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助け……た?

「助けた? 依澄さんを僕が……?」 

「そうです! アレは駅近くの商店街で酔っぱらいに絡まれているところを、颯爽と現れて……!」


 流歌の黒い瞳は夢をみてキラキラしている。少女漫画の読み過ぎではないだろうか? そんな王子様はどこにもいない。


「ゴールデンウィークは家でずっとゲームしてたけど?」

「……………………」


 流歌は口を閉じた。ゼンマイが切れたオモチャみたいにフリーズしている。


「じゃ、じゃあ今朝! 今朝の通学のとき! 駅で絡まれているところを……!」

「そもそも僕は徒歩通学だから」

「……………………」


 再びフリーズする流歌。こんなすぐにバレる嘘をついてどうするのだろうか。


「じゃ、じゃあ……」

「はあ。もう、いいよ」


 ほら、やっぱりそうだ。そもそも依澄流歌のように極上の女の子が言い寄ってきたこと自体おかしかったのだ。


「からかっているんだろ? あの女みたいに! 楽しいか?」


 この流歌の態度は実に不愉快だ。あの女のように騙そうとしているようにしか思えない。


「元アイドルだとか、顔が良いからとか…………。周りからチヤホヤされて良い気になって! 」


 あの女と重ねれば重ねるほど怒りが沸き立つ。もうブレーキは踏めなかった。


「甘い言葉で人を騙して、陥れて……! 人間のクズだな!」

「おい、秋人! それは流石に言い過ぎだ!」


 祐也に諭され落ち着きを取り戻した。確かに秋人の目には流歌の態度は不誠実だったかもしれない。だからと言って、あの女の影を重ねて怒りをぶつけるのは間違っている。


「あの……ごめん。言い過ぎた……」

「いえ。私の方こそ、先輩が恋愛にトラウマがあるって知っていたのに、配慮が足りませんでした」


 流歌は周囲を見た。随分と人が集まってきている。彼らにはちょっとした催し物が開催されているように見えているのだろう。


「人が集まって来ましたね。そろそろ頃合いなので今日はここで失礼します」

「今日はってまた来る気なのか?」

「はい! 先輩にはフラれてしまいましたが、それで諦めるほど先輩への気持ちは脆くありません!」


 立ち上がったるか膝の埃を払うと両手の拳をギュッと握った。


「先輩には絶対に私の恋人になってもらいます」

「だから、なんで僕なんだ?」

「秘密ですっ! でも本気ですっ! 信じてもらえないならこの場でキスをしたって構いません! 私のファーストキス、プレゼントしますよ?」


 流歌が唇に人差し指を添えて言うと秋人の心臓が飛び跳ねた。一瞬で真っ赤になった秋人を見て流歌はいたずらっぽく笑う。


「…………しますか?」

「しませんっ!」 


 純情な男子高校生の心臓にナパーム弾を軽々しく放り込まないで欲しい。


「ふふっ! 今日は先輩とお話できて良かったです。」


 くるりと回ってスカートをふわりと浮かせた。軸が一切ぶれず綺麗に見えるのは何百回と練習した賜物なのだろう。きっちりと秋人に背中を見せて止まる。


「秋人先輩。先輩は知らないかもしれないけど、私は先輩に助けて貰ったんですよ! それが先輩を好きになった理由です」

「また冗談を! いい加減に……」

「嘘でも冗談でもありません! 本当のことです」

「えっ? 」


 そう答えた流歌は数多の記憶の中から宝物を引っ張り出した。その時の流歌の人生は深い深い穴に落ちてどうにもならない状況だったが、秋人の取った行動が救いの梯子となった。その時の気持ちはこの先も一生忘れることはない。


 もっとも秋人には流歌を助けたという自覚はなく、混乱している。詳細を聞こうにも秋人が呼び止める間もなく流歌は人混みを割いて出ていってしまった。


「印象と違ってバイタリティがドバドバ溢れている子だったな。告白してたのに全く動じない度胸……。何万人の観客相手にライブしてただけあるわ」

「そう、だな」







 二人は流歌の胆力を褒めているが、彼らは流歌が教室を出た後、一目散にお手洗いに駆け込んだことを知らない。トイレの個室に入り鍵をかけた後、胸を押さえてドアに背中を預けた。


「撮影のときと全然違ったなぁ……」


 いつだったかドラマの撮影で告白したことを思い出した。その時は演技が上手くできるかで緊張していたが、今回は別の意味で……。


「本当の恋ってこんなに胸が高鳴るんですね、秋人先輩……!」


 真っ白な天井に漸く見つけた想い人の顔を映した。彼がいなければとっくに破滅してこの気持ちいい鼓動を感じられることなどできなかっただろう。心の中でそっと感謝を囁いた。


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