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02 相談事・指揮→丸々

「ふ〜ん、で?その相談事ってなんだったの?」

 僕の恋人、一途二・恋はショートカットの髪をくるくると回しながら、興味なさ気に聞いた。

「いや、それが厄介なんだよな〜。正直、僕の手に余ってこぼれ落ちちゃうくらい」

「あら、面倒見がいい指揮にとっては意外ね。なんでも解決してきたんでしょ、生徒会長として」

「そりゃそうさ。でも人には得手不得手があるさ」

「私はそんな彼氏に調教した覚えはありません!!」

 恋は勢いよく立ち上がり、コルクコースターを僕に投げつけた。

 何故怒る?

「お前に調教された覚えはない!!」

「あら、私は調教したつもりよ。まぁいいわ。それより話しなさいよ。私、今日は実習があったから学校で4時間しか寝てないのよ」

 つまり4限寝たんだな。授業聞けよ。

「それだけ寝りゃ十分だよ。夜も寝てるんだろ?」

「いいえ、寝てないわよ」

「なら何してるのさ?」

「貴方のことを考えながらイタしておりました〜。・・・・・・・ぽっ」

 恋はしなを作ってぽっと顔を赤らめるマネをした。

「嘘くせ〜」

「あらこれ結構実話よ。夜やることなかったら、するもの」

 真顔で答えられた。

「うっ・・・」

 嘘だ、と言い切れない。

「顔が真っ赤ね。性的興奮?」

「お前が促してるんだ!!」

 まったく、なんだよ僕の話聞く気あるのか?

「無いわよ。それに貴方、心の声がだだ漏れよ」

「そういうときは気を使って、黙ってろ」

「気を使って、あなたの欠点を言ったのにね。でも、私としては長点だから―――わかったわ。黙っときます」

 ・・・なんだろ、負けた気がする。

 でもな〜、恋は夜は僕のこと考えてって、あああああああぁ、何を考えている僕!

 落ち着け、明鏡止水だ。

 心を無にしよう。

 これも結局は恋が僕の反応で楽しむだけなんだから。

「・・・・・・」

 でも、本当に・・・・あああああああああああああああああああああぁ!!

 僕は近くの壁に頭を打ち続ける。

「あの〜、いいかね君達。ここ・・・僕のアパートなんだ〜けどな〜」

 と、ずっと端っこに座ってた丸々さんが引きつった笑顔で僕達を見ていた。

 その隣に、氷をほおばっている糸鶴しかくが居た。

「あ、ごめん。近所迷惑だね」

「僕達にも迷惑なんだ〜けど」

 そう、此処は丸々さんのアパート。

 僕達は学校の帰り、此処に立ち寄ったのだ。

 僕と恋の家はと帰り道の途中で反対方向だから、立地的に丁度良かったのだ。

「いや〜、僕的には此処を溜まり場にして欲しくないのだがね〜」

「ただ、糸鶴と愛の巣を荒らされたくないだけでしょ」

 恋が冷めた目で丸々さんを見た。

「ぎくっ!」

 なんてわかり易い反応なんだ。

 

 丸々・罰まるまる・ばつ

 クトゥルフ神話の知識に長け、外道に身を入れた男。

 背丈は高く。ビジュアル面でもレベルは高い。

 ただし、いつも外を歩く時は黒いコートに赤いリュック、銀色のアタッシュケースでいる為、彼女いない歴史が今年の4月まで続いていた。

 結構信頼できる人だ。

 大学生である。

 

 丸々・糸鶴まるまる・しかく

 丸々・罰の雪女。

 名前は同じだが夫婦ではない。ただし恋人。

 僕の『お化け屋敷』の概念に魅き寄せられた妖怪。

 蒼い目に白い肌。

 普段から白い着物にゴスロリ傘を装備している。

 最近の付き合いでわかったが精神年齢的に若い。

 

 この二人、相思相愛である。

「いや、丸々さんのアパートに寄ったのは理由があるんだ。陸奥・品図って覚えてる?」

「あ〜ぁ、一年前の吸血鬼だね。あれは結構ヤバかったよねん。僕と恋ちゃんの二人係りで抑えたし、僕としてはあんな事は一生ごめんだ〜よ」

「実はその子の事で相談があるんだ。多分、丸々さんの力が必要」

「え〜〜〜、と言いたいところだけど、助けるんだったら手伝うよ。うん」

 すんなりと了承してくれた。

 糸鶴はずっと氷をほおばっている。

 心なしか怒っているように見えた。

「じゃあ、話すね。今日、僕は陸奥に相談を受けたんだ。で、その内容なんだけど―――」

 僕はその時のことを思い出しながらしゃべる。


 

『好きな人がいるんですヨ』

『へ〜、君でも恋するんだ』

『そりゃ、俺は吸血鬼だけど、人の心も持ってるサ。で、一途二と付き合ってる指揮だから訊ク』

『できるかぎり助言はするよ』

『ありがたい』

『で、誰なんだい?』

『それは―――』



「う〜ん」

 僕はそこで詰まった。

「なんだ〜い。早くいいなよ」

「そうだよね。でもソコが問題なんだよ」



『女!?マジすか!?』

『マジもマジよ。俺はふざけてお前にちょっかいかけねエヨ』

『で、相手は誰だ?恋とか言ったら、にんにく食わすぞ』

『あんなバーサーカー、お前に任せるよ。食えないもん。で、俺が恋した女は―――』



「女は誰さ〜、彼女居ない暦0年の僕も頑張るよ〜」

 それ言うなら僕も0年だ。

 まぁ、ここは勿体ぶるところではない。素直に名前を言う。

笹久崎・佐々砂さささささき・さささだ」

 僕もよく知る人物だ。

 その名前に聞き覚えがある丸々さんは、

「ありゃ〜、あの子か。イタコちゃんが相手?怪異は魅き合うものな〜のかねん」

 あ〜あ、と嘆く。

「めんどくさいだろ。―――って、恋、お前聞いてたか?何、糸鶴と神経衰弱やってるんだよ。驚かねぇのか?笹はお前の親友だろ」

「別に」

 恋はトランプをめくり―――ってタロットカードかよ―――まためくり直す。どうやら違ったらしい。

「別にって」

「私、気づいてたもの。――――これでも人の観察は趣味よ」

「嫌な趣味だな。じゃあ、僕が話そうとした時には――」

「知ってた。だから聞く気がなかったのよ。―――じゃ、私は帰るから、あとは頑張って」

「意外とクールだな。そんなに眠いのか?」

「当たり前よ。本当に睡眠不足なの、貴方のこと考えてイタしてた事も本当だったけど、今日の実習のために課題を徹夜で仕上げたのよ」

 そう言えば、こいつ、デザイン技術の学科は成績悪かったよな。ほかは満点ぞろいの成績なのに。

「今回は戦闘力とか関係なさそ〜だし。恋ちゃんのレギュラー出演じゃないよねん。僕は別に帰ってもいいと思うよん」

「じゃ、罰もそう言ってる事だし、帰るわ」

 ふわ〜、と欠伸を噛み殺さず―――恥らえよ―――アパートから出て行った。

 その出て行く直前、僕に声を掛け、

「今度私のシている姿、見せてあげるわ」

「ぶっっ!おまっ・・・今度は声に出して言うぞ!!――恥らえよ、お前!!」

 本当は期待しときます。

「心の声がだだ漏れよ」

 無表情で返すと、恋は扉の向こうに消えた。

 がしゃん

「『恋は去っていった』なんて、なんか切ない台詞だよねん」

「丸々さんも浮かれていると糸鶴に捨てられるぞ」

「僕と糸鶴は固い絆だもんね〜!」

「ね〜!」

 ハイタッチをかます人間妖怪ペア。

 糸鶴も明るい性格だからバカップルに見える。

「次、進めていい?これからが本題なんだけどさ」

「あ〜うん、いいよ。てか僕も予測できたよん。これは女性が女性に恋をすることが問題じゃないよね」

 さすが丸々さん、察しが良くて助かる。

 どうやら糸鶴も気づいたようだ。

 妖怪と吸血鬼、何だかんだで異形同士わかるものがあるのだろう。

 糸鶴が発言した。

「実際、これは私と罰様が抱えている問題と近いものですが、あちらの方が深刻ですね。私達の場合は罰様が外道の者ですから付き合いもこんな簡単に相互理解できます。まずこれが第1の問題。それと寿命の長さが第2の問題」

「そ〜う、僕は変な契約のお陰で人より長く生かされるから、大体、糸鶴と同じくらいの寿命な〜んだ。まぁ、10年か20年くらいの誤差はありそうだけどね。でも、今回はダンチで違うねん。吸血鬼は『ノーライフキング』ま〜彼女の場合は『ノーライフクイーン』のドラキュリーナだけど。まさにほぼ不死身なんだ〜よ。人間と比べたらこれはでかい差だよねん。ま、後1つ問題があるけど・・・ねん?」

 その通りだ。

 それともう一つある。

「吸血衝動。陸奥は自分の吸血衝動が原因で笹を好きだと勘違いしているんじゃないかと心配してる。どうも彼女としてもこれが一番心配らしい」

「自分の気持ちの根源がただ体の生理現象だったらって事ですね。私だってわかります。それが恋心なら尚更」

 女としての共感だろう、糸鶴もこの話に深く興味を持ったらしい。

「実はと言うと、陸奥は寿命とか別の種族とかは問題視していない。どっちにしろ、これは付き合う事が前提の話だから。自分の気持ちが純粋なものであって欲しい。それを確認したい、と云うのが彼女の相談」

「ふ〜む、品図ちゃんは別れる怖さより自分の気持ちに恐怖してるんだねん」

 僕は身を乗り出して訊く。

「自分の正直な気持ちがわかるっていう、なんか方法ある?」

「あ〜るよん。―――それに良い機会だ」

 あっけない返答だった。

「・・・・・・・」

「あれ?反応な〜い?僕が万能すぎて愕然唖然がくぜんあぜん?」

「いや、まぁ・・・・吃驚したよ」

「罰様は罰様ですから」

 糸鶴、それは意味がわからん。

「ちょっと小話をしてあげようか」

「なにさいきなり」

「今のうちに僕が偉大だって思い知らしたほうがいいだろ?ちょびちょび凄いとこ見せたって、あ〜んま印象残らんからねん。僕の博識ぶりを披露し〜てあげるさ!――――はい、拍手!!」

 大きく腕を挙げ、拍手を促す。

 糸鶴だけが手を叩く。

「罰様は素敵です」

「・・・・・そうか?確かに凄い人ではあるけど、これを見る限りただの馬鹿だよ?」

 こほん、と丸々さんは一呼吸置く。

「昔の出来事でさ、一人の吸血鬼――女の方ねん。ドラキュリーナ。その吸血鬼が自分だけのハーレムを作ろうとしたんだ〜よ」

「男だけをかき集めたのか?」

「いいやん。女を集めたんだ。レズだったんだね。実際、ドラキュリーナのレズはあまり珍しく無い事だったの〜さ」

「ふ〜ん、じゃあ陸奥が笹を好きになったのも結構驚くことじゃないんだな」

「そうだよねん。あ〜でも言うけどさ、男の吸血鬼がモーホーだって訳じゃないよん。やっぱ女が好きさ。―――で、話を戻すけどん。その吸血鬼は自分の気に入った女を攫っては、吸血鬼とした〜のさ。血を吸われ吸血鬼となった者は吸った者の眷属となる。死ぬ時は一緒に灰なんだよん。それが攫った女を拘束した。

 逆らえ〜ないのさ。まぁ、そんなわけで吸血鬼は女だけのハーレムを築いた。眷属の血を飲み。眷族と交わり。快楽に溺れた・・・・」

 丸々さんは話を切った。

 糸鶴が氷を口に入れ、噛み砕く。

 そして首を傾げ。

「ハッピーエンド?」

「ま〜さか、吸血鬼がハッピーエンドなんて迎えるなんて御伽噺的にはバッドエンドだよん。吸血鬼はいつも悲惨な最期を迎える〜のさ」

「じゃあ、話には続きあるんだ」

「勿論。ハーレムを築き、その数年後の事だよ。眷属にされた一人の吸血鬼が街で一人の青年に見惚れた。二人は愛し合った。そして子供が生まれた。

 だ〜がその事が親である吸血鬼にバレたのさ。怒り狂った。裏切り者の首を半分縊くびり、銀で四肢を穿ち、鋼鉄の処女アイアンメイデンに入れた。いたぶっていたぶっていたぶり付くし・・・・、最後は木の杭で心臓を打った。ただ、救いと言えばその殺された彼女の子供は夫と一緒に異国へと逃げたこと〜だ。

 更にそれから数年。つ〜いにハーレムを築いた吸血鬼の終わりが来る。

 その子供が大きくなって帰ってきたんだ。異端執行官となってね」

 ここで丸々さんは一旦の休憩を置く。

 確か、僕は本で読んだことがある。

 吸血鬼と人間の間に生まれた子供には特殊な力が宿ることがあると云う。

 誰でも知ってる悪魔祓いのエクソシストだって、結構そんな人ばかりらしい、との噂も聞く。

 まさに話の子供こそ、その力を授かったのだろう。

「で、吸血鬼達は狩られた。大きくなった異端執行官は街の民衆を味方にし、全員を捕らえた。―――と〜ころで、指揮君は魔女狩りって知ってるよね?」

「知ってるよ。・・・・それが行われたのか?」

「そ〜う、その通り。十字架に貼り付けられ、火で炙られた。自分から出た錆がこうしたんだ。まさしくバッドエンドだねん」

 どうやら話は終わりらしい。

「でも、なんで丸々さんはそんな話を知ってるんだ?」

 博識だとしても、少しコアすぎる話だ。自伝でもあったのだろうか?

「いや、この話を記した自伝はないよ。この後、生き残った者は誰も居ないからねん」

「ん?それってどういうこと?」

「そのままさ。魔女狩りの後、異端執行官も含め、皆死んだんだ」

「ちょ、集団自殺でもしたって云うのか!?誰も語り継がないじゃないか!?それこそ知りようが無い!」

「ん〜まぁ、そうだよね。でもね、僕はこれを当事者から聞いたんだよ」

 ちなみに集団自殺じゃないよん、と付け足す。

 可笑しな事を言う。

「当事者?でも皆死んだんだろ?」

「そうだね。人間は死んだよねん。そして吸血鬼も死んだ。・・・でもさ、この話には黒幕が居たのさ。吸血鬼を操ってた暗黒の男がねん。そしてハーレムを一緒に楽しんだのさ。・・・あっ、その時は女だっけ?」

「おい、勿体ぶるな。誰なんだよ。そいつ、生きてるの?」

「あ〜まぁ、そうだねん。生きてる・・・・って言えるのかな?な〜んか次元が違うし。人間の生きる死ぬの概念では捉えちゃいけない存在だ〜から」

 訳がわからん。

「まぁ、わからない方がいいよ。知りすぎると、発狂しちゃうからねん」

 僕は思う。

 丸々さんは発狂してない。でも、そいつを知っている。何故?

 多分、クトゥルフに関係あることなのだと思う。

 今にして思えば、これが丸々さんは生かしている契約と関係あったのだろう。

 しかしこの後、彼は最後まで自分の外道を打ち明けなかった。

 最愛なる糸鶴にも・・・だ。

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