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03 陸奥・品図の恋

高校の屋上


 僕と陸奥の2人が居た。

 ちょっと離れたところには、恋が興味なさ気に僕達を見ている。

「脱げ」

「指揮。お前は俺を脱がせる趣味があったノカ」

 陸奥は体をかばう様に腕で体を隠す。

 ・・・そこまで恥ずかしがられるの、かなり意外なんだけど。

「お前の裸を見たいわけじゃねぇよ」

「恋の肢体だけにしか興味がないと」

「なんか言葉の意味が違わないか?―――恋もなに小さく『あたりまえね』って言ってるんだよ。じゃなくて、これをお前に張るんだよ!」

 僕は一枚のお札を取り出す。

 羊皮紙に血文字で書いた札。

「なにこれ?」

「お札だ」

「だから何のお札サ?」

「知らん」

 だって詳しく聞いてないし、丸々さんはこれを陸奥の背中に張ればいいとしか言ってないのだ。

「役だたねぇな、もうちょっと小馬家屋・指揮をしろよ」

「本当ね」

「僕は僕だ!!恋も、なに相槌打ってるんだよ!」

 僕としてはとっとと終わらせたいんだ。

 まだ始まっていない事件を終わらすんだから、本当とっとと終わらせたい。

 こんならしくない事件、まだトラブルじゃないんだ。

「この札をお前の背中に張ってやりゃ、お前の気持ちがわかるんだとさ」

 正直、こんなあっさりできるものかね?

 丸々さんはすぐにこの札を出してきたけど、逆にそれが僕の不安をせきたてる。

「ふ〜ん、なら早く張ってクレヨ」

 陸奥は制服をはだけ、僕に背中を向けた。

「ブラが邪魔だな」

「それは直に俺の胸を触りたいと云う意味カ?―――御免こうむル!!!」

「俺だって御免じゃい!!あと言葉の解釈に改善を求める」

 まったくもう・・・、取りあえず、ホックを外して貰わなきゃ・・・。

 恋が僕の隣に立った。

「知ってる、指揮?ブラを片手で外す方法。相手を抱擁した時などに便利よね」

「んなもん知るか。なんだよいきなり?」

「私はそう云う男好きよ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・今度教えてください」

 結局、恋にホックを外してもらい、真っ白な肌だけが見える背中に僕はお札を貼り付けた。

「え〜と、これでいいのかな?」

「私に聞かないでよ」

 となると後は本人に確認だろう。

 即効性とは聞いてないし、いつそれが効果を出すか僕は知らないのだ。

 だが、それは即効性だったのだろう。僕はそう思う。

 

 だって陸奥の肌が白くなかったのだから。

 

 僕と同じ肌色の女性へと退化した陸奥が居た。

 だが、可笑しい。

 陸奥は背を向けたまま硬直し、冷や汗をだらだらと際限なく流していたのだ。

「おい、大丈夫か」

「触れるな!!」

 僕は伸ばしかけた手を止めた。

「今の俺に触れるな、小馬家屋・指揮。・・・契約してしまうぞ」

 本来の日本語を喋る陸奥。

 でも、僕はそれに驚くのではなく、『契約』に驚いた。

 『契約』

 それは僕の『お化け屋敷』に入る事。

 でも・・・、

「変ね。品図は『えんがちょ』をしたはずよ」

 恋の言葉はまったくだ。

 まったくもってその通り。

 一年前に僕と吸血鬼の陸奥・品図は縁を切った。

 一度切った縁は戻らない。だから再び契約するはずはないのだ。

「いや、確かに縁は切れてる。・・・でもな、でも僕の原点との縁切りはできてないんだぞ」

「原点?」

「そうだ、俺は原点を宿してるから吸血鬼なんだ・・・・・だったんだ。お前は『吸血鬼の陸奥・品図』との縁切りをしただけ。今、僕と原点は切り離されてる。なんでか知らないけど、その札に原点が移った。いや、うつったんだ、病気がうつるように・・・」

 お札に原点―――つまり本当の吸血鬼『ノーライフキング・ナイトウォーカー』がうつった。

 なら、僕はそのお札に張り付いてる陸奥・品図という人物を媒介に『彼』と契約するのか!?

「罰も変な事するわね。下手したら、お化け屋敷の住人が増えるじゃない。―――私だけでいいのに」

 ぶつぶつ、と恋が文句を言う。

 本当だ。これは厄介な事になるとこだった。

 原点の吸血鬼は既に意思はなく、本能だけだ。

 否応なしで、僕に魅き寄せられ、勝手に契約を交わしてしまう。

 ・・・でも、何故?

 何故、丸々さんはこんな状況にしたんだ?

 でも・・・あれ?ちょっと待てよ。

 僕は昨日の会話を思い出す。僕が何か方法はないか、と丸々さんに聞いた時の事を。


 

『自分の正直な気持ちがわかるっていう、なんか方法ある?』

『あ〜るよん。―――それに良い機会だ』



 ここだ。

 

 

 『それに良い機会だ』・・・・だと?



 良い機会ってなんだよ?もしかしてこれの事か?

 でも何が良いんだ?最悪じゃないか。

 こんなまた縁切りをしなきゃいけない状況に・・・。

「いや・・・・、そういうことか?悪いじゃなくて良いのか・・・。良い機会。縁を繋ぐんじゃなくて、僕が吸血鬼と完全に縁を切る良い機会」

 万が一、陸奥が吸血衝動で暴食しまくっても、真っ先に僕に向かうことがなくなる。

 ・・・近くにいたら別だけど。

 それでも本能で僕に魅き寄って来ることはないのか。

 そして、なんらかで原点が浮き出て僕と契約する心配もなくなる。

 つまり危ない芽を摘む絶好の機会。

 早い内に手が打てる。

「まったくもてそう云う事か。――なんだよ、まったく・・・、それならそれと事前に言いやがれってんだ!」

 悪態をつく。

「・・・成る程、そういう事か」

 陸奥も気づいたようだ。そにれ恋も・・・。

「これは決断よ」

「そうだな俺にとっての決断だな。良い機会だし」

 決断。それは僕と原点の吸血鬼が『えんがちょ』する事だろう。

 でも、俺にとっての決断じゃないだろう?―――これは僕と陸奥の決断だ。

 どちらかと云うと僕よりの決断だし。

「で、決まったの?私としては考える時間は必要だと思うけど?」

「いや、決まってるよ。俺は決断に気づいた時から、もう決まってる」

 陸奥は僕達に振り返りウインクした。

 彼女の目は紅くなく、昔の黒褐色だった。

「よし、ならやろうか」

 僕は陸奥を促す。

「あぁ、ど〜んとやっちゃおうぜ」

 陸奥はお札を剥がすと、それを輪にした。

「よし。すーはー・・・・・・・・・『え〜んがちょっ』っと」

 輪を切る。

 でも、お札を破らないように気をつける。

 同時

 ぶわりと風が舞う。

「きゃっ」

 風が恋のスカートを捲ったが、僕は褒め称えれるほどの不屈の心でデルタ地帯へと振り返らなかった。

 別に風は『えんがちょ』特有のものではなく。

 『えんがちょ』の反動でお札の中に居た原点の吸血鬼が一旦外に出て、陸奥へと帰ったからだ。

 その証拠に陸奥の姿は吸血鬼へと進化していた。

 風が収まる。

「ふぅ・・・・、なんかやっとほっとしタ。今まで、ぽっかりと喪失感があったんダヨ。―――ヤッパ、既に俺は吸血鬼なんだと実感すルネ!」

 言葉もまた戻っていた。

 でも忘れてることがある。

「あっ・・・・・、おい、陸奥!」

「ん?」

「お前、自分の気持ちはわかったのか?」

 これが本題本命。

 『えんがちょ』はついでだ。

 陸奥は一度、吸血鬼に退化した事により普通の人間に成った。

 吸血鬼になる前の陸奥・品図。

 僕は知らない。

 彼女は中学の時に吸血鬼と進化した。

 でも僕と出会ったのは高校2年の頃。

 僕に助けを求めた。

 生きたくないと願った。

 懐かしい出来事だ。

 ―――おっと、懐かしみ過ぎた。

 恋が言う。そして訊く。

「人間に戻った時は吸血衝動なんてないものね。その時、自分が笹の事をどう思うか、想ったら自分はどうなのか。・・・・・・で、どうだったの?笹を想って感じた?濡らした?ぐじゅぐじゅ?」

「帰れ、お前!」

「なによ、当たり前じゃない」

 侮蔑するように僕を見る。

 あれ?―――僕が間違ってる?まさか、僕は一般人だよ?常識人だよ?

 もしかして僕の知らない内に常識って変わった?

 嫌だな〜、そんな常識。

 

 世は淫乱に沈む。これ常識。

 

 ほんと嫌だな〜。

 てか今はポルノ規制があるからそうはならないだろ。

「で、どうよ。本当のところ?お前は笹が好きだったのか?」

 陸奥は、

「あ〜ア、こんな紙切れで俺の気持ちがわかるんなんテナ」

 彼女は自分を嘲笑っていた。

 びりびりとお札を破る。

 あれって破っていいのか?丸々さんに返さなくて良かったのだろうか?

「大丈夫よ、指揮。あの札は無意味よ、そう・・・まさに『無忌み』にね」

 ・・・・洒落ですか、恋さん?

「ま、俺は大丈夫だゼ」

 陸奥はにっかりと歯を見せ笑う。

「じゃあ?・・・・解決?」

「そうだロナ。解決ダ」

 陸奥は屋上から校舎へと入る扉に歩いていった。

「おい、結局どうだったんだ?笹の事は本当に好きなのかどうか」

 僕としてはそれを聞いておきたい。

 目覚めが悪くなる。

「ん、あぁ・・・そうだな。アレだよ。俺的には急ぎたいのダガナ」

 陸奥は不機嫌そうだ。

 なんかそわそわしてる。

 そわそわ〜

 そわそわ〜

 あぁ・・・そっか。

 わかり易い。

「あぁ、悪かったな。でも・・・これからどうするんだ?」

「決まってる、告白しに行くんダヨ!!」

 親指を立ててウインク。

 直球な吸血鬼なことで・・・。

「ちょっと待ちなさい、品図!!」

 恋が陸奥に立ちふさがる。

「なんだヨ!!」

 恋は冷静な顔で言った。

 とても真剣な顔だ。

 とても重要な事を言いたそうな顔。

「貴方・・・・・・・、替えのショーツはあるの?濡れてるんでしょ?でしょ?」

 とても真面目なジョークだった。

 こいつ、マジで世の中の常識をそう思ってたのか!?

「おい、恋!!少しは周りの―――」

「おぉっ!そうダッタ!?まずはコンビニに行って買ってこなけれバ!」

「おい、マジで濡れてるのか!?本当に!?」

「指揮。濡れてるなんて・・・はしたない」

「なんで顔を赤らめるんだよ。お前!」

 なんでこうキャラをころころ変えるのかな〜。

「ジャ、俺行くカラ」

 陸奥は去っていった。

「えぇ、イってきなさい」

「恋。・・・頼むから勝手に言葉を変換するな」

 てか、世の中の常識ってどうなってる?

 ・・・こいつらが可笑しいだけだよな?頼むよ・・・、僕が可笑しくないって誰か言ってくれよ。


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