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第43幕 英雄達の攻防

 他の勇者や護衛たちも観戦の為に一般席側に移り、今は俺とカーターの二人がこの広い闘技場の中にいるのみ。


「後悔するなよ。俺様に歯向かったことをよ!」

「なんだ寝てるのか?」

「……どういう意味だ」

「寝言を言ってる暇があったらさっさと現実に戻ってこい。

 そう言ったんだよ」


 相変わらず挑発に乗りやすい男だ。

 自分に確固たる自信があるのならば、この程度の挑発で青筋を立てることもないだろうに。

 空虚な自信。言葉で揺らぐ程度のものしか持ち合わせていない証拠だ。


 俺達が睨み合う中、エンデハルト王は戦いの開始を告げる前の口上を述べ始めた。


「それでは、カーター対グレリアの戦いを始める。

 双方とも、これはあくまで腕試しである。明らかな手抜きは感心しないが、出来るだけ力を見せつつ、節度ある戦い方をすることだ」


 つまりなるべく本気を出しながら、死なないように手加減しろということなのだろうが、またえらく難しいことを言ってくれる。

 大体そんなものは目の前の馬鹿を見てから言ってほしいものだ。

 カーターは最初からそんなもの知ったことではないと言わんばかりに俺を睨んでいるんだからな。


「それでは、戦闘、開始!」


 エンデハルト王の言葉と共に、カーターは一気に駆け出してきたが……図体の割に恐ろしく速い。

 どこからそんな速度が出せるんだ、と言いたくなるほどだ。


「ほら、よぉ!!」


 軽い音を立てて繰り出された蹴り。威力はそれほどでもないだろうと判断した俺は、片手で受け止め反撃しようとしたのだが……なぜか嫌な予感がして踏ん張るように大地を踏みしっかりと防ぐ体勢を取る。


 鈍い音と共に蹴りが俺の両腕に深くめり込み、その衝撃で地面を擦るように弾き飛ばされるが、なんとか堪え、カーターの挙動を見据える。


 ……どういうことだ?

 さっきまで軽いと判断したあの蹴りが、まるで重りを入れているかのような重い一撃になっている。

 全体重を載せたとしてもこれだけの威力の蹴りは出せないはずだ。


 そんな風に思っていると、再び軽やかな足取りでカーターは俺に接近してくる。


「どうしたどうしたぁ! 口先だけのクソガキがぁ!」


 息もつかせぬ拳の連打。

 軽いかと思われるその一撃一撃は、途中で重さが加わったかのような鈍い痛みを伝えてくる。


 ……ん? 『()()()()()()』?

 自分で思って我ながらその考えは当たっているのかも知れないと思った。

 つまり、カーターの能力は……『重さを操ること』だ。そうすれば説明がつく。


 俺の方になんともないということは、能力を把握しきれていないのか、もしくは自分にしか使えないのかのどちらかだろう。


「そらそらそらそらぁ!!」


 俺が何もしてこないのを良いことに、左に右にと、小気味のいいパンチを次々と繰り出してくる。

 ……いい加減、調子に乗らせておくべきではないだろう。

 魔方陣が使えれば倒すのも簡単なのだが、それが封じられてる今、身体能力だけで渡り合うのは不利。

 なら、使える手はなんでも使わないとな!


「大地を揺るがせ我が魔力。他者の行動を阻害せよ【ランドシェイク】!」

「おわっ、なんだ!?」


 襲撃者が襲ってきた時に使った大地を揺らす魔法。

 これで少しはこちらが有利になればと思ったが、予想以上に体勢を崩している。

 少々予想外だったが、チャンスだ。


 カーターは既に俺が攻撃できる範囲にいる。

 そのまま俺は無防備な体に一撃を入れ、【ランドシェイク】が止んだ瞬間に大地を思いっきり踏みしめ、カーターの腹部を下から突き上げるように鋭い一撃を食らわせてやった。


「ぐぶっ……」

「まだ、まだぁ!」


 緩んだ隙を見逃すほど、俺は優しくはない。

 立て続けにくるりと一回転しながら上段回し蹴りの体勢をとり、そのまま流れるように鋭い蹴りをお見舞いしてやる。

 ちょうど顎の部分に当たり、激しく頭が揺さぶられたようだ。


 ふらふらとよろけ、片膝をつきかけたそこにさらに畳み掛けるように地面を踏みしめ、上半身を捻るように腰を動かす。

 そのまま思いっきり力を込めて繰り出すのは、身体全てを使って解き放つ渾身の右ストレート。


 体勢を整えかけてるカーターの顔面にそれが突き刺さり、打ち抜くように振り抜いた。


 カーターはそのまま吹っ飛び、満足に受け身も取れずに無様に転げてしまった。


 決して油断せず、カーターの動きを見守るが、完全に決まったようで起き上がる気配がなかった。


「な、何が起こったんだ?」

「なんだよあの動き……」


 俺とカーターの攻防を見て驚愕の表情を浮かべながらがやがやと騒ぎ立てているのは、勇者とその護衛。


 気持ちはわかる。

 あれはセイルとかだったら回し蹴りを放つ前に体勢を整えられていただろうし、よしんばそこまではいけたとしても、ストレートを放つ間が無かっただろう。


 俺の方も身体強化を使わずに繰り出したせいでそれなりに身体に負担がかかった。


 対して国のトップに立つ王達は興味深そうに俺の方を注目しているようだった。


「グレリア! すげぇ!

 回し蹴りからストレートの辺りの動作なんて全然見えなかったぜ!」


 俺はセイルがあんまりにも尊敬の眼差しを浮かべて騒ぎ立てるもんだから、思わず拳をグッと突き上げ、ちょっとした喜びをアピールした。


 かなりやってしまった感がある……誰から見てもわかるほどの圧勝。

 だけどこれで少しはさっきの借りを返すことができたと言えるだろう。


 カーターのように英雄である――勇者である事をいいことに好き放題やろうとする奴に対しても牽制できるだろうし、一石二鳥というものだろう。

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