第2話
「フフフフ……」
話している俺と千紗を見ると、早坂さんが嬉しそうに微笑んだ。
その微笑みがあまりに可愛くて、思わず見とれてしまっていた。
「千紗ちゃん、あまり桜井くんをいじめないでね」
「咲音ちゃんは佑弥を甘やかすぎ~~まるで、彼女さんみたい」
「いえ、そんなことないよ」
笑顔でそう言うと、胸が痛い―――
早坂さんにそんなことを言われるのが、こんなにもダメージがあるとは。
俺は思わず、視線を別方向に向いた。
「…はぁ………」
ため息をついた千紗が可哀そうに俺を見つめる。
「なんだ?」
「ご愁傷様~それと、わたし、これから帰りる。佑弥は?」
「俺はここで勉強します」
「勉強ね」
千紗がチラッと早坂さんを見て、意味深に俺の言葉を繰り返す。
「佑弥、偉いね? テスト前でもないのに」
「いや、別に……」
「でいうか、勉強というより、何かの下心を感じますね~~」
「そんなこと、あ、あるわけないだろう!」
「あらあら、顔が赤くなったよ~! もしかして、図星かなぁ~」
「ち、千紗~!」
千紗を捕まえようと手を伸ばしたが、さらりとかわされた。
「あ、そう言えば……」
千紗は俺の隣に腰をかがめた。
そして——
耳に吐息のような小さな声で呟いた。
「咲音ちゃんの新しい情報を得られたので、もし一緒に今日の授業を出だら、教えますね♪」
「え、新しい情報!?」
「なんて驚いた顔をしるの? 協力すると言ったでしょう」
「でも、今日の講義はちょっと…… それに、一緒に行くはちょっと……」
俺の言葉を無視して、千紗は早坂さんに声を掛ける。
「それじゃ、またね。 咲音ちゃんもバイバイ」
そう言って、千紗が背を向け、軽く手を振りながら、歩き出す。
「うん、バイバイ、千紗ちゃん」
「ふむっ…………」
早坂さんは俺の顔を心配そうに見た。
「桜井くん、一緒に行かなくても大丈夫?」
別に情報が欲しいわけではない、でも千紗の言葉を無視したら、後は大変なことになる。
ふむ……
少し悩んだが、椅子を引きずる音を立ってながら、立ち上がる。
「ごめん、やはり俺も行く」
「うん、わかりました……」
「それじゃあ——」
「あ、桜井くん、今日——」
早坂さんがなに言うよう時、俺の携帯が震えて、つくえをこここっと打ち鳴らした。
「ごめん。ん、メール?」
メールを確認すると、クラスのグループからのメッセージが入っていた。
クラスのグループから送られてきたのは、珍しいこのなので、俺は少し驚いた。
『今から点呼をとる』
件名だけで、すぐに用件がわかった。
「え?!」
思わず、声が漏れた。
「桜井くん、どうしたの?」
「や、やばいーー」
俺は慌てて走り出す。
や、ヤバい。
点呼をしたら、俺は千紗と一緒に授業をサボる事実が明らかになる。
単位はどうでもいいけど、彼女と一緒サボって、デートに行ったなど、クラスのみんなに誤解されることは絶対避けたいです!
特に普段は俺たちの関係につき、既にクラスメイトにからかわれている。
「あった」
幸い千紗は遠くまで行かなかった。
「はぁ、はぁ、やっと捉えました」
「佑弥?なによ?咲音ちゃんとのデートはどうした?」
千紗が不機嫌そうな足を止めて、俺を見つめる。
「あ、それとも、やはり咲音ちゃんの情報が欲しくなったの?」
「……ふぅふぅ……い、いや」
「ん?」
全力で走ったせいで、今はちょっと息がつかない。
とりあえず、俺はスマホ画面を千紗に見せる。
「点呼……だ──」
「………………」
「はぁ、はぁっ……ん?」
「………………」
「千、千紗??!」
「………………」
次の瞬間──
千紗が俺の腕にしがみついたまま教室へ走り出した。
「おい!なぜ俺も一緒!?」
「だまれ!これは一体誰のせいか!」
──これは大学生のごく普通の日常。
そして、経済学部である俺が、どうして心理学部の早坂咲音と知り合いになったのか。
その理由を語るには、半年前の出会いについて説明する必要があった。