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第79幕 再び訪れし場所

 イギランスへと向かう道中は……特に何事もなかった。

 馬車での旅は妙にのんびりとしていて……いや、だからこそ不気味さを感じていたのかもしれない。


 なにもないこと。

 それこそがその『不気味』の正体だろう。

 なまじ色々と考えさせられることが続いたせいか、刺激が足りないとでも言うのだろうか……。


 とりあえず、俺たちは今、イギランスの首都ドンウェルにいる。

 道中に何も起こらなかったことがちょっと気にはなったが、肝心の首都も至って普通。

 一年前に訪れた時とほとんど変わっていない。


「ここがヒュルマの首都の一つ、ねぇ……」


 若干面倒そうな様子で声を上げているシエラは、興味深そうに周囲を眺めている。

 まるでちょっと消極的に来てみたはいいが、徐々に気になり始めたお上りさんのようだ。


「あ、あの……シエラちゃん……あんまりきょろきょろしたら……」

「私の勝手でしょう? あなたには関係ないわ」


 エセルカが心配そうな表情でシエラをたしなめたのだが、肝心のシエラは鬱陶しそうな顔で適当にあしらっている。

 道中は確かになにもなかったが、エセルカとシエラの仲はうまく行ってなかった。


 エセルカはシエラに歩み寄ろうとあいつなりに色々話しかけてはいるようだが、肝心のシエラの方が『あまり話しかけてくるな』というかのような雰囲気を出しているほどだ。


「シエラ、もう少し歩み寄れないか?」

「……なにが?」


 俺がそれを諌めようと声を上げると、シエラはぶすっとした様子で聞き返してくる。


「なにが……ってわかってるだろう」

「はぁ……あのねぇ、これでもこっちはかなり我慢してるのよ?」


 深いため息を一つ吐いた後、ジトッとした目をこっちに向けながら、子供に言い聞かせるように離していく。


「今まで敵だとしてきたヒュルマ――人と一緒に行動を共にしてるのが苦痛だって言ってるのよ。

 あなたは平気かもしれないけど……少なくとも私はそうじゃない。

 今すぐにでも敵になりそうな人物とすぐに仲良くなるだなんて無理よ。

 それでもここに来たのはあなたを信じてるから、というのを忘れないで欲しいわね」


 ……確かに、シエラは魔人で、エセルカは人だ。

 くずは達のところにいるルーシーは一応勇者なだけあってくずはやセイルと話すのにはなんの抵抗もないだろう。


 だけどシエラは俺と同じ魔人で今まで戦ってきたのが人だったんだ。

 急に仲良くしろ、というのが無理な話だったのかもしれない。


「グレリアくん、私は大丈夫だから」


 どう言えばシエラが受け入れてくれるだろうか? なんて考えていると、エセルカが首を横に振りながら『もう大丈夫だと』言うかのように目で訴えかけてきていたもんだから、思わず口を閉ざしてしまう。


「私もシエラちゃんの気持ち、わかるから。

 私たちにとって、アンヒュル――魔人の人たちはずっと敵だったから。

 それが急に味方になって……私たちだって戸惑ったり、嫌そうにしてるのに、シエラちゃんにだけそういうの押し付けるのは良くないよ」


 エセルカは少し弱い声音で、しかしはっきりとそう言った。

 自分たちもシエラと同じように嫌悪感を抱いてるのだから、彼女にだけ押し付けるのは止めてくれ。


「……わかった。エセルカがそこまで言うのであれば、なにも言わない。

 俺の考えを押し付けるようなことして悪かったなシエラ」

「いいわ。あなたみたいに人側に友達がいたら、そういう考え方するのも当然だし、ね。

 でも覚えていて。私もルーシーも、口には出さないけどわだかまりが未だにあるってこと。

 それをまとめあげるのがあなたの仕事よ」


 それだけ言うとどこかそっぽを向いてしまう。

 それに見守るような形でみんなで歩みを進めていくと、シエラは少しだけ、照れるような感じでこれだけ言ってきた。


「ま、出来る限り努力してあげるわよ。私も一応、あなたについていく変人の一人なんだから」

「変人ってのはないだろ……」

「魔人が人と行動を共にするなんて変人も良いところよ」


 はっ、と鼻で笑ってきたシエラだったが、それに嘲笑するようなものはなくて、むしろ何を当たり前なことを……というかのようなニュアンスが含まれていた。


「じゃ、じゃあこの話は終わりにして……これからどうするの?」


 話の流れを変えようこれからの動き方について話し合おうとするエセルカに対し、一つうなずきながら俺は今後のことについて話し始める。


「まずは城の中に潜入することだろう。

 が、これは魔方陣でなんとか出来るし、そう難しいことじゃない」

「身体能力強化と、自分たちの姿を見えづらくする魔方陣ね。

 どっちも常時展開型だから常に使い続けなくちゃならないけど……エセルカの方はどうするの?」

「エセルカの方には俺が同じ効果の魔方陣を展開する。俺の方ならまだまだ余裕があるし、なんとか出来るだろう」


 シエラはそれを聞いて驚いたようだったが、エセルカの方はいまいちピンとこなかったようだ。

 それもそうか……これは魔方陣を使える魔人にのみわかることだろう。


「他人に常時展開型の魔方陣を使う場合、いつもの倍は魔力を消費するわよ? それでも大丈夫なの?」

「ああ。危なくなったらすぐに知らせるさ。今はなるべく迅速に行動しないとな」


 なんの問題もないと、自信満々に言い切ってやると、俺たちは一日宿に泊まり、その次の日にドンウェルの街の奥――以前一度行ったことのあるあの城へと侵入することになった。


 昔の時とは違い、今回は彼らの疑念を暴きに――。

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