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2.新しい日々。

オープニングはここまで!

次回から第1章!









「ねぇねぇ、リフレス様。わたしに、解毒を教えてくださらない?」

「あ、あはは。アーニャ様、それは少しばかり時期尚早かと……」




 あの一件から数日が経過して。

 僕はとかく広い屋敷の一室に、客人として住まわせてもらっていた。

 そしていま、助けた姉妹の妹――アーニャから、執拗に解毒の知識をせびられている。とはいってもまだ齢十二の女の子なのだから、戯れのようなものだろう。


 僕は苦笑しつつ、読んでいた書物を閉じた。

 すると目の前にあったのは、不満そうな彼女の愛らしい顔だ。



「むぅ、リフレス様。もしかして子供の戯れと思っていませんか?」

「ぎくぅ……」



 アーニャの言葉に、動揺を隠せなかった。

 なんだろう。この子は本当に察しが良いというか、年不相応に頭が良い。



「あー、やっぱり! 言っておきますが、わたしは本気ですよ!?」

「あ、あはは……」

「笑って誤魔化すのはなしです!!」

「うぐ……」



 躱そうとするが、退路を断たれてしまった。

 しかし、そう簡単に解毒の知識を与えて良いものか分からない。

 それにアーニャには、もっと他に学ぶべき内容があるはずだった。だって、




「あの、アーニャ様は公爵家のお嬢様であって……その、身分が……」




 この少女は公爵家の令嬢、なのだから。

 この事実を知ったのはあの日、彼女たちを助けたすぐ後だった……。







「こ、公爵家の……!?」

「えぇ、そう。アタシは公爵家のアリシア・ウィンドスフィア。そしてアーニャは、知っての通りアタシの妹よ」

「アーニャ・ウィンドスフィアです。以後、お見知りおきを」

「…………」




 理路整然といった様子で語る姉ことアリシア。

 対してアーニャは貴族の嗜みとでもいうのだろうか、恭しく礼をしてみせた。

 それらを見た僕は、困惑するしかない。家臣の人々はいま外に出払っており、小屋の中にいるのは三人だけだった。

 そのことが、よりいっそうに緊張感を高める。



「あら、そんなに緊張しなくていいわよ。アタシは堅苦しいのが苦手なの」

「は、はぁ……」



 そんな僕を察して、アリシアはそう言った。

 先ほどまで生死の境を彷徨っていたとは思えないほど、凛とした態度である。僕は貴族としての風格に圧倒されつつも、ひとまずこう訊ねた。



「でも、いったいどうして毒なんか……」

「アタシも分からない。十中八九『あの馬鹿』が仕込んだのだろうけど」

「……『あの馬鹿』?」



 するとアリシアは、鼻を軽く鳴らして口にする。



「アンドレ・ルツ・テストニアよ」――と。



 僕はその名前を聞いて、口角が引きつるのを感じた。

 だって、その方は――。



「だ、第二王子……!?」



 ――そう。

 このルツ王国の王族に名を連ねる人物であったから。

 こちらが困惑していると、アリシアは深くため息をついた。



「そんなできた人間じゃないわよ、アイツ。何かにつけて自身の身分をひけらかすし、民のことを愚かな下等生物とさえ呼んでいたのだから」

「ひえぇ……」



 知りたくなかった情報がボロボロと出てくる。

 僕はそれに震えながら、苦笑することしかできなかった。すると、



「そういえば、リフレス。貴方、行く場所がないんだっけ?」

「え……?」



 話の腰を思い切り折って、アリシアがそう言う。



「あ、うん……そう、だけど……?」



 会話の主導権を取られているとは思いつつ、僕はそう答えた。

 それを聞いた彼女は、ちらりとアーニャを見て――。



「そう。だったら……」




 こう、あっさりと言い切ったのだった。





「アタシたちの家に住むと良いわ」――と。












 ――で、いまに至る。


 あの日以降、僕は公爵家お抱えの【解毒師】ということになった。

 衣食住の保証はされているし、困りごとなんてほとんどない。安定した生活水準が担保されていることは実に好ましかった。だけど、唯一の悩みといえば……。



「もう、子供扱いしないでといいましたでしょう!?」

「お、怒らないでくださいよ。アーニャ様……」

「むむむぅ……!」




 このように、公爵家姉妹のアーニャが弟子入りを志願することだった。

 僕自身、まだまだ未熟だというのに弟子など取れるはずがない。それに相手が公爵家の令嬢となっては、こちらの気苦労も絶え間ないものだった。

 そんなこんなで断り続けているが、相手はなかなか諦めず……。




「まぁ、良いんじゃない? 基礎くらいなら」

「アリシア様……!?」




 ――と、そんなことを考えていたら。

 いつの間にか部屋にきていた姉に、軽く言われてしまった。

 彼女は優雅に紅茶を啜りながら、小さく息をつく。そして言うのだ。



「呼び捨てで良い、って言ったでしょ? リフレス」

「あ、う……」



 これまた、難易度の高い要求を。

 しかし立場というものがあり、それを色々と思索した結果――。



「ごめん。……アリシア」

「よろしい」



 僕が折れることとなった。

 こちらの返答を確認してから、彼女はまた紅茶を一口。



「まぁ、とにかく。簡単な内容なら教えても良いわよ。見聞を広めることになるし、自分を守る術にもなるから」

「そうなのかな」

「えぇ、そうよ」



 そして、そう語るのだった。

 たしかに言われてみれば、一理ある。

 それに基礎くらいなら、こちらからも教えられることがあると思った。




「リフレス様。どうされますか?」




 そこで改めてアーニャを見ると、少女はにっこりと笑って言う。

 愛らしい表情の奥から『お前に逃げ場はない』という声が聞こえた気がしたが、僕はそれに目を瞑って覚悟を決めることにした。



「分かりました。でも、本当に基礎ですよ?」

「やった!」



 その上で、そう答えると。

 アーニャは年相応に喜びながら、小さく跳ねてみせるのだった。



「まったく、どうなることやら……」




 そんな少女と、微笑む姉を見て。

 僕は、新しい日々の始まりを改めて実感した。




 不安もあるし、期待もある。

 そんな半々な感情の門出だったように思えるのだった。




 


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