7.陰謀の可能性。
危険なかおり。
ろ過装置は、ひとまず材料さえ揃えば作ることができる。
筒状のものの一方に布を張り、小石から砂利、そして砂、形の粗い物から順番に入れていく。そこに泥水を注ぎ込み、しばらく待てば布から綺麗な水が滲み出てくるのだ。
僕はこの構造をみんなに説明した後、アーニャと一緒に薬の調合の準備をする。
「――師匠、茎の芯を煎じてからこっちの薬と混ぜるんですよね?」
「うん、そうだね。それで、次は……」
こちらの指示に対して、少女は一所懸命に応えてくれた。
要領も良く、物事の構造理解も早い。少なくとも十二歳当時の僕と比べれば、とにかく賢いという印象だった。
そんなアーニャはふと、こんなことを言う。
「そういえば、師匠。わたしのこと、アーニャって呼んでくれましたね?」
「え、そうだっけ?」
「呼びましたよぉ!」
言われて記憶を手繰るが、どうにも思い出せない。
どうやら急いでいたから無自覚に、彼女のことをそう呼んだ様子だった。
「これで、わたしは立派な弟子ですね!」
そんなことをアーニャは、心の底から喜んでいるようだ。
僕の弟子になる、というのがそこまで嬉しいのか。どうして、そのように思うのかは謎でしかなかった。――だけど、いまはそれを考えている場合ではない。
とにかく、水の確保に解毒の準備。
それらを完璧にしないと、子供たちの命は救えない。
「ねぇ、リフレス。少し良い?」
「え……アリシア?」
そう考えていると、不意に声をかけられた。
その声の主であるアリシアは、なにか考え込みながらこう言う。
「リフレスはどう思う? ――水質の汚染について」
それは、僕も不思議に思っていることでもあった。
「もしかして、アリシアも?」
「そう答えるってことは、リフレスも違和感を覚えてるみたいね」
質問に質問、という形になったが。
僕の言葉に対して、彼女は眉をひそめて同意を示した。
「リフレスの話が真実だとしたら、ラミレアの毒は自然に流れ出ることはない。仮に汚染された水源の近くに花が咲いていたとしても、根に細工をしない限りは安全」
「そうだね。ラミレアの毒薬っていうのは、元々は魔族との戦争時によく使われていたものなんだ。手頃に作れて、効果もあるから。でも――」
「それをいま、誰かが作っている」
「…………それも、水質が汚染されるほど大量に」
考えたくはないことではあった。
つまるところ何者かがラミレアの毒薬を作り、それを川に流していたのだ。そしてその毒素は、よりにもよって貧困に喘ぐ人々の生活を脅かしている。
「ここに住む人は、誰にも助けを求められない。……運がなさすぎる」
「いえ、それは違うかもしれない」
「どういうこと……?」
僕の言葉に、アリシアがそう言った。
そして、嫌悪感を隠さずに続けて語る。
「助けを求められないと分かって、ここに毒を流したのよ」――と。
それを耳にして、僕の背筋は凍り付くようだった。
彼女の謂わんとしたことは、つまり――。
「この被害は、実験だった……?」
「その可能性がある、ってことね」
毒の効果を確かめるため、貧困街の弱い人々を食い物にした、ということ。
何者かが、そのようにおぞましい行動を起こした、という可能性だった。僕は作業の手を止めて、しばし考え込む。
だけど、まだ確証は持てない。
対してアリシアは、ある程度の予想が立っている様子だった。
「思い当たる相手は、いるわ。とにかくムカつく相手、だけどね」
「それって、もしかして……」
そこまで言われて、僕も一人の人物を思い浮かべる。
それは、先ほどアリシアと話していた……。
「でも、まさか。彼はこの国の第二王子だよ……?」
「考えたくもないけど、あり得る話よ。アイツは、どう足掻いても『第二王子』なのだから」
「それって、つまり――」
僕は冷や汗を拭うこともできないまま。
アリシアの言葉の意図を汲み取って、こう口にしたのだった。
「アンドレ王子は、王位継承争いで毒を使おうとしている……?」――と。
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