第13話
「え?」
俺の話を聞いて、早坂さんは、一旦手の動きを止めての動きを止めて、驚く表情で俺を見つめる。
「…?……あ、違います!」
少し頬を染める早坂さんを見ると、俺も気づいた。
急に恥ずかしくなってくる。
「それはニセの彼女の意味です!」
視線を明後日の方向へ向けた。
緊張のせいで、声も少し震えています。
「ほら、一ノ瀬さんはしつこいので、もし彼女がいれば、彼女もきっとあきらめると思う」
「…………」
「でも、難しいなら、断るのも大丈夫です! 俺が勝手に頼むから、あははは」
「…………」
「それに、千紗に頼めますし 俺たちの関係を知らない人は……」
慌てる俺とは対照的に、先からずっと沈黙している早坂さんは落ち着いた様子で微笑み、言葉を紡ぐ。
「いいですよ」
「え?」
思わぬ返事に、ビックリした。
「えーと、早坂さん、先の言葉、もう一度伺えますか?」
喉が渇いて、何度も唾を飲み込む。
「いいよ 彼女になってあげる」
「…………!」
嬉しすぎて、言葉は失われた。
「でも一週間だけです。 その間に、一ノ瀬さんのことを解決するよ」
「ええ、十分です」
「それと、千紗ちゃんにちゃんと言った方がいい……ニセ彼女のこと」
「あぁ、分かった 午後の授業の休み時間に千紗に話します」
「うん、よろしい」
心臓の音が、うるさいくらいに大きくなっていく。
周りの声も消えたみたい。
「どうして……千紗ちゃんの時も……」
早坂さんは少し溜めてから小さな声で呟いた。
すると俺の視線に気づいた早坂さんが、誤魔化すように視線を逸らした。
「どうした?」
「なにもない」
彼女の表情は少し気になる。
でも、今は早坂さんのことで頭いっぱい。
「ごちそうさまでした。 あ、そろそろ授業の時間ね」
早坂さんが席から立ち上がる。
「そうですね、俺も行かないと」
俺も慌てて立ち上がった。
「あ、あれは何ですか?」
早坂さんの向けた視線を追いかけると、特に何もない。
「ん? 何かあるの?」
「えへへ、見間違えた。 それじゃあ、また後でね……佑弥くん」
「あぁ、また……え?!!!!!!!!」
佑弥くん?!
頭が真っ白になった。
意識した時、早坂さんは既にこの場から離れた。
「!!!!!」
顔が熱くなるのを感じながら、鼓動もますます速くなる。
「ふぅ……落ち着け……本当の彼女じゃない」
大きく息を吐く。
彼女の後ろ姿を見ると、俺は思わずにそう思った。
やはり、俺は彼女のことが好き。
「ん?」
ほんの一瞬、その姿をある人と重ね合わせた。
※※※※※※
午後の休み時間。
「あっ、千紗……ちょっといい?」
席に着いて、俺は真っ先に前に座っている千紗に声を掛けた。
「…………」
明らかに俺を無視している。
どうしたの?
「おい、千紗?」
「…………」
「千紗様? 千紗お嬢様?」
俺は千紗の肩を叩いた。
「用件はなに?」
彼女は振り返ずに返事した。
不機嫌な顔をしている千紗は真面目にノートを見ている。
その意外な態度に俺は小さく驚く。
「どうしたの? 何かあったの?」
好奇心を抑えることはできず、俺はそっと尋ねた。
「何でもない」
やはり、彼女の態度は変だ。
「あ、もしかして……生理?」
声を抑えて、彼女に聞く。
「あんた、死にたいの?」
どうやら、どこの誰が彼女に怒らせた。
「一体何があったの? 話してごらん~」
俺は立ち上がる。
そして、彼女の隣の席に座る。
「邪魔しないで、今勉強している」
「まぁまぁ、相談に乗ってあげるから」
「…………」
「それに、授業はまだ始まっていない あとで勉強するのも大丈夫です」
「うるさいよ、桜井くん! 何でもないっと言ったろう」
千紗は怒りで声を上げた。
「千紗、どうどう。 教室で大声出すな!」
クラスメイトたちの視線も俺たちに集中している。
「分かったら、自分の席に戻りなさい」
それを言いながら、千紗の視線はノートに集中した。
俺と話す気がまったくないという様子を晒していた。
今の彼女は本気で怒っているみたいだな。
「なんで怒ってんだよ?」
「別に、怒ってない」
「怒ってるだろ」
「怒ってない」
「…………そう」
俺はなにもやってないのに、ただ彼女のことを心配しているんだ。
なんで怒ってるんだよ。
軽くに鼻をなでながら、俺は自分の席に戻るとちょうど担任の先生が教室に入って来た。
「ん?」
突然、丸めた紙を俺の机に投げられた。
『あと、教室に残って 聞きたいことがある』
前の千紗をチラッと見る。
『いいよ』
紙を投げ返す。
でも、彼女はその内容を見ず、その丸めた紙を捨てた。
ん? どうして?
ふと気づいた。
「あれは…命令か……」
ため息しながら、俺は首を横に振った。
※※※※※※
「それで、聞きたいことはなに?」
冷たい瞳で俺を見つめる。
「なんだ?」
「いつから付き合ってるの?!」
「付き合う? 誰が誰と付き合っている?」
「知らないふりしないで あんたと咲音ちゃんのこと」
「ぷう……誰がそれを言った? 早坂さん?」
「本当ですね わたしに隠して付き合っているよね」
そのまま、ふんっと鼻を鳴らす千紗。
そんな彼女を見ながら、俺は思わずに笑った。
「あはははははは……」
「?」
「あはははは」
困惑している千紗が俺の足を思い切りに踏んだ。
「痛い、痛いよ、千紗」
「ぷん」
「千紗、お前の想像力が高すぎ 俺と早坂さんの関係、あなたが知らないの?」
「あんたと咲音ちゃんはどんな関係ですか?」
「さあ、どんな関係でしょう~」
「……では、あなたと咲音ちゃんはわたしに隠して付き合っていることは本当かどうかを答えて」
「知りたいの? じゃあ、教えて 今日の講義、あなたがいら立つの理由はこれですか?」