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第49幕 翳り覚える道

 しばらく帰りの旅を進んでいくうちに、くずはとセイルの距離がぐっと縮まっているのがわかった。

 ちょうどセイルが宿屋の扉をぶち壊した次の日辺りのことだったな。


 あいつがなにをしたにせよ、くずはが元気になったのはいいことだ。

 やはり、彼女のことはセイルに任せて正解だった。


 くずはもすっかり持ち直し、今まで暗く過ごしてきたことを俺達に謝り、それ以降は普段通りに接してくれている。

 司が軽い感じで余計な事を言っていたが、すっかりいつも通りに接していた。


「くずはちゃん、元気になってよかったぁ……」

「そうだな、俺じゃあそこまでは出来なかっただろう。

 ……あの様子は流石に予想外だったけどな」

「……ん? グレリア、どうした?」


 スッと視線をずらすと、そこには手を繋いですごい仲よさげに話をしていたくずはの姿があった。

 もっぱら彼女が元いた世界について色々と聞いていたようで、くずはの方もすごく柔らかい表情で嬉しそうに色々と話していたな。

 というか、ふわりと優しい笑みを浮かべているくずはは、どことなく印象に残る。


 強くキツめの表情をすることが多かった彼女がここまで変わるとは思いもしなかったが、案外これが彼女の本当の姿なのかも知れない。


 セイルの方は俺の視線に気づいたのか、楽しそうに笑いながら俺の方に視線を移していた。


「いや、随分仲よさげだと思ってな。まるで恋人同士だな」

「こ、恋人だなんて……」


 俺の言葉に慌てたのはくずは。

 若干照れているようだったが、それでもセイルの手を離すどころか、余計に強く握っているように見えるのだから本当にお幸せのようだ。


 そして、この事を面白く思わないのはやはり司で、若干不機嫌そうにくずはとセイルの事を眺めているようだった。

 彼は毎回町につくたびに何処かに行っているようだったし、それでくずは達二人の仲を嫉妬するのはお門違いというものだ。


 幸い手を出す気は無いみたいだから、放っておいたところで問題はないだろう。



 ――



 ドンウェルからジパーニグのルエンジャへと帰る道中、落ち込んでいた原因が取り除かれたことですっかり空気が元に――いや、若干浮ついているように感じていた時に、それは起こった。


「……まずいですね」


 ちょうど運転手側にいた俺に向かって、最初に切り出したのはミシェリさん。

 そして次いで感じるのは、後ろから何かが群れで移動してくるような足音。


「魔物ですか?」

「はい、しかも統率が取れているようでして……恐らく狼型の魔物達が群れているのではないかと」


 そんな風に分析するミシェリさんだが、俺はそれには疑問を感じた。

 今は若干広い通り道を進んでいて、右手には野原が広がり、左手には森が姿を見せている。


 こんな開けた場所で、普通狼が群れを作って襲ってくるか?

 森に住んでいる狼達が、わざわざ自分たちの地の利を捨ててまで襲いかかってくるとは思えない。


 それに、今俺達に襲撃を仕掛けてきそうな群れと思しき足音は、着々と俺達の()()から迫ってきているのだ。

 これが狼なら、森の方から攻撃を仕掛けてくるはずだ。


「……振り切れそうにないですね」

「はい。ここはやはり……」


 一度馬車を止め、俺とミシェリさんでくずはや司と連携しながら戦っていく。

 それが恐らく一番被害を少なく出来るだろう。


 だが、くずははまだ戦えるような状態じゃないはずだ。

 雰囲気は確かに前以上に元気だが、一度打ち砕かれた自信はそうやすやすと元に戻ることはない。


 実質戦力といえば俺・セイル・司・ミシェリさんになるだろう。

 ならば出来るのは、魔法による相手の行動の阻害。その一点に尽きる。

 その間にできるだけ距離を取り、追跡者を諦めさせることが手っ取り早い。


「ミシェリさんはそのまま前を見て進んでください。

 俺は馬車の上で魔法を使って足止めします」

「わかりました。気をつけてくださいね」


 神妙な面持ちで頷いたミシェリさんは一層気合を入れて前を見据えているのを確認して、俺は一度馬車の内部に戻る。

 馬車の上に行くことにしたのは、万が一こちら側に侵攻してくる敵を食い止められなかった時、他の二人が行動しやすいようにしておくためだ。


 セイル達は何が起こっているのか不思議そうな表情で俺の方を見ている。

 そうだな、まずは敵襲の可能性があることを説明するほうが先だったか。


「今何かがこっちに接近してきている。

 俺は馬車の上からそれを妨害する。もし、馬車まで来たときには対処、頼むぞ」


 セイル・司の方を交互に見ると、二人共了解を示すように無言で頷いてくれた。

 それを見届けた俺は、そのまま一気に馬車の上まで躍り出て、馬車の後ろから接近してきている何かを確認する。


 そこにいたのは――大きな黒い狼に乗った黒いローブの群れ。

 更に複数の足の早いであろう魔物で編成された、明らかにこちらを狙った敵の姿だった。


 どうみても何処かの国か……もしくはアンヒュルの刺客のように見える。

 が、そんな事はどうでもいい。今はこの戦局をどう切り抜けるか考えるほうが先決だ。


 俺があの時戦った暗殺者達以上に統率された動きに身構え、魔法を唱えはじめる。

 魔方陣による魔法が使用できないもどかしさを肝心ながらも、今できる最善を尽くすために、行動するのだった――。

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