?」
「あちらから、ですね」
僕とアーニャは顔を見合わせ、自然と声のした方へと足を運んでいた。
すると、そこにあったのは――。
「ああ、しつこいな! 私では無理だ。治癒術の効かない症状なんて、専門外なんだからな!!」
「お、お金なら何とかして準備します! だから――」
「だから、そういう問題ではない!」
痩せ細った中年の女性を振り解く、治癒術師と思しき男性の姿。
内容からは詳しい事情まで分からないが、とにかく事実としてあったのは、女性が自身の息子のために何かを頼み込んでいるということだった。
最終的に治癒術師に見捨てられてしまい、意気消沈する女性。
そんな彼女のもとに、僕たちは駆け寄った。
「あの、大丈夫ですか」
「あなたたちは……?」
声をかけると、その女性は呆けたようにこちらを見る。
そして、こう言うのだった。
「あぁ、誰でも良いの。ただ――」
もはや神にすがるしかない。
そのような声色で。
「息子、ミルを助けて……!」――と。
◆
「ここは、噂には聞いていましたが……」
その後、僕とアーニャは王都のある区画を訪ねていた。
荒れ果てたその場所を見て、少女は思わずそう言う。僕としても気持ちは同じで、今まで話でしか聞いたことのない、そんな場所であった。
ろくに舗装のされていない道は、地面がむき出しになっている。
そしてぽつぽつと建ち並ぶ言えばどれも壁が崩れていたり、屋根が剥げていたり。どこかしらに欠陥があるようなものばかりだった。
ここは、俗に言う貧困街だ。
王都の中で、最も治安が悪く危険な場所。
そして、とにかく日々の暮らしさえギリギリな貧しい人々の暮らす区画だった。
「行こう、アーニャ」
「……はい」
そこに足を踏み入れ、若干の躊躇はある。
しかし、僕とアーニャは意を決して一歩を踏み出した。そして、
「この家、だな」
一軒の小屋のような家の前に到着する。
僕は一つ深呼吸をしてから、軽く扉をノックした。すると、
「あぁ、お待ちしておりました……!」
姿を現わしたのは、先ほど声をかけた女性。
名をエルという彼女は、やつれた顔に微かな希望を浮かべていた。対して僕は、急ぎ本題に入るために訊ねる。
「それで、息子さんは……?」
「あぁ、あぁ! こちらです……!」
エルさんはハッとした表情になり、僕とアーニャを招き入れた。
そして、粗雑な場所に寝かされた少年のもとへ。
「これ、は……!?」
そこで僕は、信じられないものを目の当たりにする。
アーニャも事態の深刻さを察したらしく、小さく悲鳴を上げていた。
「解毒師様、どうか……!」
エルさんが抱き起したミルという年端もいかない少年。
彼の四肢は――。
「息子を、ミルをお助け下さい……!!」
関節部まで黒く変色し、壊死していたのだった。
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