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第67幕 最古の剣

 シエラに引っ張られるような形でアッテルヒアの街並みを見ながら歩き続ける俺は、魔人の子供が楽しそうに遊んでいる姿。


 男達が元気いっぱいに働き、女達が談笑する姿を見て、とても……とても複雑な気分になった。


 魔人も人間も何も変わらない。

 魔方陣を使うか、詠唱魔法を使うか……ただそれだけの違いしかないはずなのに。


 なぜこんなにも憎み合っているのだろう?

 どうして争わなければならないのだろう?


 いや、俺がこんな事を思う資格がないことくらい、十分承知しているつもりだ。


 自分の性分くらいきっちり見定めている。

 強い奴が力を振りかざして横暴を働いてる姿を見るのがなによりも嫌いで……それをも赤子を捻るように踏み潰していく王によって統制された魔物達が嫌いだった。


 弱者はその中でどうすればいい?

 大人しく、強者の言いなりでもなっていればいいのか?

 食い潰されるまま、無作為に生きろと?


 ――そんなわけがあるか。


 弱いから、相手が強いから。

 そんな理由で諦めて、腐って、全てを投げ出したくなかった。


 弱くても強くなれる。

 圧倒的な存在でも諦めなければ必ず届く。


 そして――俺はそれを示し続け、弱きを守る剣となる事を選んだ。


 どんなに血反吐を吐いても、ボロボロになっても、力を得るために足掻き続けた結果が今の自分を作っていると言えるだろう。


 と、ここまで言えば聞こえはいいが、要は力にはより強大な力で対抗するというやり方しか知らなかったんだ。

 そうすることでしか大切な人すら守れない、弱い人間が――俺の本性だった。


 ま、簡潔に言えば俺もまた、力を振りかざす大馬鹿だったってわけだ。


 だから本当の悪意を持って誰かを傷つける奴のことを俺は嫌う。

 それはある種の、同族嫌悪から来ているのかもしれない。


 そんなことを考えながらシエラについていく自分が時に滑稽に思えるのは、それは彼女にはまだ未来が輝いているように見えるからかもしれない。



 ――



「着いたわよ。ここがその目的地」


 しばらく歩き続けて俺たちが到着したのは、この賑わいを見せる……悪く言えば雑多な場所にあって、唯一静かで清らかな場所のように思える祠のような所だった。


 順々に人が並んでいるように見え、彼らは異様な熱気に包まれている。


「こいつらは何をしてるんだ?」


 微妙に呆れたような声を出したのが聞こえたのだろう。

 住民達のムッとした視線が俺の方に次々と突き刺さっていく。


「剣に祈りを捧げるために並んでるのよ。

 グレリア様がこの世に復活して、ヒュルマ達を打ち滅ぼして、魔人の世界を取り戻すことを」


 ――何を馬鹿らしいことを。


 そんな言葉が喉を通して口から出かかったが、意識してそれをこらえる。


 何かにすがりつくこと。

 それもまた弱者の心の拠り所になる。


 だから頭ごなしには否定できなかったんだ。


「なるほどな。

 その剣、誰でも見ていいのか?」

「当たり前じゃない。

 ちゃんと順番を守って並ぶ必要があるけどね」

「あれを、ねぇ……」


 結構並んでいるように見えるそれは、大分時間がかかりそうに思えた。

 一回の移動で数人が一気に入るのはいいんだが……。


「どうする? まだしばらくは待つ必要がありそうだけど」


 シエラは考えを読んでいるかのように小首を傾げて俺の反応を見ているようだが……うん、やはり一度は見てみたい。


「せっかくだし、並ぶか」

「それじゃあ私、何か買ってくるから、そこで並んでて」


 俺が代わりに行く――と言いたかったんだが、シエラの方はさっさと行ってしまった。

 ……仕方ない。ここは言われた通り待つしかないな。


 シエラを追いかける事を諦めた俺は、彼女が帰ってくるまでぼーっと列の中で待ち続けるのであった。



 ――



 手頃に食べられるものを買ってきたシエラと雑談をしながらのんびり待っていると、ようやく出番が来たのか、いつのまにか最前列にいた。


「次、いよいよだね」


 シエラの方も少しずつわくわくしてきたのか、興奮の色を隠しきれていない。

 祠の中にいた人が出ていくのを確認して、俺達は顔を合わせるように頷いて中に入る。


 そこは少し暗くて、松明の炎でぼんやりと照らされていた。

 中にはあれだけ人が入っていたせいか、多少熱がこもっているようで少し暑い。


 その中央に見えるように安置されているのがかつて俺が使っていたとされる剣……『グラムレーヴァ』……?


「なんだあの剣は……」


 呆然と呟いた俺はあまりの出来事に思考することを忘れて、絶句する。


「どうしたの? あれがグレリア様が使っていたとされる剣。

 グレリア様が復活した時、それが本人なのかどうかを判断することができる『選定の剣』としての役割を担ってるらしいわね」

「いや、違う」

「え?」


 これ以上俺は何も言うことが出来なかった。

 いや、ここでそれを口にすればきっと、さっき以上に危ない空気に包まれてしまうだろう。


 だが、これだけは――長年戦い抜いてきた戦友(とも)のように命を預け続けていた俺だけははっきりと言える。


 この剣は『グラムレーヴェ』なんかじゃない。

 ただの偽物だということを……。

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