春・ねこ・カード
2021-03-14
安価・お題で短編小説を書こう!9
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>>482
締め切りに間に合いませんでしたので、供養枠での投稿です
使用お題→『ソーダ』『ふきのとう』『ババ抜き』『せいんと』
【春・ねこ・カード】
白いものが残る茶色い原っぱの真ん中に、四本足のテーブルが置かれている。
灰色の林を抜けて、しなびた落ち葉を踏み締めて、私は、その場所へと急ぐ。
「お待ちしておりましたにゃー」
「待ちくたびれましたにゃー」
「早く始めますにゃー」
仮面の人物が三人、テーブルを囲んでいる。その人たちの頭には猫耳が生え、はんてんのような上着の袖からは、小麦色の肌がのぞいている。
「ごめんなさい、色々と立て込んでて」
椅子を引っ張って着席する。
柔らかな地面は不安定、と言うか、椅子の座面が傾いてしまっている。
これでは座っていられない。
「ではカードを切りますにゃー」
テーブルの隅には、カードを重ねた山が二つと、表側を上にしたカードが一枚、横並びに置かれている。
もぞもぞと落ち着かない私をよそに、私の正面に座る人物が、一番大きな山を手に取る。
黒い仮面。
その奥に垣間見える瞳には、理知的な光が宿っている。
手にして数回、簡単に混ぜ終わると、隣の席に向かってカードを差し出す。
「では次の方ですにゃー」
「にゃーですにゃー。カードを切りますにゃー」
私から見て右側に座る、青い仮面の人物。
カードを受け取ると、心持ちゆっくりと切り混ぜる。
「では次の方ですにゃー」
「私ですね。カードを切ります」
差し出されたカードを受け取って——二セット分、とてもかさ張る——手早く混ぜる。
すぐに混ぜ終わると、今度は、私から見て左側の人にカードを渡す。
「早く渡しますにゃー。文字数稼ぎは沢山ですにゃー」
「はっ、はい」
白い仮面。素早くせっかちにカードを切って、黒い仮面の人に突き出した。
「ではカードを配りますにゃー。一まーい、二まーい、三まーい————」
五つのスートから一つを除き、四つのスートで五十二枚。その二倍あるので百四枚。更に番外のカードを一枚加える。
「————百三まーい、百四まーい、百五まーい。やっと全部配りましたにゃー」
「待ちくたびれましたにゃー」
「早く始めますにゃー」
私の手元には二十六枚。同じカードはペアとして、テーブルの中央に捨てる。
「にゃー。にゃーがコヨーテですにゃー」
青い仮面の人が声を上げる。番外のカードは、コヨーテのカード。
「そうですかにゃー。それなら、にゃーは少し安心ですにゃー」
黒い仮面の人がそう言って、手に持って広げたカードの裏を青い仮面の人に向ける。
「にゃー。どれがいいでしょうかにゃー」
青い仮面の人がカードを引く。
「あっ、これはラッキーですにゃー。ペアですにゃー」
言って、手札から二枚を捨てる。フキノトウのカード。
「春ですにゃー」
その瞬間、私たちの足元の、暗い色の地面に変化が起こる。
「次はあなたですにゃー」
「……はい」
黄緑色の、丸々としたものが、ぽこぽこと。あちこちに。
私はカードを引く。
「やりましたにゃー。コヨーテですにゃー」
真ん中辺りのカードを適当に引いたら、たまたまコヨーテだった。
私は、一度カードを切り混ぜて、要らないカードを目立たせるように持ち、白い仮面の人に差し出す。
「どれでも同じですにゃー」
白い仮面の人は、一枚だけ突き出たカードを迷いなく引いた。
「にゃー! コヨーテですにゃー……」
余程ショックだったのか、白い仮面の人は、黒い仮面の人に、今度はのろのろとカードを差し出す。
「どれがいいでしょうかにゃー……これですにゃー」
黒い仮面の人が、少し迷ってから、カードを引いた。
「にゃー! コヨーテですにゃー……」
*
ゲームは遅々として進まなかった。
「ワニのカードですにゃー。命日ですにゃー」
黒い仮面の人がカードを捨てると、どこか遠くで、すごい音がした。
「カブかライオンが欲しいところですにゃー」
「そうなのですかにゃー。にゃーはどちらも持ってないですにゃー」
「そうなのですかにゃー。それは残念ですにゃー」
青い仮面の人がカードを引く。引いたカードを手札に加え、並べ直し、何かを確認するように、手元のそれをしげしげと眺める。
「こっ……これは……」
青い仮面の人が手札を開示する。
「『セイント』チャンスですにゃー! 『せ』!」
出し抜けに声を張り上げる。カードの組み合わせは『コヨーテ』『クマ』『ヘビ』『ライオン』『ブロッコリー』『ナス』『カブ』————
「『ん』!」
「『と』! にゃー!」
何かの役だと思うけど、私には覚えがない。どういう効果だろうと思った、その時。
ぼふん!
と、私の頭上、いやむしろ私の頭そのものが間抜けな音を発して、それはつまり、私の頭が爆発した音だった。
「えっ、何!?」
慌てて頭に手をやると、そこには髪の毛の一本もなく、ただ二本の角のようなものが手に当たるばかり。
「折角のセイントチャンスでしたのにゃー。ところで、今検索したら、つい最近まで『セイ○トチ○ンス』という馬が登録されていたようですにゃー」
「世の中広いようで狭いものですにゃー」
「いっ……今の役はなんだったんですか?」
必死に心を落ち着けて質問する。
ねこたちは、仮面の顔を見合わせる。
「離散、にゃー」
「百年王国、にゃー」
「ねこですにゃー」
「墳墓の王、にゃー」
意味が分からない。
そんな私の気持ちを察してくれたのか。
「分かりましたにゃー。それでは一度だけやり直しですにゃー」
黒い仮面の人が助け船を出してくれた。
青い仮面の人が引き取って言う。
「そうですかにゃー。では改めて……『セイント』チャンスですにゃー! 『せ』!」
こっ、これは多分……。
「い……『い』!」
「『ん』!」
「『と』!」
正解だったようだ。そのまま全員身じろぎもせず、時間だけが経過する。
「これは不発でしたかにゃー」
「まだ分からないですにゃー。せっかちは良くないですにゃー」
「あっ、来ましたにゃー」
青い仮面の人が、曇り空を見上げていた。一筋の光が射し込んで、テーブルの上のカードを照らす。
声が聞こえる。
『ショータイムですにゃー。そーだ、大ナイカナ解放しよう、それとコヨーテ追加ですにゃー。代わりに一枚捨てますにゃー』
それだけ言うと、光は消えてしまった。
「分かりましたにゃー。ニャンダモのご加護ですにゃー」
「ソーダ? サイダーのことですかにゃー?」
「コーラかビールのことかも知れないですにゃー。早く終わらせて、飲みに行きたいですにゃー」
青い仮面の人が、テーブルの隅に残されていた山と、その隣のカード——コヨーテのカードだ——を手に取った。
最初にコヨーテのペアを捨てる。次に、カードを一枚、裏側を上にして捨てた。
「ではカードを配りますにゃー」
除かれていたカードが、手札に追加される。
「一まーい、二まーい、三まーい————」
私は天を仰いだ。元のカードですら、まだ何枚も残っているのに。
「————十まーい、十一まーい、十二まーい————」
ねこたちは、無心になって、配られたカードを確認している。
私も、新しいカードに目を落とす。
南風が吹き抜ける。
ここは私の夢の中。ここは常春の世界。ここは終わりのない迷宮。
照り付ける日差しへの憧れを胸に。
カードとねこたちを前にして。
私は、春の眠りに、身を委ねる。
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