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05 陸奥・品図の過去のお話

 陸奥・品図

 彼女は私に助けを求めた。

 逝きたくないと願った。

 だから私は彼女を殺した。

 逝く事を教えた。

 一年前の出来事だ。

 一途二・恋は狂戦士だ。

 だが、それは所詮人間の域での最上級。

 既に人間を超えた吸血鬼と云う怪異に勝つことなど不可能だった。

 丸々・罰

 彼と一緒に私は陸奥・品図を討伐した。

 クトゥグアで下半身と腕から下を焼かれ。

 イタクァで首以外を氷結させた。

 銀のナイフで肩を穿ち、身動きをとれなくさせた。

 その首に大剣を突きつけ、木の杭を片手に持った。

 そこで私は彼女に死を与えたのだ。

 絶対的な敗北。

 相対的な勝利。

 これで陸奥・品図はいつでも死ねる事に相成ったわけだ。

 私は彼女を殺す人物になったのだ。

 いつ、いかなる時、彼女がどんな死に方をしても、誰かが殺しても、それは全て私が殺した事になるのだ。

 いつ死んでも可笑しくない存在。

 だから指揮から品図が殺されたと聞いても、私は驚かなかった。

 それはつまり、一年前のあの時、私が彼女に木の杭を打ち込んだ意味と同じだから。

 ただ事実が『木の杭を打ち込まなかった』から『木の杭を打ち込んだ』に変わっただけ。

 ただそれだけ。

 ・・・でも・・・これが私が初めて殺した事実ができた。

 罪悪感はなかった。

 どうやらこれが私の宿命らしい。

 ただ哀しみはある。

 何故なら、指揮の誓いの一つを破らせてしまったのだ。

 

『一途二・恋に殺しはさせない』


 胸が締め付けられる思い。

 だが、これは指揮が誓いを立てる前の事実。

 どうしてもこれは譲れない。

 たとえ神でも譲らない。

 だから私は指揮に私の全てを捧げてでも、誓いの償いをする。

 もとより私の心は捧げているのだが。それでもだ。

 

;-----------------------------------------------------


 僕は彼女が殺されるまでの話をする。

 勿論、彼女とは陸奥・品図の事。

 勿論、殺されるまでとは一年前、恋が止めをさした時の事。

 

 高校2年の夏休みが終わりを迎えた頃。

 その時の僕としては夏休みを満喫したとは言えなかっただろう。

 何故なら、ずっと病院の中に居たし、休みの前半は絶対安静の状態。

 五体不満足だった。

 休みの後半は歩けるようになるリハビリだった。

 手もろくに使えなかったため、リハビリは通常よりも過酷だった。

 2学期が始まっても僕は歩けなかった。

 支えがあれば歩けたのだろうが、松葉杖も持てない腕では当然だろう。

 だから車椅子―――やはり電気式―――で登校だった。

 そんな登校をしていた時だった。

 階段を降りるため誰かに助けを求めた。

 そこに陸奥・品図は現れた。


「なニ、お前。面白い格好してルナ。俺にもやらせロヨ」

 ちぐはぐな日本語を使う彼女を見て、僕は、

「代わってくれるかい?」

「嫌に決まってるだロ。誰が好き好んでソンなことやるカ」


 殺意が無かったといえば嘘になる出会いだった。

 彼女は僕と車椅子を担いで降りた。

 そんな怪力が女の腕にあるとは思えない。

 成人男性だって無理な重さを軽々と持ち上げたのだった。

 僕はすぐに彼女が人外だと気づいた。

 紅い目に白い肌。異様に長い犬歯。

 僕が指摘すると陸奥はあっさりと肯定した。

 

「吸血鬼なんだヨ、俺」

「吸血鬼?にんにく嫌いで日に弱く、水の流れを越せない?」

「そうそう、ソレソレ。でも俺は始祖の吸血鬼だから、十字架も平気だし、にんにくも食べれる。見ての通り、ぎんぎら光るお日様の下だって歩ける。ちょっと疲れるけどな」


 『ギンギラギンにさりげなく』を歌いだした陸奥にはちょっと引いたが、僕としては結構友好的な出会いなんだと思う。

 それに僕に魅き寄せれたのだとすぐに気づいたし、『えんがちょ』は初対面の時に済ました。

 何回か会った時、僕は初めて吸血衝動を見た。

 女子生徒の首筋に噛み付く陸奥を見た。

 見られた彼女は困ったような、哀しそうな顔をしていたのを覚えてる。

 そして僕に打ち明けた。

 

「俺ってサ、結構長く生きるらしんダゼ」

「うん、知ってる。僕の知り合いにちょっと詳しい奴がいて大体聞いたよ。ほぼ不死身なんだろ」

「首ちょんぱされたくらいじゃ死なない自信はあるゼ」

「へ〜、痛くない?」

「痛いのは当たりマエ。死ぬほど痛いゼ。でもな・・・俺、痛みを感じるたびに思うんダ。俺は生きていけないッテサ。怖いんだヨ、独りで生きることが、氷の心なんか持ってないシ、これからも出会いと別れを繰り返ス。ソウ考えると怖くて仕方がナイ」


 人の心が消えなかった。

 しかし、陸奥には悪いのだが、その悩みはよく小説やらで使い古された内容でもあった。

 

「馬鹿ダナ、お前。よく使われるってコトハ、それは事実に近いって事だろガ。それに古いんだろ?それがまだ使われてるってことは変えようがない事実ダ」

「もっともな意見だね」

「ダガ哀しいものだ。多分、お前が老衰してもその時の俺は今と同じ姿してるんだぜ?そしてお前の死を見送ルンダ」

「僕としては、僕の死を見送ってくれる人が1人居てくれる事実に嬉しいのだがね」

「馬鹿イエ。俺とお前はもう友達ダロ」


 屈託もなく当たり前に僕を受け入れた陸奥。

 でも、彼女は結局、僕より先に死ぬことになった。

 さて、ここから僕と陸奥の話の間に一途二・恋が入ることになる。

 この頃の恋はまだ恋人でもなく、僕を殺そうとする狂戦士だった。

 下駄箱での出来事。

 陸奥が車椅子を押してくれてた時の事だ。

 

「なに貴方、生きてたの」

「お陰様でこんな状態だ」

「意外にタフね」

「死にたいと思ったけどね」

「あら、品図じゃない。つまらないのと一緒に居るわね」

「恋か。お前、指揮と知り合いナノカ?」

「えぇ、知り合いよ。殺したいほど、彼を思ってるの」


 それからは3人で良く合ったものだ。

 本気で僕を殺そうとする恋を陸奥が止めたことが多々あった。

 彼女が居なければ、僕は既に墓の下だっただろう。

 さすがに屋上から突き落とされた時はぞっとしたものだ。

 それから季節は秋になった。

 その間にまたいろいろとトラブルはあった。でも今、語るべき事ではない。

 秋になる頃には恋が僕を殺そうとする回数も減った。

 考えれば恋はこの時はもう『狂千思』だったのかもしれない。

 陸奥は僕に助けを求めた。

 吸血衝動で僕の首にかぶりつこうとしたのだ。

 恋が止めなければ、僕は血を吸われていた事だろう。

 正気に戻った陸奥は青ざめた。

 泣いた。

 嘆いた。

 一途に友達だと思った僕を裏切ったと思い込んだ。

 彼女は泣きながら、僕に言ったのだ。

 

「俺・・・生きたくナイ!」

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