第11話
金曜日の昼。
あの日の合コンから何日経った。
教室で昨日の講義で出た課題を軽く片付け、一息つく。
あの日から、俺は一ノ瀬さんと一切連絡をしてない。
一度渡されたメモ紙を探したが、どうにも見つからない。多分ごみとして捨てられた。
まぁ、同じ大学だし、彼女も千紗の知り合いだし、万が一俺に何か用があるなら、千紗を通じて俺に伝えことができるし。
心配する必要はない。
「腹減った、食堂に行くか」
本を鞄に入れて、俺は椅子から立ち上がって、学食へと向かった。
「人が多いな…って、早坂さんは……」
周囲を見渡す。
千紗今日も生徒会の用事があるそうで、一緒にご飯を食べに来られないを言いました。
早坂さんは大体いつも俺より早く食堂に来て、俺を待ってるんだけど。
彼女……まだ来ていないみたい。
「……とりあえず、先に席を確保しないと」
早坂さんにLIMEを送ってみるか。
『お昼は何にする?俺は先に買って、食堂の席を確保しますね。』
少し遅れて、返事が来ました。
『すみません、すぐに行きます
昼ご飯はカレーライスをお願いします~』
『オーケー』
『桜井くん、ありがとうヾ(•ω•`)o』
「へへへへー」
やはり、早坂さんは可愛いなぁ。
俺はニヤニヤして、毎日食べているうどんとカレーライスの食券をもとめて、券売機に向かった時だ。
「中原!待ってー!」
「どうした?」
後ろのほうから、一ノ瀬さんと中原先輩に似た声が聞こえた気がした。
一緒に合コンを参加したし、知り合いになるのは普通だろう。
あ、そう言えば、ちょうどLIMEの件につき、一ノ瀬さんに謝らなきゃ。
後で連絡するの約束を破ったから。
よし。
決めた俺は急いで食券を購入し、それをポケットに押し込み、食堂を後にした。
「あ、いた」
一ノ瀬さんは中原先輩となにか話している。
「……長瀬……桜井さん……あいつ」
「……まぁ……しかたがないよ」
うすうすと俺と千紗の名前が聞こえるようだ。
好奇心から、俺は物陰に隠れるようにして、ふたりの会話に聞き耳を立てた。
「俺にもわからないよ」
「……っ……ぅ……」
「本当だってば」
「……っ……つっ……ぁ」
中原先輩の話は聞こえるけど、一ノ瀬さんのほうはよく聞こえない。
「だから、俺はただの紹介役です」
「…ぁ……ぅ…」
「次の合コン?」
「っ……ぅ……」
「別にいいけど、どうして--」
「っ……」
合コンの話か……。
入りづらいなぁ。
二人がすごく盛り上がってるから、とても声をかけられないので、とりあえず、俺は食堂に戻った。
※※※※※※
『入ったら、右から5番の席』
『了解~!』
早坂さんにメールをした後、携帯を机の上に置く。
目の前のうどんから食欲に訴えかけるいい匂いがする。
「いただきます……うん」
出しのきいた汁が口いっぱいに広がる。
「んー、美味いぃぃぃぃぃ」
ひとくち食べただけでも、舌から頭へ美味の快感が貫いていく。
俺は食堂で一人うどんを食べるとき——
「あ、桜井さん、発見!」
声を掛けられた。
「ん?」
「また桜井さんと会えるのは楽しい」
顔をあげると、目の前に立っているのは嬉しそうな一ノ瀬さんです。
どうやら、中原先輩との話しが終わたようです。
「桜井さんは、友達を待てるの?」
「あ、あぁ」
「長瀬さんですか?」
「い、いえ、別学部の友達です」
「そうですか。あのっ……あのね」
一ノ瀬さんが俺の隣の席に腰を掛けて、俺の手を包み込む。
彼女が桃色に紅潮した表情で、潤んだ瞳で俺を見つめている。
う、ううん……一体何なんだろう。
何かすごく色っぽい。
一ノ瀬さんの瞳に吸い込まれそうな感覚がする。
箸を止めて、俺は一度生唾を飲み込む。
「ど、どうしましたか?」
「あのね……さ、桜井さん、私のこと嫌い?」
彼女の言葉はあまりにも突然すぎて、俺は吹き出した。
「ん?!ぶは、げほっ……」
「さ、桜井さん大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫……うぇ、げほっ、ちょっと驚いただけ……げほっ」
「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
ばつが悪そうな一ノ瀬さんに、何度も頷いてやる。
「い、いえいえ。き、嫌いではないけど……急にどうした?」
「だって、桜井さんは全然連絡してくれないし、あたしのこと嫌いなのかな?っと思って」
そういうことですか。
「あ、あれは……」
「あたしと約束したのに~」
一ノ瀬さんがここまで気にしてるとは思わなかった。
「ごめん、わざとじゃないんですけど……」
慌てて視線を逸らす。
「帰った後、メモ紙はなかなか見つかりません…ので…けして一ノ瀬さんのことが嫌いではない」
「そうですか……よかったです……」
俺の話を聞いて、安堵の表情を見せる一ノ瀬さん。
「では、そんなうっかりさんに……」
彼女がテーブルに置いた俺の携帯を手に取った。
「ん?」
「はいー」
何か文字を入力された後、俺の携帯を返した。
「あたしのLIMEの連絡先を入力したよ」
「お、おう」
携帯の画面を見る。
一ノ瀬さんの連絡先が登録された。
えーと、何て言えばいいのか……
女の子の連絡先を貰うのはやはり少し嬉しいです。
「来、来週の休日……桜井さんは何かご予定とかあるんですか?」
「いや、ないけど」
まさか、それは——
「えーと、その……じゃあ、あたしとどっかに出かけませんか?」
二人きりで出掛けて……
これはデートの誘い?!
一ノ瀬の顔を赤くして、ぷいとそっぽを向いてしまう。
何か彼女は勇気を振り絞って、誘うんたらしい。
まぁ、彼女は俺が合コンに行ったことを千紗に内緒したし、LIMEで連絡するの約束も破られて、気持ちが申し訳ないし。
「いいけど……」
「じゃあ、約束だよ♪……あのね、先日の告白ですが、返事を聞かせてくれませんか?」
「あ……!」
どうやら、一ノ瀬さんは本気らしい。
こんなときはどうすればいいの。
急に、一つ考えが頭に浮ぶ
「でも、お、俺は彼女がいるので、二人で出掛けのは難しい」
「……え? 彼女って、恋人の彼女ですか?」
「はい」
一ノ瀬さんの顔は一瞬に暗くなった。
「でも、合コンの時、中原先輩が……」
「あ、それは、前日、付き合ったばかりので」
「そう、ですか……」
「二人とも、なに話しているの?」
————と、早坂さんがやってきた。