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第337幕 必然の殺意

「随分と変わりましたわね」


 戦場からの帰り道。ルーシーは俺のやり方に疑問を抱くように言葉を投げかけてきた。あれから、俺は彼女を片時も離れないように厳命して連れ回していた。彼女も一応勇者だ。異世界から喚ばれた彼女が呆気なく降伏した事実は、既にあちら側に伝わっているだろう。となれば、次に来るのは確実にヘルガだ。向こうで使える勇者()はもう彼女しかいない。武龍(ウーロン)を無理やり引きずり出してくる可能性ももちろんあるが、どういう結末を迎えるかは向こうもわかってるはずだ。二人も勇者がこちらに降ってしまえば、全体の士気に関わりかねないからな。


 そして肝心のヘルガ。彼女は他の勇者たちと明らかに違う。以前に『あの人』と呼んでいる人物に執心しているように見えた。それは恐らく……いや、間違いなくシアロルのロンギルス皇帝だろう。となれば、工程を裏切った形になったルーシーの事はヘルガに取っても腹立たしい存在に違いない。俺を疎ましく思うのと同じように、ヘルガにとっては許せない事のはずだ。ルーシーの方も俺に殺されるか、ヘルガに殺されるかを迷っていた節があったからな。


 そんな訳で標的となり得る俺たちは、互いに固まって行動することにしたという訳だ。そうなると、自然に俺がやっている事が目に付く。一方的な蹂躙を行いながら、涼しい顔をしているのだから、以前の俺を知る彼女からはそんな思いも湧き出してくるのだろう。


「そうか? そんな自覚はないけどな」

「昔はもっと……貴方を慕う彼の前では、もっと優しい眼差しをしておられました。今の貴方は……凍えそうな冷たい視線を(ヒュルマ)に向けておられます」

「にこにこ笑って戦争なんて出来る訳もないだろう。立場が違えば見え方も変わる。年月を積み重ねれば理解出来なかったものも理解出来るようになる。自覚であれ、無自覚であれ……変わる事は生き物として自然な事だ」

「それは……そうですけど……」


 どうにも煮え切らない様子だが、実際にルーシーも俺たちと別れてから随分変わった。地下の本で書いてあった『元の鞘に収まる』というやつだろう。あの時は勇者として行動することに疑問を持っていたはずなのに、結局再び相対したんだからな。


「それでも、このように人を冷酷な目で見るような方ではありませんでした」

「ルーシー……俺たちは殺し合いをしてるんだ。お前だってそれはわかってるんだろう? 自分が今、どういう状況にいるかも」

「……最後の勇者――ヘルガをおびき出すためでしょう? わたくしはロンギルス皇帝陛下を裏切った。彼女がそんなわたくしを許すはずがありませんわ」

「物事一つ違えばこうも違う。俺たちは、そうやって生きていくんだ」

「そういう……ことなのかしら……」


 ルーシーはまだ少し悩んでいるようだったが、残念ながら今はこれ以上考えている時間は残されていないようだ。


「ルーシー、気付いたか?」

「……ええ。痛いほどの殺気が伝わってくる」


 心地良いほど伝わってくる殺意を受けながら、それを放つ敵を待ち構えていると……ゆっくりと物陰から姿を表した。


「……グレリア」

「随分、恐ろしい声で呼び掛けてくるな」


 以前会った時と全く同じ姿で、尋常じゃない殺気を纏っているヘルガが隙だらけで立っていた。いつでも切り込めそうでもあるが、それをした瞬間、彼女が俺を殺しに来ることはわかりきったことだろう。


「へ……ヘル、ガ……」


 ルーシーの声が聞こえたヘルガは、少しだけルーシーの方に視線を移したが、すぐにこちらの方に視線を戻した。


「良いのか? お前の目的の一人だろうに」

「そんな弱い女、いつでも殺せる。今は……貴方の方が先」


 随分はっきりと言うが、ルーシーの方もそれをわかっているらしく、今から始まることの邪魔にならないようにと少し後ろへと下がっているようだった。


「よくも……あの方の邪魔をしてくれたな……!」

「そっちこそ、俺たちの事を随分と攻め立ててくれたじゃないか」

「……なんであの方の支配を拒む? あの方が望むのは真の平和。争いの一切ない、完璧な夜明け。それを否定する、戦いに飢えた獣め……!」


 そちらから先にあんなゴーレムを造り出しておいて、随分と自分の都合の良いことを言いながら俺に向かって殺意を振りまいてくるな。真の平和……鼻で笑いそうになる。そんなものはある訳がない。戦い・競争は生物の本能だ。生きている以上、それは避けては通れない。どう折り合いを付けていくか……それが大切なんだと思っている。


「好きに思うがいいさ。わざわざ文句を言うためにここに来たわけじゃないだろう?」

「……そうね。あの方の為に、貴方を殺す。今度こそ……油断はしない!」


 ヘルガは複数の魔方陣を同時に扱い、無数のじゅ――


「な、なんだと……?」

「言ったでしょう? あの時のように油断はしない。本気で殺してあげる……!」


 銃を喚び出している魔方陣もあるが、それ以上に目を引くのは……金属――いや、地下都市の本で書いてあった『機械仕掛け』という表現がぴったりの二対の腕だった。

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