08 レンタルで1秒1円
葬式の翌日。
僕は早めに学校に来た。
そして裏庭に行く。
ここで奴を仕留める。
仕掛けは用意しない。
笹の体を壊さない為だ。
あの中身を殺さなきゃいけない。
僕は布に包んだ自分の背丈の半分ほどのものを茂みに隠し、下駄箱へと行く。
あとは待つのみ。
少し下駄箱で暇を潰した。
あいつが来るのを確認しなければいけない。
数分後。
僕の予想通り、笹は学校に来た。
彼女を演じるならまず来る。
やはり当たりだった。
「くけっ、元気だったかい?指揮先輩?」
いつもの笹の笑顔。
偽りだとは思えない顔。
だが、口調だけはあのエクソシスト。
「殺す。そして笹を返してもらう」
「返してもらう子はもういないよ」
「返してもらう」
「いいね。いいね。馬鹿だ。好きだよ、僕の殺してきた奴らは皆馬鹿だったんだ。くけっ!」
殺した者の血を思い出しているのか、ぺろりと指を舐める笹。
止めろ、笹でそんなことするな。
そんなところに恋が登校してきた。
「あら、指揮と笹じゃない。下僕二人がどうしたのよ?」
「言っておくが、僕は恋の下僕になった覚えはない」
「ならご主人様?―――きゃん、ごめんなさいご主人様!はしたない私めにお罰を下さいまし!」
「黙れ、淫売」
「あら、暴言ね。目には目を、暴言には暴言を」
「ごめんなさい、すみませんでした!!」
あぁ、なんかシリアスな雰囲気だったのになぁ!?
恋が居るとなんか進展しない。
「恋ちゃん、おはよう」
笹が声を掛ける。
まるで、本物だ。
「えぇ、おはよう。今日もいい子にするのよ」
「うん!」
ちょとまて、恋と笹はいつもこんな会話をしていたのか?
なんてこったい。
笹は恋の毒牙に掛かりまくってた。
しかし、恋は気づいてない。
やはりと言うべきか、少し期待していたが無理か・・・。
普通、中身が変わってるなんて気づかないよな。
演じることは人を騙すためにする事。
笹の思惑は成功していた。
やっぱ、やるせないよな・・・・。
そして予鈴がなり、別れる時のすれ違い様。
「裏庭に来やがれ、未練虫」
「くけっ、弱虫が」
それは了承の言葉だった。
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僕の切り札は2つ。
今回、ハスターのお守りは勘定に入れてない、とりあえず持ってるけど。
まずは1つ。
あの茂みに隠した布に包まれた物。
そしてもう一つは僕の胸ポケットに入っている。
2つとも丸々さんから貰った。
後者の切り札が成功するとかなりあっけなくあいつを倒せるが、いい。
僕はあいつを滅っせればいいのだから。
僕は授業中、ずっと笹対策を反復シュミレートを繰り返していた。
クラスの皆は僕がブツブツと言っていたのを気味悪がっていたが・・・。
そして放課後。
裏庭はどこの部活も使ってなく、人がまったく来ない放置状態の場所だ。
そここそいい地帯。
行く前に僕は蜂蜜酒を飲む。
よし、これで少しは速い動きに対応はできる。
僕がその裏庭に行った時には、既に笹は待っていた。
校舎の壁に寄りかかり、銀のナイフを撫でていた。
そして僕に気づく、いやずっと前に気づいていたはずだ。
こんなとこまで演技することはないだろう。
「いやいや、このナイフはお気に入りでね。それに指揮先輩とはこれでやったほうがいいだろう?くけっ、私って優しい!」
「そんな気遣いは優しいに入らん。誰も喜んでないんだからな」
僕は茂みに手を入れ、布に包まれた物を取り出す。
そして布を取る。
そこからは黒く厚い鉄板のようなものだった。
長細いその形、そして簡易ながら装飾がされている。
儀式用の道具だ。
『バルザイの偃月刀』
由来は全然聞いてないけど、結構ご加護があったりするらしい。
丸々さんはこれを数年にかけて鍛え上げたらしいから、それなりのものだろう。
後で返すように言われた。
僕はそれを構える。
「さぁ、はじめようか」
「くけけけけけけ、準備はいいのかよ?」
「既にできてる」
「言うね〜」
まずは先制を取る。
あいつの速さは前で知っている。
出鼻を取れ。
「偃月刀の取り扱い、その1!!相手に向かって空気を斬れ!!」
とりあえず笹に向かって空振りをする。
突如、空気が裂け、風を生み出す。
「ちょっ!?」
向かい風と反動で体勢を崩す。
隙を見せた。
だが、笹は襲ってこなかった。
彼女は右目を押さえながら、退いていた。
「ちっ、やってくれる!」
彼女にとっても不意打ちになったようだ。
それに傷を負わせた。
右目に血が入ったのだ。
これは幸運だった。
相手の右側に付く様にやればいい。
あとは第2の切り札を相手にどうやって食らわすかだ。
一撃必殺っぽいしな。
できれば背後をとりたい。
「偃月刀の取り扱い、その2!!斬れ!!」
無理
捕捉できません。
「ちっ、かすりもしない!」
「当ったり前だ。経験の差だ!」
だが、体は他人の体だ。
絶対、慣れない。
・・・これでも遅いってとこか。
結局、右目のはんでなんかない。
「くけけっ、ほら右ががら空きだよ!」
しゅぴ、とナイフが僕の衣服を切り裂く。
「くっ!」
偃月刀を払う。
だが、生じた風は避けられる。
風は直線でしか進まない。
つまり、最初さえ見切れば避けることは簡単なのだ。
「ほら、ほ〜〜ら!」
体が斬られる。
だが浅い。
無数の傷からはじわりと血が出るだけだ。
体が熱い。
傷の熱だ。
「もっと、やりなよ。ハスターの風やら出しなよ!!」
「なら、お望みどおりやってやるよ!!」
斬りかかる。
避けられる。
「イヤイヤハスター!!」
歪む風が笹を襲う。
避けられるのは目に見えている。
前の再現だ。
だから、発動と同時。
「偃月刀の取り扱い、その3!!投げる!!」
投擲
円を描き、偃月刀は空中を有り得ないスピードで笹に迫る。
「くけ?」
風を避けた笹。だが、偃月刀の飛来に気づく。
だが当たらない。
空中で身を捩じらせ、ぎりぎりで避けた。
着地
「ふう、危ない危ない」
だが、終わりはしない。
「追加機能!!自動追尾!!」
投げた偃月刀はブーメランのように進路を曲げ、笹へと飛ぶ。
「ぐあぁ!?」
右足を裂く。
だが、重傷ではない。
大量の血は出てそうだが、止まる。
見ると、笹は自分の右足の付け根をナイフで軽く刺していた。
「血を止めた?」
「こういうのも闘う者の基本だ」
「中国拳法じゃあるまいし!!」
これは思っていた以上の戦力差だ。
玄人と素人の差。
偃月刀が僕の下に戻る。
次の策を!!
偃月刀投擲は上手くいった。
できればもう一度成功させたいが・・・。
駄目だろう。
次の次の策を。
「い〜ま、わかった。指揮先輩。あんたは私を殺せない。―――母体を殺せないのだからな!」
「それはどうかな?これはただお前との差があり過ぎて有力なダメージを与えてないだけだ」
「嘘だね」
笹は即否定した。
「ここには罠がない。てっきりそっちが指定するからあると期待していたのだが、まったく無い。お前は母体を傷つけること恐れているな」
「さぁね。僕はこれでもうっかりさんだからね」
「でも罠はないのは確認した。これで私は思い切って攻撃できる。今までが遊びだとわからせてやる」
本気じゃないぞ。
それは警告だった。
気づいたら、笹は僕の目の前に居た。
「そんな――――っ!」
肩を刺された。
捻られる。
「あがががっ!」
味わったことの無い痛み。
冷たいのに熱い。
小さいものが入ってるだけなのに、とてもぶっといものを入れられた気分だ。
痛みで偃月刀を落とす。
次いで、太ももを刺される。
捻る!!
「――――っ!!!!!!!」
声は耐えた。
だが体は耐えない。
僕は突き飛ばされるように尻を着く。
「くけっ、これで終わりだ。・・・まぁ、あれだ。久しぶりにクトゥルフ使いを見た。それなりに楽しかったよ」
殺される。
「ちっ・・・・、一つ質問いいか?」
「なんだ?まさかなんで吸血鬼を殺したか?なんて質問しないだう?くけけけけけっ!!」
「いや、違う。あんたの殺したい魔女って誰なのさ?」
「あ?そんな事か?そうだな、確か・・・・うん?どんな名前だっけ?
「訊くな」」
おいおい、名前がぱっと出てこないって、そいつを憎んでんのじゃないのかよ。
「そうそう、クール・マイルドって名前だ」
「男っぽい名だ。・・・ってそれは煙草の銘柄だ!!」
「おっと、そうだった。くけけ。う〜む、たしかクール・・・クール・キング」
「王様か?それも煙草の銘柄だ」
その魔女は煙草が好きらしい。
「くけっ、なんせ偽名を使いまくってからな。おっと、そうそう思い出した。タイタス。タイタス・ウィンフィールド。男っぽい名前だが、れっきとした女だぜ」
「タイタス・ウィンフィールド・・・」
タイタス・ウィンフィールド。
もう一度心の中で言う。
なってこったい。
僕はなにか変な縁を感じる。
そうか・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・彼女か。
「ははっ、ははははははははははははっ!!!!!!」
こりゃ傑作だ。
僕が知ってる人物かよ。
しかも、まだ違う傑作が残ってる。
「くけ?なんだ?気が触れたか?確かに、名前は力を持つからな。魔女の名前なら影響を受けても可笑しくは――」
「ちげ〜よ。道化師が」
僕はぴしゃりと笹の言葉を止めた。
「なんだと?私が道化?」
「そうだよ。おまえ、むなしいな。滑稽だ。ははははははははっ」
「何を笑う!?」
銀のナイフが僕の首の皮を一枚斬った。
―――っ!!
僕は精一杯生意気な顔を作り、笹に言った。
「そいつなら死んでるぜ」
間があった。
「嘘を言うな!」
「嘘じゃねぇよ。今年の夏に殺されたのさ」
「嘘だ!!貴様、私を混乱させる気だな!!それで助かると思ったか!?」
ナイフが首に食い込む。
血がつっと流れた。
「俺からの意地悪だ。これは事実。本当に滑稽。お前は道化だよ。証拠?ん〜、あの人がどのように死んでたか言うくらいしかないな」
笹が真意を確かめる為、僕の目を見る。
僕の目に淀みを探す。
だが、見つかるわけがない。
事実は淀まない。
そして・・・、
かしゃん、とナイフは落ちた。
それは僕の言葉を受け入れた証拠だ。
笹は気が抜けた顔。
絶望した顔をした。
「なら、私は何に囚われていた?既に無いものなんかに囚われ、彷徨ったのか・・・」
「少なくとも、夏からはそうだろな」
「そんな・・・・馬鹿な」
敵意が反れた。
さて、最終段階に行くか?
僕は笹を見た。
そしてその向こうの景色も。
・・・こりゃ最悪傑作だ。
その景色を見ながら、僕は笹に言った。
「馬鹿なことならもう1つあるぞ?・・・・・・・・・お前の負けだ。後ろを見ろ」
「え・・・・・・・・・?」
笹は振り向く。
すると彼女は見るはずだ。
僕が見ている風景を。
その風景には人が居る。
いや、ほぼ人だ。
何故なら間近にいて、視界いっぱいに彼女が見えた。
笹が小さく言う。
「一途二・・・・恋?」
「その通りよ。猫被りちゃん」
「なんで此処に?・・・・・私の演技に気づいてたの?でも、そんなそぶりは一度も―――」
「演技なら私も自信があるわよ。それに知らなかった?―――人間観察は私の趣味よ」
「まったく・・・・最高の趣味だよ」
僕は呟く。
「さて、笹から離れてもらうわよ」
ぐわし、と笹の頭を掴む。
「ひぐっ」
「わたしゃ、怒りを持ってるよ?」
狂戦士の一途二・恋がそこに居た。
「まて、殺すなよ。恋」
「わかってりゃ〜。ほれ、早くやれよ」
くいくいと顎で僕を促す。
僕にまだ手がある事に気づいていたか・・・。
「わかった。とっととやるか・・・」
僕は胸ポケットから一枚の札を取り出した。
少し前、陸奥から吸血鬼を吸い出した道具だ。
これさえ、笹の体につければ、中のエクソシストは札に入る。
あとはそれを燃やせばいい。
まさに必殺技。
必ず殺せる。
「おい、お前何をする!?」
気づくのが遅い。
「これが陸奥の弔いでできる最後の事だ」
僕は笹の背中を剥き出しにし、お札を貼り付ける。
びくん
ただ笹は体を震えさせた。
吸出し完了。
ひらりと地面に落ちるお札。
僕はそれを見下ろす。
エクソシストはお札の中。
もう何もできない。
・・・終わってみればあっけない。
「まだ終わってないわよ。はやく片しちゃいなさい」
僕の心の声―――僕が勝手に喋ってただけ―――を聞いた恋が催促をする。
いつの間にか狂戦士から戻ってるし。
「わかってる」
偃月刀を拾い構える。
そして札を刺した。
「イヤ。クトゥグア」
小さく呟くと、炎が発生し、瞬間で札を焼き尽くした。
悲鳴もない。
だが何か引き裂かれんばかりの声が聞こえた気がした。
灰も残らなかった。
これで終わったのだ。
あまり感動はない。
がくん、と体から力が抜けた。
ふぅ、ちょっと休みたいけど、まずは病院だ。
笹は・・・どうなるかわからない。
もしかしたら目覚めないかもしれない。
でも、僕は望みを持つ。
「ほら、手を貸してあげる」
「ありがとう」
「レンタルで1秒1円ね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・高いのかどうかわからん」
「開店キャンペーン中だからね。・・・・それよりも、指揮。わかってるわね。私はすんご〜〜〜〜〜〜〜く、この手を粉々に潰したいと思うほどの感情を抱いてるの。―――――――あとで覚悟しなさい」
あっ、頭に怒りマークが出てる。
処刑決定か?
短い人生だったけど、濃縮してたな〜〜〜。
僕は過去を走馬灯しようと頑張った。