表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/21

7.陰謀の可能性。

危険なかおり。








 ろ過装置は、ひとまず材料さえ揃えば作ることができる。

 筒状のものの一方に布を張り、小石から砂利、そして砂、形の粗い物から順番に入れていく。そこに泥水を注ぎ込み、しばらく待てば布から綺麗な水が滲み出てくるのだ。

 僕はこの構造をみんなに説明した後、アーニャと一緒に薬の調合の準備をする。



「――師匠、茎の芯を煎じてからこっちの薬と混ぜるんですよね?」

「うん、そうだね。それで、次は……」



 こちらの指示に対して、少女は一所懸命に応えてくれた。

 要領も良く、物事の構造理解も早い。少なくとも十二歳当時の僕と比べれば、とにかく賢いという印象だった。

 そんなアーニャはふと、こんなことを言う。



「そういえば、師匠。わたしのこと、アーニャって呼んでくれましたね?」

「え、そうだっけ?」

「呼びましたよぉ!」



 言われて記憶を手繰るが、どうにも思い出せない。

 どうやら急いでいたから無自覚に、彼女のことをそう呼んだ様子だった。



「これで、わたしは立派な弟子ですね!」



 そんなことをアーニャは、心の底から喜んでいるようだ。

 僕の弟子になる、というのがそこまで嬉しいのか。どうして、そのように思うのかは謎でしかなかった。――だけど、いまはそれを考えている場合ではない。

 とにかく、水の確保に解毒の準備。

 それらを完璧にしないと、子供たちの命は救えない。



「ねぇ、リフレス。少し良い?」

「え……アリシア?」



 そう考えていると、不意に声をかけられた。

 その声の主であるアリシアは、なにか考え込みながらこう言う。



「リフレスはどう思う? ――水質の汚染について」



 それは、僕も不思議に思っていることでもあった。



「もしかして、アリシアも?」

「そう答えるってことは、リフレスも違和感を覚えてるみたいね」



 質問に質問、という形になったが。

 僕の言葉に対して、彼女は眉をひそめて同意を示した。



「リフレスの話が真実だとしたら、ラミレアの毒は自然に流れ出ることはない。仮に汚染された水源の近くに花が咲いていたとしても、根に細工をしない限りは安全」

「そうだね。ラミレアの毒薬っていうのは、元々は魔族との戦争時によく使われていたものなんだ。手頃に作れて、効果もあるから。でも――」

「それをいま、誰かが作っている」

「…………それも、水質が汚染されるほど大量に」



 考えたくはないことではあった。

 つまるところ何者かがラミレアの毒薬を作り、それを川に流していたのだ。そしてその毒素は、よりにもよって貧困に喘ぐ人々の生活を脅かしている。



「ここに住む人は、誰にも助けを求められない。……運がなさすぎる」

「いえ、それは違うかもしれない」

「どういうこと……?」



 僕の言葉に、アリシアがそう言った。

 そして、嫌悪感を隠さずに続けて語る。



「助けを求められないと分かって、ここに毒を流したのよ」――と。



 それを耳にして、僕の背筋は凍り付くようだった。

 彼女の謂わんとしたことは、つまり――。



「この被害は、実験だった……?」

「その可能性がある、ってことね」




 毒の効果を確かめるため、貧困街の弱い人々を食い物にした、ということ。

 何者かが、そのようにおぞましい行動を起こした、という可能性だった。僕は作業の手を止めて、しばし考え込む。

 だけど、まだ確証は持てない。

 対してアリシアは、ある程度の予想が立っている様子だった。



「思い当たる相手は、いるわ。とにかくムカつく相手、だけどね」

「それって、もしかして……」



 そこまで言われて、僕も一人の人物を思い浮かべる。

 それは、先ほどアリシアと話していた……。



「でも、まさか。彼はこの国の第二王子だよ……?」

「考えたくもないけど、あり得る話よ。アイツは、どう足掻いても『第二王子』なのだから」

「それって、つまり――」




 僕は冷や汗を拭うこともできないまま。

 アリシアの言葉の意図を汲み取って、こう口にしたのだった。





「アンドレ王子は、王位継承争いで毒を使おうとしている……?」――と。





 


面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




もしそう思っていただけましたらブックマーク、下記のフォームより評価など。

創作の励みとなります!


応援よろしくお願いします!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ