第1話
「桜井くんも小説が好き?」
あまりにも突然の話しで、言葉が見つかりません。
「どうしてそう思うの?」
「あなたがここで小説を読む姿がよく見かけるので」
「そうか」
記憶の中で、大学に入ったら、俺は図書館で小説を読むのは二、三回しかないけど。
全部早坂さんに見られたのか……
「それで、実際はどうですか?」
「それは——なんて言うか……」
「…………」
真摯な瞳で見つめてくる。
そんな早坂さんに、俺はどう答えればいいのか。
正直、あの時小説を書くことをやめたあと、なぜか必死で勉強をしていた気がする。
そのおかげで、この大学に入学しました。
なぜだろう。理由までは覚えてない。
まぁ、小説を書くことをやめる理由も覚えていませんけど。
「うーん、強いて言うなら、好きです」
「どこが好き?」
「えーと、現実世界では、毎日変わらないし……それと違って、小説の中には毎日新しい展開がある……みたいな」
「そうですか……」
俺の返事を聞くと、早坂さんは真面目な表情をしている。
彼女が考えていること、俺には分からない。
「でも、作家が続きを書かないなら、新しい展開 もないよー」
「ん?そうかもしれない。 でも、それは仕方がない時もあるよ」
「そう……ですね……」
そう言うと、彼女は少し落ち込んだ顔になる。
どうすればいいのか……
「やめる理由が必ずある。 何かの契機があれば…もう一度小説を書くことも可能だと思う」
「…………」
「小説を書く人は、結局、誰よりも自分の小説が好き……彼らもきっと…諦めたくない……」
「ん、私もそう思います」
俺の話を聞いて、早坂さんはようやく笑顔を見せてくれた。
※※※※※※※
そう、小説を書く時の俺にとって、書いたヒロインは自分の娘より、恋人の方が相応しい。
主人公はもちろん俺です。
……振り返ってみれば、やはり恥ずかしい。
「親と子供みたいな関係だろう。だって、キャラを作ったのは作者だし……」
「やはり、桜井くんもそう思いますね」
「まぁ……」
「ところで、桜井くん」
「ん?なんだ?」
急に嫌な予感がする。
「好きな人が見つかった?」
「ふぅ……またその話かょ…」
そう、どうしていつもそんな話をしているかな。
「……で?」
「そんな簡単に見つかるものではないでしょう……好きな人は。 それに、俺みたいな人…誰が好きになってくれるよ」
自嘲するように俺は口元を歪める。
「…………」
「…………」
この沈黙が長くて辛い。
やがて、早坂さんは口を開いた。
「桜井くん、これは前にも話したが、もう少し学校のイベントや部活を参加する方がいいよ。 色々な女性と出会て、好きになって、リア充になって……」
「あぁ……うん……」
「そして、この席と図書館の静かさを——あー!」
早坂さんが何か思い出したように、意地悪っぽく笑いながら言ってきた。
「でも、あの時、ナンパみたいなこと、しないでね~軽い男だと思われるので」
「千紗みたいな言葉……」
「わたしがなに?バカ佑弥——」
「えっ?」
話し合いの途中、講義を受けているはず人が俺の名前を呼ぶのが聞こえた。
「どうして佑弥はここにいる?」
振り返ると、拗ねた表情をして黒髪の女子が俺の後ろに立っています。
俺よりも背が低い少女の薄紫の瞳は冷たい。
「あ——ち、千紗?」
「えっじゃないよ……全く、今は林教授の講義でしょ~」
彼女は『長瀬千紗』だ。
俺と同じ大学に進学した同じ年の幼馴染です。
俺たちは物心ついた頃から、何をする時でも、どんな時でも、ずっと一緒にいた仲です。
外見だけで見れば、千紗は清楚なお嬢様の雰囲気を醸し出していたけど、子供のころから一緒にいる俺から言うと…………
彼女は猫をかぶっている。
「ん?佑弥なんか失礼なことを考えていませんか?」
「い、いえ、そんなことするわけないだろう」
「あんたが考えていることがバレバレよ。 っで、あんた、サボり?」
千紗は俺と同じく経済学部に所属しているので、俺達は同じ講義を受けている。
「あ……お前も?」
話を聞くと、千紗は少しムッとした表情を浮かべたあと——
「ふぅ……」
呆れたような顔をしてため息をついた。
「あんたと一緒にしないて」
「ん?」
「佑弥……あんた、メール見ってないでしょ?」
「メール?」
「ほら、いつもなんだから」
ポケットから携帯を出して、確認すると、新着のメッセージが1件入っていた。
「ごめん、メールの確認が忘れた」
俺の返事を聞いて、千紗が眉をひそめた。
そもそも、千紗みたいな優秀な学生、講義をサボるのはほぼ不可能です。
そうでしたら、残る可能性が一つ。
「あ、もしかして、今日は休講?」
「バカなの?寝言は寝て言いなさい」
千紗が大きなため息をつく。
「うっ……」
「私今日生徒会の会議がある、講義に出席できないかもしれません」
「あぁ、そっか」
我が校の図書館の上層に生徒会室専用の会議室がある。
そして、帰る途中で、俺と遭遇したのか。
「今日林教授が出席を取る可能性が高いので、あんたにメールして、講義は絶対に行くって」
「なるほど」
「私がバカみたいなことをやったなぁ」
「あはははははは、ごめん」
林教授はとても厳しい教授で有名だ。
でも、サボりたい時、どんな先生にも関係ない。
それに——
「でも、俺の学籍番号ははかなり後ろので、万が一の時、ここから教室へ走って、ギリギリ間に合うと思います」
「さすがスーパーバカ佑弥~♪」
「はぁ?!いきなりバカって」
「月曜日の講義は専門棟の五階の大教室でする。 たとえ佑弥が全力で、死ぬ気で走っても、間に合わないよ」
そうか。
今日の講義は五階の大教室ですることはすっかり忘れてしまった。
「あらあら、そんな顔して……もしかして、佑弥はそれを忘れたの? もし点呼を取ったら、違う教室に入るつもり?」
「…………」
「想像したら、面白すぎ~!」
「う、うるさいー!」
そう、俺の幼馴染外見はお嬢様っぽいけど、中身の性格がかなり悪い。
そして、私をからかうのが彼女の大きな楽しみになっているんだ。