☆彡 パパは家族を愛してる。
キミと言う名前の4歳の女の子が居ました。
キミが4歳になったのは、今から少し前のことです。
キミには家族が居ました。
それはパパと、パパと一緒の家で暮してるパパのお父さんとお母さんです。
キミは、パパのお父さんとお母さんの事を「おじいちゃん、おばあちゃん」と呼んでいました。
今年の春。キミが3歳の時まではママも一緒に暮らして居ました。
でもママはもう居ません・・・。
元気だったママは、キミにはあまり分からない病気にかかり、突然に死んでしまったのです。
病院で病気と分かってからママが入院してたのは、とても短い間だったので、キミの記憶にはママの元気な姿しか残ってません・・・。
今では「ママは静かに眠ってるんだよ」と、家族が言う、ママの眠るお墓に家族そろって行った時に「静かに眠れますように・・・」と、お祈りをする時にしかキミはママに会えなくなったと思って居ました。
キミはお墓の前に立つ度に心配になっていました。
それは、お墓の有る所は夏は暑いですし、冬は雪に埋もれてしまって苦しそうだったからです。
だから秋晴れのある日、キミはパパやお爺ちゃんやお婆ちゃんに。
「こんな狭まくて重たい石の下でママは眠ってて苦しくないの?」と、訊いたのでした。
するとパパは「大丈夫だよ。ママはね。キミや家族みんなに会う時にだけ、ここに来て、石の下で眠って待って居てくれてるんだよ」と言いました。
キミはとても驚いて「ええ!じゃあ、ママは何時もはどこに居るの?」と、パパに訊いたのでした。
するとパパは「それはね。夜になると見える夜空のお星様になって、キミやパパや家族みんなを見守ってくれてるんだよ」と、キミを見た後に青空を見上げて言ったのでした。
パパが見上げる、まだ明るい空を一緒に見上げたキミは、その青空の向うにある筈のママの星を探して居ましたが「でも・・・お星さまっていっぱいあるから、ママの星はどのにあるのかわからないよ・・・」と、不満そうに・・・そして悲しそうにパパに言いました。
するとパパはキミの肩にそっと手を置いて「そうだね。沢山の人が夜空の星になって居るからね。だから誰にも自分の家族の星がどれかは分らないんだ。でも、夜空のお星様になった人はね、時々、流れ星になって逢いたい人に逢いに来るんだよ」と言いました。
キミは「じゃあ、ママも流れ星になってキミに会いに来てくれてるの?」と、パパに訊きました。
「そうだよ。流れ星になって、お墓や、家族の住む家の窓辺にそっと来ては、キミや皆の様子を見てたりしてるんだよ。そしてクリスマスの時にはね、天使が見守るクリスマスツリーに飾られる星になって家族と一緒に過ごすんだよ。だから、流れ星を見たらね。星になった誰かが、この地上や水の上で暮す誰かに会いに来てるんだって・・・。そうキミも思って・・・誰かが逢いたい誰かに逢えますようにって、そう思ってあげると良いと思うよ・・・。」
キミにそう言って青空を見上げるパパは涙を流していました・・・。
パパの話を聞いて居た、おじいちゃんとおばあちゃんも泣いています。
時々はママに逢えるのだと嬉しくなったキミには、どうして皆が涙を流してるのか分かりません・・・。
キミはただ『早くママに逢える夜にならないかな・・・!』と、思っていました。
そして、今年のクリスマスにはママがクリスマスツリーのお星様になって、お家の中に帰って来るんだと思うと、それはそれは、とても待ち遠しいのでした・・・。
それからのキミは、お婆ちゃんと一緒に寝ているベッドの窓辺から、夜空を見上げては『ママの星はどれかな?』と思いながら、星々を眺めては話しかけていました。
それは、キミが自分の日常をママへ伝えることでした。
隣で寝るお婆ちゃんは、時々キミの頭を撫でながら、キミのママへのお話を何も言わずに静かに聞いてくれていました。
だから、お婆ちゃんはキミの日々の成長をとても良く知る事ができました。
ベッドから星を見上げるキミは、星になって見守ってくれてるママに話しては、時々おばあちゃんの方を見て「ママにはちゃんと聞こえてるかな?」と少し心配になって訊くのでした。
その時、お婆ちゃんはいつも「大丈夫だよ。ママにはちゃんと届いてるよ」と言ってくれました。
その言葉にキミは、なぜか分からない寂しさを飲み込んで、黙ってうなずき、お婆ちゃんに抱き付きました。
そんなキミの背中を、お婆ちゃんは優しく撫でます。
少しすると、キミは静かに眠り始めました・・・。
11月の終わり頃。
キミもパパも休みの日の事でした。
パパはキミに「今日は皆でクリスマスツリーを飾ろうか?」と言ったのです。
直ぐにキミは「じゃ!今日からママがお家に帰ってくるの!?」と、パパに訊きました。
パパは「ママは少しだけ遅くなるって言ってたけど、キミには必ず逢いにくるよって言ってたよ」と、キミに笑顔を見せて答えました。
「えぇ・・・そうなの・・・」
キミは今夜もママに逢えない事にガッカリとして寂しくなりました。
そんなキミを見たパパは「ちょっと遅くなるのはパパも残念だけど、ママがお家に帰って来られるようにさ・・・お爺ちゃんとお婆ちゃんにも手伝ってもらってクリスマスツリーを飾ろうよ?」と、優しく言ったのです。
キミは小さな声で「うん・・・」と、うなずきました。
パパは、パパが子供の頃にはお爺ちゃんが毎年繰り返しクリスマスツリーにしている植木鉢に入った小さめのモミの木を、家の庭から家のリビングへと運び込みました。
そうして、キミの家のリビングには、クリスマスツリーが飾られたのです。
その年のクリスマス・シーズンは、キミにとって特別でした。
それはプレゼントを貰えるからでは、ありません。
ママがお家に帰って来るからです。
そうです、パパの言ってたとおりに、ママはクリスマスツリーのお星様になって、久しぶりにキミやパパやお爺ちゃんやお婆ちゃんと一緒にお家で過ごすのですから。
だからキミは、クリスマスツリーのオーナメントを飾ってる時に、ママの星はどこにあるのか探していました。
でも、いくつものオーナメントが入れられてる箱の中には、前からある銀色の星が二つ入ってましたが、新しい星は無かったのです・・・。
不安になったキミは「パパ・・・ママの星が無いよ?」と、パパに訊きました。
するとパパは「ママの星はね。窓の外からキミが眠ったのを見たら、安心して、このツリーに来るんだよ」と、言いました。
思いも付かなかったパパの言葉に、キミは「うん!じゃ!今夜は早く寝るね!!そうすれば、ママが早くお家に帰って来られるもんね!?」と言って笑顔になりました。
パパが背伸びをしてクリスマスツリーの一番上に背中に翼のある天使の飾りを取り付け、クリスマスツリーの全ての飾りを終えた時には、キミはもう、夜が待ち遠しくてたまりませんでした。
でも、その夜・・・。
キミは早くママにお家に帰って来て欲しいのに、なかなか眠る事が出来ませんでした・・・。
だから、夜中にお婆ちゃんに抱き付いて「私が早く眠れないから、ママがお家に入れないよぉ・・・。」と泣いてしまいました。
そんなキミを「大丈夫だよ・・・。大丈夫だよ・・・」と、お婆ちゃんはずっと慰めてあげました。
そうして少しの時間が過ぎると、キミは涙を流したまま、お婆ちゃんに抱かれたままで眠ってしまいました・・・。
それから少しすると、キミとお婆ちゃんが眠る部屋のドアが、少しだけそっと静かに開きました。
するとお婆ちゃんは「もう、大丈夫だよ・・・」っと、小声で言ったのでした。
するとドアは、静かに締まりました・・・。
「ママ・・・!クリスマスツリーにママの星が来てる!!」
リビングでキミが喜びの声を上げました。
ママの星が気になっていたキミは、何時もより早く目覚めました。
それでベッドから飛び起きたキミは、自分が眠って居た二階の部屋から階段を駆け下りてリビングへと来たのです。
リビングに飾られていたクリスマスツリーには、昨日まで飾られていた二つの銀色の星の他に、少し大きな金色の星がありました。
それが窓から差し込む朝日を浴びてキラキラと光り輝いています。
それは、ママの星でした。
キミはとても嬉しそうにピョンピョンと飛び跳ねては、金色に輝くママの星に手を伸ばしました。
でも、ママの星はキミには届かない高さにあったので、キミは触れません。
「ママ!ママのお星さまに触りたい!」
振り返ったキミは、リビングに一緒に居るパパにそう言いました。
パパは「じゃあ。少しだけだよ。あまり触るとママも疲れちゃうからね?」と言って、キミを両手で抱き上げると、クリスマスツリーに飾られたママの星の高さまでキミを持ち上げてくれました。
細い糸で吊るされたママの星を間近に見たキミは「ママの星!ママ!ママの星!」と繰り返しては、その星にそっと触れ、そしてまた「ママ!ママの星!パパ!ママの星だよ!ママ!ママ!」と、言うのでした。
パパは「そうだよ。クリスマスだから、ママもお家に帰って来たんだよ」とキミの顔に頬を寄せて言いました。
窓から差す朝日に照らされるクリスマスツリーを二人で囲み眺めるキミは、とても幸せでした。
パパはそんなキミを優しげな目で見つめて居ました。
それから11月も過ぎ、12月も終わりになる頃のクリスマスイブには、キミが暮す家には、ママのお母さんやお父さんも遠くの家から逢いに来てくれました。
集まったみんなは、キミにもママの話を沢山してくれました。
キミはそんなママの話を聞いては、クリスマスツリーのママの星を見上げました。
そして、そんなクリスマスイブの夜は、誰も眠らないでリビングに居たので、キミは特別に、ツリーが見えるリビングのソファーで眠らせてもらう事ができました・・・。
眠くなってきたキミはソファーで横になり暖かな毛布を掛けてもらいました、そしてママの星を見上げながら、家族が楽しそうに話す声を子守唄の様に聞いていました・・・。
やがてキミは眠りました・・・。
キミがスヤスヤと眠ったのを見たパパや家族は、互いに顔を見合わせて安心した後に、小さな声で「メリークリスマス・・・」と言ってカンパイをしました。
そうして皆がグラスから口を離すと、誰もが少し寂しい顔になったのでした・・・。
それからキミは8歳になって一人でベッドで眠れるようになった頃までの毎年は、家族が揃うクリスマスイブを過ごすことができました。
ママの星は、何時もキミが眠ってる間にクリスマスツリーの枝に帰って来て、皆を見守りながら一緒にクリスマスシーズンを過ごしました。
そしていつも、クリスマスイブも過ぎて新年を迎えてから数日すると、キミが眠った後に夜空に帰って行ったのです。
キミが9歳になった後。
お爺ちゃんも夜空のお星様になってしまったのでした。
ママがお星様になった時は、キミはまだ、ママはママの姿でいつかはお家に帰って来る日があると思って居ました。
でも、ママの姿を見られるのは、ママが元気な時に撮られた写真だけでした・・・。
だからキミは思って居ました。
お爺ちゃんも、お星様になったらキミの前には二度と現れないと・・・。
だからキミは、ママが死んだ時とは違う気持ちでお爺ちゃんの死を感じて居たのです。
その年のクリスマスツリーには、もう一つ星が増えました。
金色のママの星とは違う銀色の星でしたが、初めからあった銀色の星とは違う星でした。
パパは「今年はお爺ちゃんの星もお家に帰って来たんだね」と、少し寂しそうにキミやお婆ちゃんに言いました。
お婆ちゃんは「ああ・・・。そうだね。そうだね」と、目に涙を浮かべては、ウン、ウン、と頷いて居ました。
キミが眠った後にクリスマスツリーに帰って来てくれたママとお爺ちゃんの星は、新年を迎えた後のある日の夜の、キミが眠った後に夜空に帰って行きました。
キミが11歳の時の11月の中頃の事です。
キミが学校の友達に「クリスマスの時期には、夜空のお星様になったママやお爺ちゃんが、クリスマスツリーのお星様になって帰ってくるから楽しみなんだ」と話すと、その友達に「11歳になってるのに、そんな大人の嘘を信じてるなんて、子供だね!」と言われて笑われてしまったのです。
キミはムキになって「本当だよ!パパやお婆ちゃんがそう言ってたんだから!それに皆の家族だって亡くなった人は夜空のお星様になってるんだから!」と言いました。
でも友達みんなは、キミのそんな言葉を信じてはくれませんでした・・・。
友達の多くがクリスマスに楽しみにしてるのは、家族が集まって、ご馳走を食べるのと、本当のサンタクロースは一度も見たことが無いのに、サンタクロースに宛てた手紙に書いた欲しいプレゼントがちゃんと自分に届くことでした。
だから、そんな友達の一人がキミに言いました「キミが知らない時に星が飾られてるなら、それはきっとキミのパパが夜中に一人で飾り付けてるんだよ!」と・・・。
その言葉にキミは返す言葉がありませんでした・・・。
その日、家に戻ったキミは、お婆ちゃんに訊ねました。
「ママとお爺ちゃんは、本当に夜空のお星様になってるの?」
するとお婆ちゃんは言いました。
「そうだよ。いつも遠い夜空から、キミやお婆ちゃんやパパを見守ってるんだよ」
「でも。学校の友達が・・・そんなのはウソだって・・・。死んだ人は夜空のお星様になったりしないんだって言うよ?」
キミの目には涙が浮かんでいました。
そんなお婆ちゃんはキミを抱きしめて言います。
「人はね・・・いつか死んだらお星様になるんだよ」
でもキミは、学校で習った事を思い出していました・・・それは、夜空に輝く星は太陽のような星で、それがとても遠くにあるから小さな光となってしか見えてないだけなんだと・・・だから夜空の星々の輝きは、死んだ人のものでは無いのだと・・・今はもう、そう思っていました。
でもキミは、その事をお婆ちゃんに言えませんでした。
学校で習った事が本当だと思うほどに言えなかったのです・・・。
もし、その事をお婆ちゃんに言ってしまったら・・・今までキミが信じてた事は、どうなってしまうのでしょう?
『家族にウソを教えられてたのなら・・・。
これからもパパやお婆ちゃんと仲良く暮らしていけるの?』
そう思うと、キミはどうして良いか分からなくなりました。
ただ、キミの心の中は寂しくて・・・そして・・・とても怖かったのです・・・。
キミは、その年のクリスマスツリーを飾るのも手伝いました。
その時にオーナメントが仕舞われてる箱の中をキミが最初に見ましたが、やっぱりママの星とお爺ちゃんの星は入ってませんでした。
キミは思いました。
『きっと、パパがどこかに隠してて。それを私が眠った後にクリスマスツリーに飾り付けてるのね』と・・・。
だから今度は、パパがクリスマスツリーにママとお爺ちゃんの星を取り付けてるのをコッソリと見ようと決めたのでした。
クリスマスツリーを飾り付けた日の夜。キミはパパが家の1階にある自分の部屋から出て来てクリスマスツリーに二つの星を飾り付けるのかと、2階にある自分の部屋のベッドの中で寝たふりをしながら待って居ました。
夜の10時を過ぎた時、一人でリビングに居たパパが自分の部屋に戻る足音と、ドアが閉まる音がしました。
キミは『この後はもう、パパが部屋から出て来るのを待って、そして、パパがクリスマスツリーに金色の星と銀色の星を飾り付けてるところを隠れて見るまでは、眠らない!』と、心に決めたのでした。
それからキミは、一度も眠らずに朝を迎えました・・・。
なぜなら、パパは朝まで部屋から出て来なかったからです。
とても眠いままで、フラフラと階段を降り、一階のリビングに入るとキミは直ぐにクリスマスツリーを見ました。
『やっぱり、そうだよね・・・。』
クリスマスツリーには、まだママの星もお爺ちゃんの星も飾られてませんでした。
だからキミは、今夜も寝ないつもりでしたが、学校に行かなくてはいけないので、お昼寝をする事は出来ませんでした。
なので、その日の夜のキミはパパの足音を気にしてるうちに、グッスリと眠ってしまったのでした・・・。
「あー!・・・。」
ハッと目覚め二階からの階段を駆け下りたキミはリビングに入ると直ぐに大きな声をあげました。
それは、ママとお爺ちゃんの星がクリスマスツリーに飾り付けられてたからです。
「どうして・・・ママとお爺ちゃんの星が・・・。」そう小声で言うキミに「昨日の夜に家に帰って来たんだね」と、パパは楽しそうに言いました。
「そう・・・なんだ・・・。」力無く、そう言ったキミでしたが、何だかパパが憎らしく思えてしまいました。
『次は、星が外される日を待てば・・・』と、そう思ったキミは、クリスマスが過ぎ新年を迎えた時にも、数日も夜に寝ないでパパの足音を気にして待って居たのですが、結局は眠ってしまい、その翌朝にはママとお爺ちゃんの星はクリスマスツリーから無くなっていたのでした・・・。
パパは「昨日の夜のうちに帰ったんだね」と、キミに言いました。
キミは「ふ~ん・・・。」と、少し呆れた様に答えました。
それからのキミは、素直な子供ではなくなりました。
それは、そんな年頃なら良くある事でしたから、キミが大人になってきたという事でもありました。
そんなキミをパパは少し心配してましたが、お婆ちゃんは何も心配しては居ませんでした。
キミは女の子なので、パパに相談しにくい事はお婆ちゃん相談してました。
お婆ちゃんは 「これはパパには内緒ね?」 と、キミが言った事は、パパには話さなかったので、キミは安心でした。
でもキミが14歳になった年の秋。
お婆ちゃんも、お星様になってしまったのです。
キミは泣きました。
毎日、泣きました。
学校に居る時も、急に悲しくなり泣いてしまうこともありました。
パパはとても心配してくれましたが、キミにはどうする事もできませんでした。
泣いて・・・。泣いて・・・。
泣いて・・・。泣いて・・・。泣いて・・・。
そうして、泣き疲れ・・・涙も枯れ果てたと思った時・・・。
キミは突然に思いました。
『自分の大切な人が死んだ時でも、悲しみの大きさが違うんだ・・・。』と・・・。
ママが死んだ時はキミはまだとても幼かったので、ママが居ないのはとても悲しかったけれど、いつかまたママに逢えると思ってました。
それに、幼い頃の時間は、今よりもとても長く感じてたので、ママが死んでから1年も過ぎる頃にはとても前の出来事の様に感じても居たのでした。
お爺ちゃんが死んだ時も悲しかったのですが・・・お婆ちゃんが死んだ今回ほどは悲しく無かったのです。
だからキミは、自分の心がとても残酷で汚れてる様に感じ始めたのでした・・・。
お婆ちゃんが死んでから、その年のクリスマスシーズンまでは、とても短い期間だったので、キミはクリスマスを楽しみに待つ事ができませんでした。
でもパパは違ってました。
もう今では二人しか居ない家なのに、いつもの年と変わらずクリスマスツリーの準備を始めたのです。
キミはそんなパパを見て「お婆ちゃんが死んで直ぐなのに、キラキラしたクリスマスツリーの飾りを楽しそうにする事なんて、私はできないよ!」と、言ったのです。
するとパパは少し驚いたようでしたが「クリスマスはね。楽しい事も、悲しい事も、全部一緒に迎えて、そして来年は、少しでも良い事が増えますようにって願ってするものなんだよ。だからね。今年はお婆ちゃんが死んでしまったから、お婆ちゃんがお星様になってお家に戻って来られるようにってクリスマスツリーを飾るんだよ」
パパの言葉を聞いたキミは、その後は黙ってパパを手伝いました・・・。
その夜、ベッドの中でパパの言葉を何度も思い出していたキミは、なかなか眠れませんでした。
それでも夜遅くになると、少しウトウトとしました。
すると、一階のパパの部屋のドアが開く小さな音が聞こえたと思うと、ハッと目が覚めてしまいました。
それからパパの足音を気にして聞いて居たキミは、そっとベッドを抜け出して、パジャマの上に寒さ避けにとガウンの袖に両腕を通し、静かに階段を下りて行きました。
そして、そおっとリビングのドアの前に立ちました。
リビングの扉は少し開いてました。
キミは同じ場所から見えるパパの部屋の扉も見ました。すると、リビングの扉と同じく少し開いてました。
多分ですが、扉の閉まる音でキミが気付かない様にするためにと、しっかり閉じなかったのでしょう。
キミはもう一度リビングの扉を確かめました。
『やっぱり少し開いてるけど・・・このままじゃ中が見えない・・・』
そう思ったキミは、そっと扉を押しました。すると扉は音も無く静かに開いていったのです。
リビングは小さな明かりしか点けられてませんでした。
キミはパパの姿を探しました。
するとパパはキミが思ってたとおりの場所に居ました。
それはクリスマスツリーの前です。
薄明りの中ですが、暗い場所に慣れたキミの目には、パパがクリスマスツリーの前で動いてるのが良く見えました。
パパは小さなテーブルをクリスマスツリーの横に持って来ていました。
そのテーブルの上には箱が三つ並べられてます。
キミは、パパがその中身を取り出す前に、それが何か分かって居ました。
『あの箱の中に、ママとお爺ちゃんの星が入ってるんだ・・・。そして、今年のクリスマスには・・・お婆ちゃんの星も飾られるのね・・・』
そう心の中で思ったキミは、パパが星を飾る様子を見る事にしました。
パパが最初に取り出したのは、お爺ちゃんの銀色の星でした。
その星を手に取ったパパは、独り言の様にして、その星に語り掛けながら、クリスマスツリーの枝に星を結び始めました。
「父さん・・・お帰りなさい・・・。今年は母さんが父さんの近くに行ってしまったから、僕やキミはとても悲しんでるよ。でも、父さんには今まで寂し思いをさせただろうから、これからは天国で二人仲良く暮らして下さいね」
そうしてお爺ちゃんの星を飾り終えたパパは、次は見た事の無い銀色の星を箱から取り出しました。
「お母さん・・・。今までありがとう・・・。お母さんがキミのお婆ちゃんで居てくれたから、僕はとても助けられました・・・。僕は父親で・・・男だから・・・キミが大人になっていく程に、僕ではキミの相談相手になれない事もあったろうと思うけど・・・ママが居なかった分を母さんが助けてくれてたんだろうね・・・。本当に今までありがとう」
リビングの入り口に立つキミは、少し寒い廊下で羽織ったガウンを抱きしめる様にして立ち尽くして居ました。
そして、その目には自分でも知らないうちに涙が滲んでました。
『パパ・・・。次はママだね・・・』
パパが最後の箱を開く様子を見たキミは、心の中でパパにそう語りかけて居ました。
最後の箱を開き、金色のママの星を取り出し両手の中に大事そうに抱えたパパは、少しの間、その星をジッと見つめて居ました・・・。
その時間、パパは何も語りません。
だからキミにはパパが何を思ってるのか分かりませんでした。
でも、パパがママの星に特別な思いを持ってる事はよく分かるのでした。
それからパパは、ママの星をクリスマスツリーに飾り付け始めました。
その時もパパはママの星に何も話しませんでした。
きっと、いっぱいママに話したい事があるはずなのに、パパは無言でママの星をクリスマスツリーに飾り付けていました。
その姿を見ていたキミは、薄明りの中で動くパパの姿がぼやけて見えてる事に気が付きました。
キミの目には大粒の涙が溢れていたのです・・・。
『パパは・・・ずっと・・・。ママが死んだ、あの年のクリスマスから・・・ずっと・・・こうしてくれてたんだ・・・!』
キミはもう、ここに立って居られなくなりました。
それは今にも大きな声を上げて泣き出してしましそうだったからです。
キミはパパに気付かれない様に、そっと、その場を離れました・・・。
それからのキミは変わりました。
気持ちに明るさが増し、自分がやりたいと思った事は、悪い事でなければ一生懸命やりました。
毎年のクリスマス・シーズンには、パパと一緒にクリスマスツリーを飾り付けました。
そして、やっぱりママとお婆ちゃんとお爺ちゃんの星は、キミが眠ってる間にクリスマスツリーに帰って来てくれました。
それからクリスマスイブには、ママのお父さんやお母さんを家に呼び、皆でクリスマスパーティーをして一緒に過ごしました。
そうして新年を迎えた数日後には、ママやお爺ちゃんお婆ちゃんの星は、キミが眠ってる間に、お空へと帰って行ったのでした。
それから何年も過ぎました。
大人になったキミは仕事をしながら結婚をしました。
結婚相手は、キミの思い描いてた理想とは違って筋肉質でパワフルな人でしたが、パパに似てとても優しい人でした。
結婚をしてから二年後には女の子が生まれました。
だからキミのパパは、お爺ちゃんになりました。
お爺ちゃんは、キミの子供をとても可愛がってくれました。
それからその子が2歳になった時には、男の子が生まれました。
とても嬉しい事ばかりが続いたと思ったのですが、それから何ヵ月か過ぎたある日、お爺ちゃんになったキミのパパは、病気になり、少しの入院をしただけで夜空のお星様になってしまったのです・・・。
キミはとても悲しかったはずなのですが、子育ても大忙しだったので、墓地でパパを見送る時も涙が出ませんでした。
ただ、抱き抱えてる小さな子供が泣き出さない様にとあやしてる内に、キミのパパの身体は土に戻されて行ったのです・・・。
それから1ヶ月ほど過ぎたある日。
子供を夫に見てもらって、キミは一人でパパの部屋を整理していました。
キミはまだ、パパがいつか家に帰って来るような気がしてたので、この日までパパの部屋に入る事ができなかったのでした・・・。
キミがパパの部屋のドアの鍵を開け中に入ると、パパの匂いがしました。
キミはそれだけで、胸がいっぱいになりました。
目を閉じて、じっと立つと、パパがすぐ側に居る気がして涙が出そうになりました・・・。
それから少しして気持ちを落ち着けたキミは、目を開き部屋の中を見渡しました。そこには、ついこの前までパパが使っていたベッドや机があり、読んでいた本や、好きな音楽のCDがありました。
パパの持ち物が、パパに使われる日を待ったまま残されてるとキミは思いました・・・。
キミは机の中を整理しようとすると、鍵の掛かった引き出しがありました。
キミはズボンのポケットから鍵を取り出し、それをジッと見詰めました。
「パパ・・・。パパが私にって最後にくれたプレゼント・・・開けるね」
キミは一人そう言うと、机の引き出しの鍵穴に鍵を差し込むとクルっと回しました。
その鍵はパパが入院してる時に、キミにそっと手渡してくれたものでした・・・。
カチャリと音がして鍵が開きました。
キミは静かに引き出しを引きました。
その中には、見覚えのある箱が並んでました。
それは、パパが一人でクリスマスツリーに星を飾っていた時に見たあの箱でした。
キミは三つの箱を取り出しました。
そして、一つづつその箱を開きました。
箱の中には、お爺ちゃんの銀色の星、お婆ちゃんの銀色の星、そしてママの金色の星がそれぞれ入っていました。
それから引き出しの奥をよく見ると、そこには、もう一つ箱がありました。
引き出しから取り出して見ると、それは真新しく見えました。
箱の中身は何だろうかと思い、キミがゆっくりと開くと、箱と同じく真新しい、金色の星のオーナメントが入ってました。
キミはそっと、その星を取り出しました。
すると、その下にはクリスマスカードが一緒にはいってました。
それはパパからキミへ宛てられたものでした。
『親愛なる我が娘キミへ。
夜空を見上げ星が見えたなら、私は何時もそこからキミを見守っているよ。そしてクリスマスには流れ星になって、この金色の星の中に入って皆と一緒にクリスマスを過ごしに来るからね。
キミと家族に、たくさんの幸せが訪れますように。
メリークリスマス!』
読み終えたキミは、嬉しさと悲しさで涙が止まりませんでした・・・。
今、初めて、キミは心の奥底からパパは死んでしまったと知ったのです・・・。
「パパには・・・もう、逢えないんだね・・・!」
涙が溢れるキミの瞼の裏には、あの日の夜にリビングのドアの隙間から見た、クリスマスツリーに家族の星を飾るパパの姿がハッキリと浮かんでいました。
そうしてママの星には何も語らずに、その金色の星を飾り付けるパパの姿が見えた時・・・キミは声を上げて泣いたのでした・・・。
お し ま い