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第389幕 結末の一撃

 頭の痺れや身体の痛みを堪えながら、近距離を保ったまま攻勢に出る。どうせロンギルス相手に距離を取ったところで魔方陣による攻撃の嵐が降り注ぐに決まっている。それなら例え決断力や判断力が鈍い今のような状態でも……この距離を保ったままの方がずっとマシだ。


「ほう、距離を取らずに向かってくるとは……その勇気は称賛に値するな!」


 顔は笑っているけれど、目は全く笑ってない。残忍な笑顔ってのはこういうのを言うんだろうな。


 ロンギルスは『空間』の魔方陣を複数展開して、出現させてきたのは……様々な剣の類。ヘルガみたいに銃を使った方が効率がいいだろうに、なんでわざわざ……?


「行くぞ」


 ロンギルスが号令のように手を振りかざすと同時に数多の剣が俺に向かって放たれて……それを回避したと同時に、別の場所で『空間』が開いて、さっき見たような剣は再び出現する。


「なんだと……!?」

「『空間』にはこのような使い方もある。そして……」


 続けざまに放たれたのは『命』『炎』の起動式(マジックコード)で作られた魔方陣。それで出現したのは、うねる様な炎が俺に襲い掛かる。降ってくる剣の間を縫うように迫ってくる。ゆっくりと迫ってくるそれは、他のものと比べるとゆっくりに見える。


「こんなもの……!」


 軽く避けてやると、その炎は俺に纏わりつくように動き出す。


「貴様はこういう使い方はしなかったが……『生命』の宿した『炎』は、対象を焼き払うまで止まることはない」


 なんというえげつない魔方陣を使ってくるんだ……! 内心で舌打ちしながら次の行動を思考を巡らせる。身体の表面を焦がすように熱いこの炎は、魔方陣で攻撃してもなんの効果もない。


 これじゃあ、徐々に体力を消耗してやられるのが目に見えている。こうなったら……!


「ロン、ギルス……!」


 この手段は出来るだけ取りたくなかった。俺にはもう『生命』の魔方陣が存在しない。そこで自分を壊す程の力を注ぎ込んだら……自分でもどうなるかわかってる。だけど、このまま何も出来ずに死ぬわけにはいかない! 炎で焼かれ、剣で弄ばれるように切り刻まれ、それでも……戦えるなら止まれない!


「……なにをする気だ?」


 俺の尋常じゃない様子を見て、訝しむように問いを投げかけるロンギルスに対して、『ふっ……』と笑ってやる。


「これが……俺のぉぉぉ! 生き様だぁぁぁぁぁっっ!!!!」


 俺の戦い方は『限界を超える』事だ。それで幾度となく困難を打ち破ってきた。構築する魔方陣を重ねる。何重、何十重。『英』を基準にして『身体』『力』『速』と順番に構築していく。自分の雷で頭の奥底がじんじんと痺れているところに、更に魔力が全身に満ちていく。


「がぁ……あああぁぁぁぁっっ!!」

「……死ぬ気か。いいだろう。貴様のその気持ち、受け止めてやろうではないか!」


 ロンギルスの顔もまともに見れない。わかるのは……奴の気配。それと、自分の存在。グラムレーヴァをゆっくりと構えて、一気に駆け抜ける。一歩踏み出したかと思うほどの時間なのに、目の前にはロンギルスがいた。笑みを浮かべて俺の動きに合わせて剣を振るう。


 ――わかっているさ。『身体強化』を重ねれば、ある程度対応くらい出来る。それ……くらい!


 即座に『英』『刃』『鋭』の三つの起動式(マジックコード)で組んだ魔方陣をグラムレーヴァに纏わせる。五つに重ね、暴走しそうな魔力を力ずくで押さえつけながら一気に振り下ろした。


「……っ!」


 視線が交差した気がした。ロンギルスの目に宿るそれが何なのかはわからなかった。響いた清らかな音と共に視界に映ったのは、折れた剣と斬り裂かれた『空間』の魔方陣。そして全身から魔力が抜け落ちるような感覚。真っ赤になってどうにかなりそうだった視界が、色が抜け落ちるように正常に戻っていく。


「はっ……ははっ……」


 ロンギルスの乾いた笑いが響く。それと同時に『生命』『癒』の魔方陣を展開してくる。


「それ、くらい……ぃぃぃっっ!!」


『英』『魔』『断』の魔方陣をグラムレーヴァに纏わせる。今、この瞬間。ロンギルスは無防備だ。少しでも時間が経てば、あっという間に傷を癒して元通りになる。それを防ぐのが……この一撃だ。


 ロンギルスに『生命』の原初の起動式(オリジンコード)を奪われた時から、最後にはこうなる事が予想出来ていた。『英』の原初の起動式(オリジンコード)を手に入れ、諦めずに練った対抗策が……最後に実って本当に良かった。


「……セイル」

「ロンギルス」

「ふっ、みご、と……だ……」


 崩れ行くロンギルスから、折れた剣の柄がゆっくりと零れ落ちていく。カランカランと乾いた音が響いて……彼の最期を静かに看取った。


 って言っても、俺自身も魔方陣やら戦闘やらのせいでずたぼろだ。薄れ行く意識の中で自分の身体が倒れていくのを感じた。だけれど、すぐに何かに支えられたような気がする。


「よく……った。セ……」


 誰かが何か言ってるような気がしたけど、身体が重くて……眠くて……よく、きき……とれな、い。


 ――仇……は、と……たぞ。ス……ナ……。

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