弁当2
教室に戻ると頭を抱えたくなった。いや、昨日確かに今日も来ると言っていたが、ホントに来ているとは…………。
「ああ! 秋人先輩だぁぁぁああ!! お帰りなさーーーい!」
祐也と話していた流歌は秋人に気が付き大きく手を振って呼びかけた。テンション高めで嬉しそうなその声はよく通る。もしかしたら他の階にまで届いているかもしれない。
「声! 声が大きい! もっとポリュームを絞ってくれ!」
「あははは。ごめんなさい。大きい声を出す練習を一杯してたから、もう癖になってて! それで、先輩は購買に行っていたんですか?」
サンドイッチと飲み物の入った袋を見た。秋人は肯定しながら袋の中のものを机に並べる。
「随分早く来てたみたいだけど、依澄さん、昼飯食べたのか?」
秋人の席は流歌に占領されているので隣の席から椅子を引っ張ってきて座わった。
「へーー、先輩………私と普通に話してくれるんですね? 迷惑がられているかと思ってた」
「自覚してるなら自重してくれ」
「でも、話してくれるんでしょ? やっさしぃー!」
「そういう訳じゃない。ただ告白してくれた相手に冷たくするのは違うだろ」
正確には“告白してくれた”ではなく“話しかけてくれる”だ。確かに流歌のような人目を惹く存在から積極的に関わって来られれば、良くも悪くも目立ってしまう。それは非常に遠慮したいが、関わりたくないという訳じゃない。彼女が目立つのは彼女の個性だし、話しかけてくれる人がいるのは幸せなことだと身を持って体験している。それを蔑ろにしたくない。
ぶっきらぼうに答えると買ってきたサンドイッチに手を伸ばした。しかし野菜たっぷりのサンドイッチは先に流歌の手に収まる。ニタリと神秘的で小悪魔のようなイタズラ心満載の笑顔を浮かべて……。