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第75幕 全ては繋がっていく

 グレリアは魔人の国を周り、シエラを仲間にし、イギランスの勇者であるルーシーを捕縛する。

 そして、彼らはさらなる情報を求めてジパーニグとグランセストの境目近くの村を転々として……セイルたちと出会う。


 一年掛けての再会。

 それはさらなる波乱への幕開けへと繋がる――。



 ――◇――



 俺は自分自身のことは極力伏せつつ、セイルたちにこれまでの経緯を説明することになった。

 流石に自分が魔人であることは打ち明けはしたが、それ以外はなんとも……。


 今はまだ、過去の英雄が転生した姿であることとかは信じてもらえないだろうと思った。

 というか、あんまり一度に多くのことを教えたとしても頭が混乱するだけだろう。


 事実、くずはは俺が話したことを素直に受け止めきれず悩んでいる。


「グレリアが魔人だったなんて……」

「「……」」


 セイルとエセルカも互いに考えるように顔を伏せて、黙ったままだ。

 もし……もし、彼らが受け入れてくれなかった場合、それはそれで仕方ないだろう。


 それもまた、俺の人徳が足りなかったということだ。

 人側、魔人側で湧き出た疑問。それを解決するためには遅かれ早かれ今の壁にぶち当たっていた。


 今はただ……。


「三人共、無理に俺と共に来てくれとは言わない。

 ま、それなら出来れば敵に回ってくれないほうが嬉しい、って気持ちくらいはあるけどな」


 軽く流すようにあっさりとした態度を取った俺が気に入らなかったのか、わずかに睨むように俺の方を見てきたセイルは、深くため息をついて呆れたような笑いを浮かべてきた。


「はぁ……確かにアンヒュル――魔人だったな。

 魔人にはいい思い入れもないし、俺達はあいつらは悪い奴らだと教わって育ってきた」


 一瞬、シエラが嫌そうな顔をしていたが、すぐに表情を元に戻した。

 それはセイルの顔が、魔人たちを批判しているわけではないことが見て取れたからだ。


「でもよ、実際魔人であるグレリアと接して……一緒に時を過ごしていた時を思い出すとさ、周りのやつらから悪だ悪だと言われてるのとはちょっと違うんじゃないか……そう思ったんだ」

「セイル……」

「正直、まだ戸惑いはあるし、そこのアンヒュル――魔人の女の子は信用できない。

 でもお前なら……グレリアなら信頼できる。だから、俺は俺が信じたお前を信じる」


 セイルのその言葉はどこまでもまっすぐな感情が……思いが伝わってきた。

 そしてそれに追随するようにエセルカも俺の真正面にやってきて両手を胸の方でぎゅっと握りしめていた。


「わたしも……わたしもグレリアくんの事、信じる。

 だって、グレリアくんはずっと優しくしてくれた。

 とても強くて……いつもわたしやセイルくんを助けてくれて……。

 そういうあなただから、信じられる」

「エセルカ……」

「あー、もう!」


 エセルカが上目遣いで俺に訴えかけている間に覚悟が決まったのか、頭を勢いよくぶんぶんと振って、くずはは力強い決意をその目に宿す。


「こうなったら乗りかかった船。

 あたしだってグレリアには随分助けられたし、頭ごなしに悪いだなんて、否定できるわけ無いでしょ!」


 はぁー、と深いため息をついて、微妙に頬を赤らめてそっぽを向くくずはにも感謝しつつ、俺はつくづくいい仲間を持ったと思った。

 例え敵対している種族と同じ存在なのだとしても、信頼出来る仲間がいるだけでこうも心強いものかとも感じたくらいだ。


「……驚いた。まさか本当にわかってくれるなんて思っても見なかったわ」


 成り行きを見守っていたシエラは、信じられないものを見るような目をしていた。

 どこか戸惑いながらも嬉しいような……そんな雰囲気と表情を纏っている。


「当たり前だ。魔人だから、人だから……そんなんで崩れるような関係だったら、俺は最初っからここまでグレリアを探しに来てねぇよ」

「うん。どんな人でも、グレリアくんはグレリアくんだもん。

 わたしたちの思いは変えられないよ」


 二人の返答を聞いて、よほど面白いものを聞いたのか、にやにや――いいや、によによといやらしい笑顏を浮かべている。

 ……ちょっとそれは気に食わないが、不思議と悪い気分ではない。


「あなた、随分と信頼されてるじゃない。

 ま、でもわかる気がするけどね」

「……どういう意味だ?」

「自信たっぷりな割に勉強熱心だし、色々と考えてくれてるんでしょ?

 迷宮から出てすぐ、わたしを庇うように立っていたし、ね」


 それまた、シエラにも随分と評価されていたもんだ。

 俺はてっきり、今でも田舎から出てきた『グレリア様』なのだとでも思っていたよ。


「それで、話の腰を折るようで悪いんだが、肝心のもう一人の……イギランスの勇者はどこにいるんだ?」


 その言葉に、そういえば来たときは確かに連れていたルーシーの姿が見えないなと思い、シエラの方に顔を向けると……彼女はどこかバツの悪そうな顔で右斜め下に視線を落としていた。


「そう言えば一人きりにさせることになるからって逃げられないように縛って隣の空き部屋に放り込んでたわ……」

「「「……」」」

「あ、あはは……」


 ……縛っておいて忘れるなんて酷い話もあったもんだな。

 エセルカは苦笑いを浮かべていたけど、俺達からするとなんとも言えず、思わず言葉を失ってしまったほどだ。


 いくら隣が空いてたからって縛って放り込むことはないだろうに……。

 結局、俺達が改めて話を再会したのはルーシーの拘束を解いて、しばらく彼女の心を宥めた後のことだった。

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