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第371幕 略奪のシアロル①

 兄貴たちは数日程みっちり準備した後、帝都に向けて旅立っていった。


「お兄ちゃん、良かったの?」

「……ああ」


 横になっている俺の隣で、スパルナは暢気に果物を食べていた。この子は俺が兄貴と一緒に行きたがっていたのを知っていた。だからこんなことを聞いてきたんだろう。俺はそれに対して、どうにも歯切れの悪い返事をすることしかできなかった。


「お兄ちゃん?」

「仕方ないさ。俺は怪我をしてるし、なにより兄貴の足手まといになるくらいなら、行かない方がマシだ」


 兄貴と一緒に行くってことは、より激しい戦いの中に身を投じる事になるってことだ。その先にはヘルガが、ロンギルス皇帝が待っている。今は大分マシになったとはいえ、あの時の俺はまだ戦える状態じゃなかったからな。

 準備期間中に何とかなるかわからなかったし、妥当……としか言えないのだけれど、どうにも心の中に残るものがある。だけど、それを口に出すことはしなかった。心の中で後悔するのは自由だけど、口に出すのは嫌だったからだ。


「そうだ! せっかくだからちょっと外に出よう? 部屋の中に一人っきりじゃ、余計に悪くなっちゃうよ」

「……そうだな」


 スパルナの言う通り、療養と称して部屋の中に閉じこもる日が続いていた。そんな生活を続けてたら、心の奥底まで暗くなってしまうだろう。


「それじゃあ、ぼくね、お兄ちゃんと行きたいお店があるんだ!」

「わかった。わかったから落ち着け」


 俺が頷いたその瞬間、花が咲いたように笑ったスパルナは、早く行こうと腕を掴んで引っ張ってきた。それを宥めるように『仕方ないな』とため息一つついたその時――兵士が一人。部屋の中に入ってきた。


「セイルさん、スパルナさん。少々お時間はいいですか?」

「えー……」

「そういう顔をするな。で、どうしました?」


 せっかくのお出かけなのに……とスパルナは少し頬を膨らませて兵士を睨んでいた。それを軽く諫めながら、兵士に話の続きを促した。


「実は……最近、物資が少しずつ減っているのです」

「物資が?」

「はい。グレリア様方がいらっしゃるときはそうでもなかったのですが、あの方がいなくなった途端の出来事でして……上層部はシアロルの者が行っているだろうと結論付け、なるべく穏便に解決するに、と」

「穏便に……ね」


 随分と難しいことを言ってくれる。仮に敵国の間者が物資を盗んでいるんだとしたら、間違いなく一戦になる。


「……見張りは? 物資が盗まれてるって事がわかってるなら、見張りくらい立てたんだろう?」

「それも……倒されてしまい……」


 だから軍の中でも(自分で言うのもなんだが)強い俺の方に話が飛んできた、というわけか。後は単純に俺がいればスパルナもついてくるって事だろうけど。


「わかった。なら物資が盗まれている場所に案内してくれ」

「お兄ちゃん、でも……」

「大丈夫だ。それに、お前も一緒についてきてくれるだろう?」


 スパルナに軽く笑いかけると、彼は仕方ないなと腰に手を当てて少しふくれっ面をしていた。


「もう、お兄ちゃんは無理しないでよね?」

「わかってるさ。それじゃあ、案内してくれ」

「わかりました。こちらです」


 ――


 兵士の案内を受けた俺たちがたどり着いたのは、数ある倉庫の中の一つで、武器を管理している場所だ。ここに来るまでの間、食糧や薬を保管している場所も同じような事になっているのを説明された。そちら側には銀狼騎士団と一般兵を複数人つけて見張りに当たらせているそうで、俺たちは軍にとって一番大事な場所を守ることになったそうだ。


「お兄ちゃーん。これ」


 スパルナはこっちにとことこと駆け足で走ってきて、両手に持ったスープの入ったカップを手渡してくれた。

 ……なんでか、クルトンが所狭しと敷き詰められたオニオンスープで、苦笑が漏れてしまう。


「ねぇ、来るのかな?」

「……さあな。それは侵入者次第だろう」


 実際のところ、来ないならそれでいいと思っている。俺も動けるとは言っても万全じゃないし、あまりスパルナに負担を掛けたくはなかった。

 だけど――


「お兄ちゃん!」


 スパルナの声と同時に『英』『防御』で構築した魔方陣に衝撃が走った。


「狙撃銃か!」

「危なかったね。でも、『索敵』の魔方陣には何も引っかからないよ?」


 スパルナは困惑してるようだけど、俺は兄貴の言っていたことを思い出していた。兄貴が一人で戦っていた時、『隠蔽』の魔方陣が刻まれた道具を使っていたらしい。今回も、恐らくその類の物を使っているんだろう。


「……スパルナ。どこか適当に――そうだな。弾が飛んできた方向に走るぞ」

「え、なんで?」


 いきなり小声で喋り出した俺に変な顔をしたスパルナは、とりあえず俺に合わせてくれた。


「あいつらの目的はここの中身だ。一度ここを離れて、敵がやってくるまで隠れる。そこを……」

「叩くって寸法だね!」


 静かに頷いた俺に合わせるようにスパルナは狙撃された場所の大まかな検討をつけてくれた。二人でそこを目指す――ふりをして適当な暗がりに姿を隠した。


 これで準備は完了だ。さて……敵は引っかかってくれるかな?

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