新たな日常に
少年は去った。
それは覚悟していて、受け入れてはいるが確かに胸に寂しがある。
元々一人の日々に戻っただけだ。
ただはじめからないのと、あるものがなくなるのは微妙に異なる。
あーやめておこう、まるで少年と出会わなければ良かったと思ってるみたいだ。
いや、事実そういう思いもある。
少年と過ごした日々が俺に前世の人間らしい感情を蘇らせてしまったらしい。
あまりに日々が退屈に思えた。
土に寝転ぶ、地面の硬さを感じる。
幸せも不幸も決めるのはお前の心だ。
師の祖父の言葉がまた思いだされた。
そうだ、そのとおりだなと思ったことだ。
けれど現実には、そうできなかった気がする。
今なら、今ならできるかな。
この状況でも幸せを見つけれるか。
やるしかない様なこの状況なら。
何となく思いだす。
こんな生活を前世憧れていた事を、世間のしがらみから離れ、生きるために生きる、そう自然とともに。
結局俺は世間から離れる事もできず、世間に馴染み切る事も、できず中途半端だった気がする。
それもまた良かった。
人もまた自然の一部だし、何より一人は寂しかった。
俺は人が好きだったのだ。
ただ世間や常識みたいなのものが、苦手だった。
争いも嫌いだった。
世間と争うのも、押し付けられるのもいやで。
俺はいったい、どうしていたのだろうか、そこまでは思い出せない。
目を閉じる、土の硬さ、風の冷たさ、木々のざわめき
に、それらに交じる虫や鳥、動物達の動きが感じられる。
精神が研ぎ澄まされていく、ここは安全な位置だと何故か確信できる。
立ち上がる、剣を取り振り抜く、力は込めなかった。
速度も普通だ。
けれど、いい振りができた。
もういちど剣をふる、近くの岩に。
すーと抵抗もなく剣が通り、岩が切れた。
何かを掴んだ気がする。
岩が切れたからなんだという気もする。
この森で生きていくだけの力はもう十分あるのに。
けれど、僅かな高揚感が胸にある。
悪くないな。
いや良いな、今日はいい日だ。
そういう事にしよう。
いい日だと思えば、気持ちもそう感じるかもしれない。
実際にいい気分ではあるのだ。
そんな事を考えていた。
「おやおや、これは何だい? 妙な気配を感じてきてみれば、妙なゴブリンがお前はいったいなんなんだい?」
声? 声が聞こえているのか、これは何だ、この世界の言葉など俺には分からないのに、確かに意味が分かる。
俺はあたりを見回す。
女がいた。
紫のローブにとんがり帽子、そして杖。
魔女だ、まさしく魔女でいた。