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9.手掛かりを追って。

ここまでで第1章です(*‘ω‘ *)

次回、因縁の宮廷編。あとがきもお読みください!









「なるほど。それで、最近はずっと顔色が悪かったのね」

「あぁ、うん。でもアーニャのお陰で、気持ちはかなり楽になったよ」




 公爵家の屋敷に帰ってきて、すっかり夜も更けた。

 アーニャが寝静まったのを確認してから、今回の一件についての報告としてアリシアと話していた。リビングにあるソファーに腰かけ、大きなテーブルを挟んで向かい合わせ。真正面から見ると、彼女はやはり美人だな、と思ってしまった。

 軽く酒が入っているから、互いに頬が赤らんでいるだろう。



「リフレス、ずいぶんアーニャと打ち解けたのね」

「打ち解けたというか、自然の流れかな」



 だからといって、特別何かあるわけでもなく。

 僕たちに共通する話題は、彼女の妹である少女についてだった。いまもこうやって、その延長線上の話だと、そう考えながら酒を一口。

 その時だった。



「それで、本題はここから。……例の毒の出どころが、分かったわ」

「………………」



 途端にアリシアが真剣な表情になり、そう告げたのは。

 僕は手に持ったグラスをテーブルに置いて、一つ息をついた。それを合図として、相手は静かに順を追って説明を始める。



「情報は、一部の騎士団員から。なんでも数週間前、あの川のさらに上流に何かを廃棄したらしいわ。十中八九、それがラミレアの毒薬ね」

「それで、指示をしたのは……?」



 状況が分かったところで、僕は核心について訊ねた。

 すると何やら、不服そうにアリシアが鼻を鳴らすのだ。



「アンドレじゃ、なかった」

「……え?」



 それにはこちらも、思わず肩透かしを食らってしまう。

 意外ではある。だけども、そうだとしたら誰が指示をしたのか……。



「騎士団員は、誰だって?」

「…………」



 そのことを訊ねると、アリシアは眉をひそめた。

 そして、しばしの沈黙の後に――。




「フィリス王女よ」





 そう言ったのだった。

 しかし、僕は信じられずに思わず声を上げる。



「そんな、何かの間違いじゃないの!? だって、あの方は――」



 確信に近い違和感。

 僕は、自分がそう思った理由を口にした。




「フィリス王女は、宮廷治癒術師なんだから!」




 そうなのだ。

 フィリス・ルツ・テストニアは僕の元同僚。

 しかも宮廷治癒術師となったのも同じ日という、いわば同期だった。除け者扱いだった僕と会話してくれる数少ない相手であって、王国の福祉充実を目標に治癒術師になった人物。そんな彼女が、毒だと分かった上で廃棄を命じるとは思えなかった。



「えぇ、そうね。アタシもおかしいと思ったわ」



 こちらの考えを察したらしい。

 アリシアは難しい顔をしながら、一つ息をついて言った。



「だから、こうなったら直接聞くわよ」

「え、直接……?」

「そう、直接」

「…………と、いいますと?」



 僕は嫌な予感を覚えつつ、訊ねる。

 すると、さらっと彼女はこう言うのだった。






「明日、会いに行くから。王城にね」――と。






 つまり僕に、解雇された元職場に足を運べ、ということであって。

 それを聞いた僕の頬には、嫌な汗が伝っていくのだった。




 


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