3.フィリスの思案、そして……。
さーて、今回はどうなるやら(*‘ω‘ *)
2022年7月18日は更新休みで!
「やあ、フィリス。今日は突然どうしたんだい?」
「アンドレお兄様、少し訊きたいことがありまして……」
――リフレスたちと別れた日の夜。
フィリスはさっそく、異母兄妹であるアンドレ第二王子へ接見を申し込んだ。その願いは肩透かしを食うほどにあっさりと了承され、小一時間すると件の人物が現れる。
二人がいるのは、王城内にあるアンドレの私室。
彼ら以外には誰もおらず、独特の緊張感が漂っていた。
「訊きたいこと、かい? どうしたんだよ。顔色が悪いぞ」
「いいえ、そんなことは……」
「そうかい? フィリスは大切な妹だ。だから、根を詰めすぎていないか不安になってしまう」
「……ありがとうございます。ですが、今日は相談事ではないのです」
その中でも、飄々とした態度でアンドレは笑ってみせる。
そんな兄に対してフィリスは、今までにない恐怖感を抱いていた。だから彼女はその感覚から一刻も早く逃げたいと、無意識に思ったのだろう。
「数週間前、私に教えてくださった『アレ』についてですが――」
単刀直入にそう問いかけた。
すると、アンドレはふと思い立ったように腰を上げて言う。
「それよりも、乾杯しようじゃないか。二人で会うなんて、久しぶりだろう?」
「え、いや……」
彼はグラスの並べてある棚へ向かい、無造作に二つを手に取った。
そして次に、酒の入った瓶を空けるのだ。
「………………」
にこやかに笑いながら、それをグラスに注ぐアンドレ。
朱色の酒を見つめ、フィリスは息を呑んだ。彼女の脳裏によぎっていたのは、リフレスたちから聞いたラミレアの毒薬について。
もしかしたら、あの酒にはそれが入っているかもしれない。
そう考えた彼女は、警戒心を高めつつ兄の動向を視線で追いかけた。
「では、乾杯」
「は、はい」
手渡されたグラスを見つめ、逡巡するフィリス。
しかし、先に行動に移ったのは意外にもアンドレの方だった。
「……ふむ。やはり、この酒は美味しいね」
彼はまったく気にした素振りもなく、一気に酒を呷ってみせる。
味の感想を述べ、微笑みを浮かべる余裕を見せていた。そんな相手の様子を見て、フィリスもおそるおそるグラスへ口をつけて酒を口に含む。
味に、問題はない。
むしろ今まで口にしたどの酒より、美味しいとさえ思った。
「それで、先日こちらから頼んだ件について、だったかな?」
「え、あ……はい」
「あの一件は、こちらでも調査しているんだ。どうやら、こちらも何者かに嵌められた、という可能性が高いからね」
「嵌められた、ですか……?」
ひと安心していると、そんな彼女にアンドレはそう語る。
眉をひそめるフィリスだったが、たしかに可能性としてあり得ると考えた。リフレスのことは信じたいが、あくまで状況証拠でしかない。そして兄は、ラミレアの毒薬について、第三者の介入を示唆していた。
その二つを天秤にかけ、思考を巡らせるフィリス。
だが、やはり判断材料が少なすぎた。
「アリシアも関与しているらしいが、おそらく彼女も被害者の一人だ」
「そう、なのですか……?」
そして同時に、相手方の主張も嘘ではない、と断言する。
フィリスはアンドレの言葉に首を傾げ、さらに悩みこんでしまった。
「今日は、ここまでにしようか。明日の朝、お父様に相談しよう」
すると、真剣な声色でアンドレがそう告げる。
たしかに彼の言う通り、今日はもう夜も更けていた。問題は早くに解決したいが、現状で急いてはいけない。
「分かりました。それでは、明日また」
「あぁ、ゆっくり寝るんだよ」
そう思い、フィリスは兄の言葉に賛同した。
そして兄の見送りを受けながら、彼の部屋を後にしたのである。
「どういう、こと……?」
自室に戻る道すがらも、彼女の悩みは尽きない。
しかし、今日のところはもう考えるのはやめにしようと考えたフィリス。彼女は自分の部屋に到着した後、いつものように寝巻に着替え、ベッドに身を横たえた。
酒が入っていることもあったからか、やがて自然と目蓋が重くなってきた。
明日、国王である父に相談しよう。
そう考えながら、フィリスはその日を終えたのだった。
◆
「アリシア……? そんなに焦らなくても、大丈夫だって」
「焦っていないわ。でも、気になるのは仕方ないでしょう?」
「だからって、貴族が貧乏ゆすりなんてシュールすぎるって……」
――翌日、正午頃。
僕たちはいつものように朝を迎えて、一日を過ごしていた。
もっとも、アリシアはフィリスの返事が気になって仕方ない様子だ。王女の言葉は信用していると言ってはいるが、態度があからさますぎて思わず苦笑してしまう。
「あぁ、もう! いつまでに、って期限を設けるべきだったわ!!」
「それはもう、今さら言っても仕方ないよ」
「分かってるわよ!!」
これが信頼度の差、というやつなのか。
公爵家当主は、とにかく気が急いて仕方ないようだった。
そうしていると、その妹であるアーニャも不安になってしまうらしい。
「でも、本当に大丈夫なのでしょうか……?」
小さくそう口にして、ため息をつくのだった。
僕はそんな二人を相手にして、どうしたものかと考える。だけど、ここはアンドレ第二王子の妹君であるフィリスを信頼するしかない。
そう思って、待つ覚悟を決めた瞬間だった。
「リフレス様、お客様がいらしてます」
「ん、僕に……?」
給仕の女性から、そんな言伝を預かったのは。
これは、きっとフィリスに違いない。
「行きましょう」
「うん!」
アリシアたちに目配せをすると、すぐに行動に移った。
そして、客人が待っているという玄関へ急ぐ。
だが、そこで僕らを待っていたのは意外な人物だった。
「……え、マクガヴァンさん!?」
「おぉ、話は本当だったのだな。リフレスよ」
玄関にある長椅子に腰かけていたのは、恩師であるマクガヴァンさん。
彼は僕の顔を見るとすぐ、緊張した声色でこう言ったのだ。
「実はな、フィリス王女のことだが……」
眉間に皺を寄せ、ひどく苦しそうに。
「……昏睡状態に陥り、目を覚まさないのだ」――と。
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