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6.調査開始と、過去。

すまねぇっす、遅くなり申した(*‘ω‘ *)








「師匠、ここは?」

「ここは宮廷治癒術師が利用する資料保管室だよ。王都に限らず、世界各地にある治癒術の情報、それに様々な環境変化によって起こる症例とかも見られるんだ」

「凄いですね! ということは、フィリス様の症状のことも……?」

「確定ではないけど、可能性はあるかな」




 アレクさんを放置し、僕らが向かったのは資料室。

 そこにはアーニャに説明した通り、世界中の情報が詰まっていた。古い資料の中には魔族との争いで使われていた毒についても記されており、解決の糸口に一番近いと思われる。僕は真っすぐに毒薬のそれらをかき集めて、テーブルの上に積み重ねた。



「う、うわぁ……す、凄い数です」

「そうかな?」



 ざっと見積もって、百冊弱。

 一日で読み込むにしては、まだまだ少ない方だと思われた。

 僕は資料をいくつか開きつつ、ふとアーニャとアリシアにこうお願いする。



「二人には他の治癒術師たちから、話を聞いてきてほしいんだけど。いいかな?」



 こうやって、一ヶ所に全員がいるのは効率が悪い。

 そう考えて伝えると、彼女たちは頷いた。



「えぇ、もちろん良いわよ」

「任せてください!」

「ありがとう」



 それに僕は感謝し、マクガヴァンさんの方を見る。

 すると彼はこちらの意図を察したらしく、静かに頷いてみせた。



「それではお嬢様方。この老いぼれが案内しましょう」



 そんな冗談を口にしつつ、二人に声をかける。

 そして三人が出て行くのを確認してから、ボクは改めて資料に視線を落とすのだった。フィリスを救い出すために……!









「マクガヴァンさまは、師匠のお父様と仲が良かったのですよね?」




 アーニャは隣を歩くマクガヴァンに訊ねた。

 その内容というのも、リフレスの亡くなった父親と師の関係について。青年曰く、彼の父は宮廷に仕える解毒師であって、その能力に一目を置かれていたと。

 若くして命を落としたわけだが、そんな人物について少女は興味があった。

 だから、その知人であるマクガヴァンに訊ねたのである。



「あぁ、アクリアのことですか。彼が亡くなって、もうしばらく経ちます」



 対してマクガヴァンは、どこか懐かしそうにそう答えた。

 そして、思い出を語り始める。



「彼は本当に優秀な解毒師でした。そして治癒術にも精通し、それらの知識を組み合わせた新しい治癒を開発しようと日夜、研究に明け暮れていたわけです」

「……へぇ、ずいぶんと先進的なのね」

「えぇ、そうですな。アクリアの研究が完成すれば、いまだ解決できない病や深い傷を癒すことができるだろうと、そう言われていました」



 マクガヴァンは静かに、そう答えながら歩みを進めた。

 公爵家令嬢の二人は感心しつつ、耳を傾ける。



「ですが、アレは突然のことで――」



 しかし、ふと彼の声が暗くなった。

 そして次に出たのは、



「アクリアは何者かに毒を盛られ、意識を失ったのです」

「え……?」



 リフレスの父の死因について、信じられない言葉。

 アーニャとアリシアは驚き、顔を見合わせた。



「どういうことなの……?」

「それについては、分かりません。公には未知の病による死という扱いですが、儂の目には毒殺以外の何物にも見えなかった。しかし儂には、毒への知見がない」

「でも、そう思えるほど不自然だった、ということですか?」

「そういうことです。あのような死に方は、普通ではなかった」



 彼女たちの問いかけに、多くは語らないマクガヴァン。

 しかし、そのことを踏まえてこう口にするのだ。




「だからこそ、リフレスは解毒というものに人一倍のめり込んだのでしょうな。何故なら――」




 本当に、悲しげな声で。








「死にゆく父を最初に発見したのが、リフレスだったのですから」――と。






 



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