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依澄流歌

 依澄流歌はほんの数ヶ月前までアイドルだった。


 『なないろスカート』というグループのメンバーだったのだが二月に卒業と引退を電撃発表し三月にはその姿を芸能界から消していた。そして四月の入学式にはこの学校の生徒になっていた。


 ここまではこの学校の生徒なら誰もが知っている。それに様々な噂があることも……。


 何故人気絶頂の中、いきなり卒業したのか……?


 何故この学校なのか……?


 卒業発表から活動を停止するまでの異様な速さもあって色々な噂が飛び交った。ここ数か月で流歌は話題性に富んでいた。そして今もまた話題を供給している。


「あの……返事は……?」

  

 流歌が頬を赤らめながら訊く。その姿は男なら誰でも心を揺り動かされてしまう。


 流歌の大きな黒い瞳は少し潤み夜空のようだし、美声を発する唇は艶があり柔らかそうだ。人気アイドルグループのメンバーだっただけあって超がつくほどの美少女。そんな娘が恥じらいつつも勇気を振り絞った姿を見れば恋愛にトラウマのある秋人にだって感じるものは少なからずある。


「えっと…………」


『ねぇ! 私と付き合ってよ!』


 唐突に蘇ってくる過去の記憶。清楚な流歌とは正反対の派手な女、相沢に言われたときの映像。今なら紫色の口紅を塗った口は出鱈目しか言わないことを知っている。でも、あのときの秋人は疑うことも知らなかった……。


「…………ごめん。君とはつきあえない」

 

 キリキリと痛む胃を抑える。あの顔を思い出せば何時だってこうだ。腹が痛くなり首を絞められたような息苦しさを感じる。全部あの女のせいだ……!


「やっぱりそうですよね……」


 流歌が乾いた笑いを浮かべた。途端にクラスの男子から「ルカルカを悲しませるな!」とか「流歌ちゃんを振るとは何様だっ!」と罵声が飛び交う。彼女の人気っぷりが窺える罵声だ。誰かのために発せられた罵声なら浴びていても嫌な気持ちにならない。


 流歌は一旦顔を伏せると次の瞬間には何事もなかったかのように明るく振舞う。


「うん。でもまぁ……ここまでは予想通りなので問題ない、ですっ! 先輩、彼女いないですよね?」

「うっ……ん。まあいないのだが……」

 

 彼女がいないことは別にいい。欲しいとも思っていないのだから……。それでも、のっけから”いない”と決めつけられるのは癪に障る。


「だったら。問題ないですね! 私を彼女にしてください!」


 繊細な容姿とは裏腹に神経は図太いのだろうか? 


「いや、だから君とは……というか、もう、恋とか付き合うとかしたくないんだ」


 事情を知っている祐也が同情の眼差しを向けてくる。相沢に騙されて、イジメられていた暗黒時代、あのとき祐也がいなければきっと不登校になり中学も卒業できずにいただろう。


「第一、僕と依澄さん、初対面だよね? 好きになってもらう理由がない」


 秋人が言うと目をまん丸に見開いてキョトンとした顔になる。


「覚えていませんか? ゴールデンウィークの連休中、私、先輩に助けてもらったんですよ?」


 そんな記憶はまるっきし無いんだが…………人違いじゃないか……?








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