第4話
「……見間違い、かも」
あれはだたの雨水かもしれません。
やはり余計なことをしない方がいい。
それに、ナンパみたいなこと、俺は絶対やらない!絶対だぞ! そんなことをやったら、俺は恥ずかしすぎて、死ぬだろう。
よし、戻ろうか。
「…………」
普段なら、俺は変な衝動を抑えて、そのまま帰るだろう。
だか、今回は何か違っていた。
具体的に何処か違っていたのは分からないけど。
でも、このまますれ違うと、俺はきっと————
後悔をする。
理由が分からないけど、どうしてもそうしないと、気がして。
————そう思いながら、俺の体は反対側に向けた。
「あの……!」
意識した時、俺は既に彼女に声を掛けた。
見知らぬ人に声を掛けるのは人生初めてかも。
「…………?」
彼女が足を止めて、振り返す。
「えーと、なにか御用でしょうか?」
「…え、えーと……その……」
顔は熱い、火が出るみたい。
自分の行動の意味が分からず、この場でどんな顔をすればいいかも分からない。
荒ぶる鼓動を意識の外に追い出しつつ、俺は言葉を探す。
「その……」
「…………」
少女は静かに俺を見つめる。
彼女の表情からはなにも判断が付かない。
あぁ、こんな時はどうすればいいの。
突然、千紗の言葉が俺の頭に浮かぶ。
『女の子はせめる男が好き、なので、声を掛ける時はクールで「キミ、可愛いね。一緒にお茶しない~」の方がいいと思う』
『そんな知識はいらない』
『えぇ、そんな~バカ佑弥~~』
ふむ……改めて考えてみれば、やはりそんな知識はいらない。
そもそも、あれを言うと、絶対怪しい人だと思われるでしょう。
頭痛い。何かいいセリフがあるかな。
考えろう……俺!
「あなた、大丈夫ですか?」
彼女は心配そうに俺を見る。
「あ、ああ……大丈夫です」
「………?」
とりあえず、冷静さを取り戻しため、俺は一旦大きく深呼吸して、気持ちを落ち着かせる。
その時、俺は一つ事を気づいた。
——彼女の身体は冷たい雨にびっしょりと濡れていた。
あ、そうだ。
「あ、か、傘……え、えーと……はい。 そのままだと、か、風邪……引くよ」
うまく言葉にできないけど、俺は傘を彼女に差し出す。
千紗から、傘を貰ってよかった。
ここはひとまず、俺の幼馴染に感謝します。
「えっ?私に……?」
彼女の視線の先を追うと——
「あはは、やはり変だよね……」
少女の視線が差し出す傘に集中した。
……千紗のせいで、こりゃ絶対変な人だと思われます。
「どうして?」
「どうしてって?……あ、傘のこと? それは、俺のものじゃないよ!!友達の」
何故か彼女に誤解されないように、俺が必死に説明しています。
「いえ、聞きたいのはどうして私に傘を貸したいの?」
「それか、なんとなくーー無意識というか……ぅ…… ごめん、俺もわからない」
「私は平気よ……」
「でも、俺が困るんだよ」
「どうしてあなたが困るの?」
俺の反応に、少女は小首を傾けて、俺を見つめてくる。
どうやら、彼女は本当に困惑している。
「このまま、びしょ濡れの君を放っといて帰ったら、あとで気になって、寝られなくなる……」
「あなたはどうするの?」
「俺?カバンがあるから大丈夫だ。それに、家も近いし」
それを言いつつ、自分のカバンを見させる。
「……あなたはお人好しなのね」
彼女の視線が地面に落ちていた。
「…………」
「…………」
単なる沈黙が、息が詰まりそうに感じる。
やがて、こんな状況に耐えられない俺が口を開けた。
「あなた………大丈夫か?」
「…………」
「大丈夫じゃない…かも……」
「え、どうしたのか?」
俺は、彼女の顔を見た。
―――もう地面を見てなくて、まっすぐ俺を見つめていた。
「私の……居場所が無くなった……」
「え?」
なんで? 親と喧嘩したの?
それとも、親に追い出されたの? だから泣いてるの?
俺はどうすればいいの? とりあえず、慰める方がいいかなぁ。
「えーと……」
俺が悩んでいるとき——
「フフフフ、ごめん、それは冗談です。 あなた、あまりにも、真面目な顔をしているから」
「ひ、ひどい!俺の心配を返せーー」
思わず、ツッコミを入れてしまった。
「あ、ごめん……」
「フフ、今月の家賃を払うのを忘れて、大家さんに追い出されただけ」
彼女の口元に、自然と笑みがこぼれる。
「なんだか大変そうだ」
「まぁね」
「えーと、さ……もし、よかったら、だけど……うちに来る?」
「え……!?」
こんなを話すと、俺自身も驚いた。
こ、これはかなり大胆な提案だ。
今日の俺はどうしたのか。
「い、いや、変な意味じゃなくて!」
「…………」
最悪だ。
初対面の女性を家に誘うなんで……
これは、ナンパ野郎ではないの!?
「……変な意味じゃない、んだよね?」
「は、はい、そうです!」
顔を見合わせて、俺が苦笑する。
「あのね……」
彼女が傘に手を取って、一度深く深呼吸してから……
「私、決めたよーー」
真剣な表情を見つめていると、せっかく落ち着いていた心臓の鼓動がまた早くなる。
「なにを?」
「応援してあげる」
「……?」
「桜井佑弥くん、あなたの恋を応援してあげる」
彼女は突然に俺に告げる。
「え?」
「…………よろしくね、桜井佑弥くん~」
彼女の言葉がよく聞こえない。
驚きすぎて一瞬頭の中が真っ白になった。
脳内では何度も先の言葉が再生していたが、その意味をまったく分からないけど——
「……ええええええええぇぇ!!!」
思わず、大きな声を出した。