日々
少年との日々は穏やかに過ぎていった。
毎日狩りしたり、果物を採集したり、たまに木剣で稽古をつけたりしている。
少年は日々逞しく成長していた、狩りもどんどん上手くなり木剣での稽古でも強くなったと感じる。
一年くらいはたったのじゃないかと感じた、正確にかぞえてた訳ではないが。
俺の自惚れではなければ、少年との間に確かな信頼を築けた様な気がする。
少年はよく笑う様になったし、俺もずいぶん毎日が楽しく感じる。
不安もあった、少年はいつまで、ここにいるのかと。
少年の幸せを考えれば、人がいる場所に戻ったほうが良いと思えた。
いずれ戻るべきだと、そのために少年を鍛えてきた、一人でも森を抜けれる様に人里に下りても生きていけるように、俺はついてはいけないのだから、おそらくそうだろう、人里の近くにゴブリンの居場所等ないだろうから。
正確のところは分からないが、少年は十分強くなった様に思えた。
もう少しすれば安心して森を抜けれるだろう、それ以上の強さが少年が生きていく上で必要になるかは俺には分からなかった。
少年が強くなった、安心感と淋しさが同時にある。
いつの間にか離れがたく感じている自分がいる。
もしかしたら少年も同じ様に感じてくれているかもしれない。
けれど別れが近いのは感じていた、なんとなくだか。
ある朝目が覚めると、少年は静かに俺の前に座っていた。
少年の目が語る。
旅立つ日が来たのだと。
思いの外、すんなりと受け入れる事ができた。
寂しくはある、けれども避けられない事だ、時期も悪くない。
今の季節は気候もいい、少年の安全を考えるなら今がいいだろう。
俺は立ち上がる、見送るために。
少年も俺に続いて立ち上がる。
別れの時だが、少年の目に確かに寂しさが見えた。
少年は頭を下げる。
俺は何か少年にしてあげたッたが何も思いつかない、餞別に贈る様なものもない。
自分の不器用さが恨めしく思えた。
ただ無骨な手で少年の頭を撫でた。
それだけだ。
少年は黙って頷き、そして俺の体に腕を回し抱きつく。
ゴブリンの無骨な身体には人の温もりは感じづらい、それでも確かに、温もりを感じられた気がした。
いい日々だった。
ありがとうと伝えたかった。
けれど口からでる音は鈍い鳴き声しかでない。
その鈍い鳴き声を聞き少年は涙する。
たまたまか、それとも、気持ちが伝わったのか。
俺には分からない。
少年は俺から離れると森へと足を進めていく。
見えなくなる手前で少年はもう一度だけ振り返り、手を振ってくれた。
俺も手をふる。
そして少年は見えなくなった。