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第326幕 グランセスト防衛戦

 ジパーニグからグランセストの国土に足を踏み入れた俺たちにもたらされたのは苦境に立たされている現実だった。

 今までとは違う新しい人型のゴーレム。戦場で突如出現する巨大な鉱石――いや、地下風に例えるなら機械の腕。更には戦車に装甲のついた車に攻撃機。まるで総力戦でも行っているのかと思うほどだ。


「……すごく大変なことになってるのは伝わったんだけど……疲れた」


 宿屋の一室でだらしない姿を晒しているシエラは、疲れた顔で呟いていた。


「……そうだな」


 かくいう俺も似たような状態だ。地下都市で色々な知識を蓄えた俺たちならともかく、グランセストで普通に暮らしている者たちに戦車などの兵器や銃や機械の種類なんてものがわかるはずもなく……手に入れた情報を暗号でも読み解くように話し合って、ようやくそこまでの話を整理することが出来た。


 いつも以上に頭を使ったせいで完全にお疲れな状態だというわけだ。


「でも、なんだか予想以上に大変な事になっているのかも。首都の方は大丈夫なのかな……?」

「大丈夫だ。銀狼騎士団の活躍だって聞いてるだろう?」

「それはそうだけど……苦戦してるところもあるって……」

「心配するのはわかる。だけど、もう少し信頼しよう。エセルカだってそれを望んでるはずだ」


 シエラはどうにも煮え切らない様子で言葉を返していた。確かに、各地で起こっている状況は芳しくないし、首都に近づきつつあるこの町では色んな噂が飛び交っている。だけどそれと同じくらいに銀狼騎士団の皆が頑張ってくれているという話だってある。それを信じないでどうする? アルディやシグゼスを初めとした銀狼騎士団なら大丈夫だ。


 ――なんてことを考えてたら、シエラがなぜかにやにやとした顔でこっちを見ていた。


「……なんだよ」

「いやー、やっぱりエセルカの事が気になるんだなーってさ」


 何を言うのかと思ったら……そんなことか。下世話で少し嫌らしい笑みを浮かべて、俺をからかおうとしている。うんざりするが、シエラは止めるつもりはないようだ。


「久しぶりに会いたいんじゃない?」

「……そう、だな」

「アリッカルに行く時に記憶を取り戻してあげたんでしょう? エセルカってば、グレリアの事気にしてたからねー」


 楽しそうに話しているところ悪いが、シエラが考えてるような甘い関係じゃない。エセルカは俺とのやり取りを全く覚えてなかったが、俺はあの時の彼女が遺した言葉を覚えている。散々彼女の気持ちを踏みにじった俺が、どんな顔をして今のあの子に会えばいい? ……それでも、今のエセルカは俺の事を好いてくれている。あの時の彼女とは違って、積極的にくっついては来なくなったけど……それだけは確かだった。だから、尚更辛い。


「グランセストに着いてミルティナ女王に報告を済ませたら会ってきなよ。きっと寂しがってるからさ」

「……そうだな」

「……グレリア、なんで適当な返事してるの?」

「さてな」


 あまり期待に添えない返事をしている俺に、シエラは不満を持っているようだ。

 だけど仕方がないだろう。察しろ、と言っても何も知らない彼女には無理だからな。適当に受け流すのが一番だということだ。


「もう少しきちんと答えてよ」

「……そんなことより、明日も早いんだ。さっさと部屋に戻って休め」

「えー」


 シエラはぶつくさと文句を言っていたけど、しばらくすると不満げな顔で自分の部屋へと引き返していった。なんで毎回俺の部屋にやってくるのかはわからないが、これでようやく俺も休めるというわけだ。


 ――


 次の日。シエラが言っていたエセルカの事を思い出してしまって、上手く眠れなかった。夢の中でもあの日の事を思い出すなんて……かなり後悔してる証拠だろう。


「グレリ……グレファ、ちょっと寝不足気味?」

「ん、まあな」

「あんまり夜ふかししたら駄目だよ? 気になるのはわかるけどさ」


 誰のせいでそうなったと思ってるんだか。シエラの方はいつも通り元気が良くて、それがまた少し気に障る。流石に外では『グレファ』と呼んでくれているが、これで『グレリア』呼びだったら怒るところだ。


「出来れば明日までに首都の方に行きたい。疲れ過ぎないように行くぞ」

「はーい。寝不足は大丈夫?」

「これくらいなら平気だ。それより、国が心配なんだろう?」


 頷くシエラは少し気になる様子で俺の方を見つめていたけど、『身体強化』の魔方陣を発動させて、先行していった。俺の方は軽く気持ちを落ち着かせて、ゆっくりと深呼吸した。寝不足の頭に空気を送り込むように何度も行った後……魔方陣を発動させる。


「……よし、行くぞ」


 こんなところで留まっている訳にはいかないとシエラを追い抜いて、一気に首都に――


「ちょ! グレファ速い!」

「ほら、早く行くんだろう? 置いていくぞ」

「ま、待ってよ! 疲れないように行くんでしょー!」


 ――少し憂さを晴らすように全力で走ってやった。シエラが慌てて俺に付いてこようとして徐々に離されていくのを見て……ま、多少は気が晴れたかな。

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