第14話
「むぅ、あんたが先に答えて」
彼女が唇を尖らせて拗ねる。
強引な態度をする千紗に首を横に振る。
仕方がない——
「ないよ 俺たちは付き合ってない」
軽くため息をつく。
「はぁぁ~満足した?」
「でも、『佑弥くん』はどういうこと?」
「え?」
「わたしはこの目で見たよ 今日お昼の時」
「あ、あれは……」
苦笑いを浮かべながら、状況を説明した。
これ以上、面倒な状況にならないため、一ノ瀬さんのことを隠した。
「つまり、あるしつこい女からからかわれたので…諦めさせるために、咲音ちゃんはあんたのニセ彼女になった」
「えぇ」
「勘違いの可能性は? あんた、モテないし」
「ないと思う それと、その言葉、ひどいよ」
「事実だもん それにしても、なんだか可哀相だね」
妙に残念そうな声で言われた。
「まぁ」
「あんたのことじゃない 咲音ちゃんが可哀想だ ニセ彼女とは言え、あんたの彼女なんて……はぁ~」
やはりそうことになった。
「…………」
「あんたは本当に面倒な男だなぁ 告白を受けたら、大学の入学式ときの願いが叶ったでしょう」
「ほっとけ それに、俺が好きなのは……彼女……だけです」
「あはは、そうですね 佑弥は一途な男だもんね ニセ彼女としても、あんたも嬉しでしょ」
図星を突かれてしまい、息が詰まる俺だ。
「黙ってるってことは、図星なんだぁ~」
「う、うるせぇ……では、俺の質問に答えて 今日の講義、あなたがいら立つの理由はこれですか?」
千紗の目を見ながら、彼女に聞く。
「…………!」
すると、彼女の目が泳いでいる。
「フフフ、もしかして、嫉妬した?」
「だ、誰か嫉妬したのよ!」
突然、沸騰するように大声をあげる長瀬千紗。
そんな彼女を見ると、俺は嬉しそうに笑った。
主導権がこっちに戻ってきた心地になった。
「もしかして、俺のことが好きになった?」
俺がからかうように言う。
「死ね、千回死ね!!バカ佑弥!!あなたのような男を好きになるのは有り得ない あんたはわたしの理想の男性とは全然違う!」
「だろうね、なら安心した……」
「ふんっ、面の皮が厚い男」
謎な暗黒のオーラを纏い始めていた千紗は声を上げた。
不愉快そうな顔をしているけど、本気で怒っている気が感じません。
「もう今後あんたと咲音ちゃんのことが協力しません 咲音ちゃんの情報はもう教えません」
「………………」
「うわ、こんな酷い人がこの世にいるなんて、信じられない…もう佑弥なんか知りません」
それを言いながら、千紗の視線は別方向に向けた。
俺と話す気がないという様子を晒していた。
「……とか言って、掃除する人がないので困っているでしょう」
「な、なんですってっ!?そ、掃除ぐらい一人で出来るし」
「え~家事を全然やらない“お嬢様”はいつ掃除できるようにしたの?」
千紗は俺の話しに対して、頬を膨らませて不満を露わにしている。
早坂さんとの関係をうまく進めるのと引き換えに、俺は千紗の生活の世話をする。
「おやおや、図星かなぁ?どうせ……いて!足を踏まないで、お前、子供かよ!!」
全力で俺の足を踏んだ痛みを感じました。
「それでも、ゲームと家事しかできない佑弥よりマシだと思う」
「いやいや、家事ができるかどうかは重要だと思いますよ。お嫁さんになりたいなら……ゲームも——」
「あ、ごめんなさい。ゲームではわたしに負ける実力だっけ?」
「………………」
立場が一瞬に逆になった。
「ぐ……くそ、次は絶対勝!!」
いかに不服だとしても、俺は歯を噛みしめながら、小さな声で返事した。
「ハイハイ、冗談はそのぐらいにして」
「冗談じゃない! じゃあ、あとはゲーセンでもう一度勝負しよう!」
「いいよ」
千紗は得意げに胸を張ってきた。
負けを認めると、彼女も満足そうなドヤ顔をして悦に入った。
「ぐぬ……くそ!」
屈辱を味わった。
「あ、佑弥、いた!探したよ~!」
突然、中原先輩が自然に俺たちの教室に入ってきた。
そんな突拍子もなく、後輩の教室に入って、声を掛ける度胸なんて……
さすが先輩です。
「え?中原先輩、なにかあったのか?」
「次の合コンの件なんですけど、前回俺たちと一緒に合コンをした……」
「合・コ・ン?」
千紗の殺気を帯びた視線が発見したのか、中原先輩の言葉が詰まってしまった。
どうやら、彼も少し緊張していた感じがした。
そんな表情をしている千紗の前に、緊張しない方が難しいです。
「千、千紗ちゃん!?ハロー~」
「おひさしぶりです、中原先輩」
「久しぶり、千紗ちゃん」
「“ちゃん”をつけないで、先輩」
ニヤニヤしてる中原先輩の前に、千紗は冷たい態度を取っている。
「あははは、厳しいなぁ、千紗ちゃん」
「…先輩は佑弥に何かご用がありますか? それと、合コンはどういうことでしょうか? ちゃんと説明してくれませんか?」
千紗が中原先輩に次々に質問をぶつける。
「えーと…………」
「次の合コンはどういう意味ですか?」
対して、中原先輩はゆっくりと後退し、額に汗を浮かぶ。
「い、いや、お、おれは単純後輩に挨拶をしてきた、それじゃあーー!」
あ、逃げた!
ひ、ひどい、合コンの問題を俺に残し、中原先輩が逃げた!!
頭が痛い……
俺も逃げよう。
うんうん、そうしよう。
「あ、俺もそろそろ帰え……」
「佑弥、待ちなさい——!」
千紗が立ち上がろうとする俺の腕を掴まれ、強引に席に座らされた。
「中原先輩がいないので、佑弥が代わりに説明してくれ。合コンはどういう意味?」
「えーと、そ、それは…あ、グループが交流するために行われる食事会です」
そう言いながら、俺は誤魔化すように視線を逸らした。
目を合わせると、絶対バレると思ったから。
「そういう『意味』じゃなくて、男女が出会いを目的として行われる飲み会のことです。 あんた合コンに参加したの??! 知らないふりをしないで」
「あはははははは…………」
「…ふう……」
俺を見ながら、千紗は大きなため息をついた。
「やはり行ったね……」
「うぅ……っ」