出会い2
タマゴサンドを口一杯に頬張りつつ、祐也は流歌の方を見た。いても立ってもいられなくなった生徒に囲まれている。
「オーオー! 噂に違わぬ人気っぷり! つーか秋人は興味無さそうだな」
カツサンドを飲み込んで祐也の方を向く。
「そんなことないぞ。実際すごいかわいい子だしな。ただ、僕には舞菜ちゃんがいるから。舞菜ちゃん一筋!」
「舞菜ちゃん、ねぇ…………」
祐也の顔には呆れた笑顔が浮かんでいる。そのままの顔で机の上に置いたままの秋人をスマホをチラリと見た。アイドル育成ゲームが開いたままで、長い銀髪の女の子が歌い踊っている。
「二次元も良いがそろそろ三次元と恋愛する気にはならねーか?」
「なる訳無いだろ。あんなことされたんだ」
「へぇーー。何をされたんですか?」
突然降って湧いた声に二人は驚く。テレビでは何度も聞いたが学校内では始めて聞く。清流のせせらぎのように澄んだ声。
「い、い、依澄流歌っ!? 」
祐也は驚きのあまりにタマゴサンドを落としそうになる。
「ハイ! 依澄流歌ですっ!」
初対面で呼び捨てにされたにも関わらす流歌は嫌な顔をしない。慣れているだけなのか心が広いだけなのか……ともかく曇りのない笑顔で敬礼して答えた。
「秋人先輩……ですよね?」
座っている秋人の視線に合わせる為に床に膝をつき、覗き込むように秋人を見る。
「そうだけど?」
秋人は何故名前を呼ばれたのか分からない。流歌との接点はまるで無い。アイドル時代のファンクラブに加入していた訳でもないし、ライブに行ったこともない。ましてや高校生活においては数回遠目に見かけたくらいだ。
「ようやく見つけた……」
流歌は小さな拳をギュッと握って勇気を振り絞った。まだ正午だというのに流歌の顔は夕日で照らされたように紅い。小さな手を胸の前で重ねて、祈りを捧げるようなポーズをしている。無論、秋人を信仰しているのではなく、手の震えを悟らせないためだ。
流歌は大きく息を吸い込み、心臓を落ち着ける。勇気の満ちた目で秋人を真っすぐに見ると、今日まで育ててきた感情を言葉に乗せて伝える。
「秋人先輩……! 私、秋人先輩のことが大好きですっ! 私とお付き合いしてください!」
「……………………えっ?」
突然の告白に言葉を失ったのは秋人だけじゃない。裕也も、そして聞き耳を立てていたクラス全員がその言葉の意味を理解するまでに数秒を要した。
そして、思考が追いついたとき全員の声が一つにまとまった。
「は、はああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
集まった人の驚いた声は雷鳴みたいだ。野次馬たちが「これは夢だ!」「こんな奴にルカルカが……。ありえない!」と騒ぎ出した。彼らが現実を疑うのも無理はない。入学早々、学校の人気争いの上位に食い込んできた美少女が、クラスの中でも空気のように地味な存在に告白したのだ。それも白昼堂々と野次馬のいる前で……。
まるで彼女の世界には秋人しかいないように、他人の目を気にしない。或いは自分の溢れんばかりの感情を伝えることに精一杯で他のことが見えていないのか……。どちらにせよ、恋は盲目とはよく言ったものだ。
短い言葉ながらも全部の感情をぶつけた流歌は満足感に満ちている。ゆっくりと秋人の返事を待った。