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第73幕 鎌使いの女勇者

 俺達が現れたのを見咎めるような目を向けてきたイギランスの兵士の様子に気づいた女勇者はきょろきょろと周囲を見回してようやく俺達の事を見つける。


 その姿はほっそりとした身体に美しい白と金の入り混じった髪。それが左右の二つに分けられていて、縦にくるくるとロールしている……といえば良いのだろうか。

 身長はシエラよりは小さいが、くずはよりは高いといったところで、比較的なだらかな体型をしている。


 強気なその少し濃い青色の瞳は、鋭く俺達を睨んでいて……一瞬出会ったばかりのくずはを思い出した。


「あら、貴方たち……アンヒュルが気軽にわたくしの事を見ないでくださるかしら?」

「な、なにを……!」


 アンヒュルと言われ慣れていないのか、シエラはちょっとムッとした表情で女勇者を睨んでいる。

 それにしても……イギランスはこんな勇者をまだ隠していたのか。


 勇者会合で本土に行ったはずなのに、全く気づかなかった。

 ここは一つ、挑発してみようか。


 友好的に接する、というのはなんだか違ってる気がするしな。


「そういうあんたはヒュルマに召喚されていい気になってるお山の大将じゃないか。

 あんまり調子づいてると怪我をするぞ?」

「なっ……!」


 驚きと怒りに――というよりも屈辱に顔を歪めているところを見ると、挑発に乗りやすいタイプだろう。

 まあなんだ。俺と似たようなタイプだな。


「よくもこのわたくしにそんな無礼な発言を……」

「はっはっはっ、申し訳ない。たかだか田舎の村にやってきていい気になってるもんだからつい、ね」


 わざとらしく大きく笑いながら更に挑発をかけているとみるみるうちに額に青筋が浮かびそうなほどの怒りを心の奥に宿していることがわかる。


「ちょ、ちょっと! なんでそんなに挑発してんのよ!」

「お前だっていきなり馬鹿にされたら頭にくるだろう?

 だから代弁してやったんだよ」

「そんな私の心の声を読む行為はやめてちょうだい!」


 代弁した、という点については一切否定しないんだな……と思ったが、それを言葉にすると、更に起こりそうな気がしたから止めておいた。

 全く……今ここで俺達のほうが喧嘩してる場合じゃないと思うんだがな。


「お前たち……この方を誰だと思っているんだ!」

「は? ちっちゃい国で持て囃されていい気になってるにわか勇者だろ」

「き、貴様!!」


 おーおー、相当煽られてるな。

 俺も挑発されると乗りやすいんだが、こいつらはそれ以上だ。


 よっぽど自分のやってることに対する行いや国への忠誠度が高いのだろう。

 良い兵士達だとは思うが、最良とは言えないな。


「よくも……よくもこのルーシー・オルティスに向かって……!」

「悪いな。俺はお前のことなんか、露程も知らん」

「こ、この……!」


 とうとう兵士たちも全員抜剣して、俺達――いや、俺に向かって戦闘態勢を取ってきた。

 ルーシーは……どうやら大きな鎌のようだ。


 艷やかな黒が美しく、黒い刃が綺麗だ。

 正直戦闘用というよりも芸術品の域にまで到達していると言っても遜色ない。


 俺の手元にあるなら、飾っておきたいほどだ。


「無礼なアンヒュルめ! 今すぐ我らが正義の元に成敗してくれる!」

「……やれるのか? お前らに」


 今までの挑発が吹き飛ぶほどの殺気を込めてやると、勢いづいていた兵士たちは途端に尻込みしてしまった。


「わかってるよな? それは挑発とは違って、ただじゃ済まないぞ?」


 挑発するのは自由だ。

 だが、手を出せばどうなるか……それだけははっきりさせておかなくてはならない。


「やれるに……決まってるだろうが!」


 兵士の一人が駆け出してきた瞬間、身体強化の魔方陣を展開し、速攻で突撃してきた兵士の懐に潜り込む。


「……なっ」

「は、はぁ?」


 そのまま肘を水平に保ったまま横向きにしてその無防備な鎧に打ち放ってやると、重たい――嫌な音を周囲に響き渡らせながら壁に激突するまでぶっ飛んでいった。


 あれは完全に鎧が砕けたな。

 一応威力を制御してやったから死んではいないだろうが、しばらくは再起不能だろう。


「…………」


 これで黙り込んでしまったのが……なぜかシエラも含めたこの場の者全員だった。


「どうする? まだ鎧を砕かれたいか?」

「くっ……」

「……まだですわ!」


 キッと力を込めた視線を俺に向けてくる辺り、ルーシーの方はまだ目が死んでいないみたいだ。

 なるほど、一応勇者と言われているだけのことはある。

 兵士達なんかよりはずっと精神が強いみたいだ。


「喰らいなさい!」


 鎌を持って意気揚々と突撃を仕掛けてくるという、何も学習していないルーシーに対し俺は再び魔方陣を使って加速する。

 次は懐に潜り込むんじゃなくて背後に回り込み、そのまま軽い電撃の魔方陣を構築して解き放った。


「きゃあ!?」


 いきなり背後から電撃を叩き込まれたルーシーは、そのまま気絶するまで痺れてもらうことにした。


「貴方……悪魔ね……」


 電撃を浴びせられ続けているルーシーの哀れな姿を見てか、恐る恐ると言った様子で俺の方に視線を向けていた。


「はっ、俺はまだ優しい方だろう」


 これが本当の魔人だったら、間違いなく殺されてるだろうからな。

 それか……勇者である彼女はそれより過酷なことをされるかもしれないだろう。


 万人の前で石を投げられて処刑、なんてことにならずに済んだだけありがたいと思ってもらいたいもんだ。

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