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第12幕 グレリア対吉田

 リングの方に上がると、すでに吉田は待機しているようで……俺を小馬鹿にするようにこっちを見ていた。


「何処の誰かは知らないが哀れだね。この僕と戦うことになるなんてさ」


 大層なことを言いながら剣先を俺に突きつけてるのはいいが……本当に大丈夫なのか?

 ちなみに俺は今回も素手だ。正直、武器を使うと手加減できないかも知れないからな。

 不測の事態が起きた時、首を切り落としてしまったとかシャレにならない。


 ある程度修練を積んでるやつが相手ならそうでもないんだが、こんな素人同然のやつは何をするかわからない。

 ある意味では普通の戦士より厄介な相手だ。


「はい、それではルール確認しますよ。まず、生命の奪い合いになるのは禁止です。あくまで訓練の一環ですから、相当とも無理に戦わないように。基本的に怪我をさせない程度に留めておくように。いいですね」

「努力はしますよ。努力はね」

「はい」


 この男……明らかになにかする気満々じゃないか。大方あいつの真後ろにいるお付きの貴族がなにかしようっていうんだろうがな。


「それでは……はじめ!」


 試合開始の合図とともに吉田は一気に駆け出し、俺の頭を狙って刺突を繰り出してきた。

 ついでに後ろの方で魔法を使っている気配を感知。まあ、それくらいしかないよなぁ……。

 さてどうしよう。左に避けようか? 右に避けようか?


 なんて事を考えながら彼の剣がこちらに届くまでふらふらと頭を揺らして……結局右に避けてやる。

 そのまま吉田が俺の方を通り過ぎると、目の前から火球が迫ってきていた。詠唱を小声でやったのはいいが、わざわざ火の魔法を使うってのは選択ミスすぎるだろ……。

 俺だったらまず確実に風か地面に干渉する魔方陣を起動させるけどな。


 避けられない速度ではなかったし、それも当たらない程度にかわしていく。


「はい、今魔法を使った者、後でみっちりお説教ですよ」


 案の定呪王(クルスィ)に目をつけられてしまった。これは今日一日、確実に不幸が訪れるだろう。

 さて、これくらいでいいだろう。人生一個分の有利を背負ってる分、少々ずるい気もするが……それを含めて今の俺だからな。

 こんなところで苦戦してたらそれこそ俺を知ってる奴らに笑われる。……もう、そんな奴は何処にもいないんだけどな。


 後ろから殺気とも言えない可愛らしい気配を感じ、無造作に上空を薙ぎ払うように腕を振るう。


「なっ……!」


 たったそれだけで吉田の握っている剣の腹に当たり、その衝撃があまりにも強かったんだろう。

 あっと言う間に剣を手放し、カラカラと音がして何処かに行ってしまった。

 そのまま俺は右足を軸に思いっきり身体を捻りながら斜めに倒し、その勢いで吉田の頭に残った左足の爪先を合わせてやる。その完全に相手を殺しそうなほどの勢いの上段蹴りをぶちかま――す寸前で止めてやる。

 ビュオォッなんて我ながら蹴りの音じゃないなと思えるほどの空気を切り裂く音がした。


「ひ……ぇ……」


 俺の攻撃が寸止めで終わったのに安心してか、吉田はへなへなと座り込んでしまった。

 うん、我ながら動きにキレがないような気がする。


 やはり生まれ変わってから成長途中の身体……ということなのかも知れない。

 いや、それ以前にこの程度じゃやる気が起きない、というのが一番の原因なのかもな。


「はい、勝者グレリア・エルデ」

「大丈夫か?」


 へたりこんでしまった吉田に一応手を差し伸べてみたのだが……我に帰ったのか弾かれてしまい、冷たくあしらわれてしまった。


「よくも……よくもこの僕に恥をかかせてくれたね……!」


 大丈夫だ。お前の家名自体がすでに恥のようなものだからな。……なんてことは口が裂けても言えなかった。

 これを言ったが最後、この男どころか、この国自体を的に回しそうな、そんな予感がしたからだ。


 だが、吉田からは完全に恨まれてしまっただろう。

 負けてあげても良かったのだが、そんな事をしてもこいつは調子に乗るだけでなんの成長にも繋がらなかっただろう。

 なんにせよ、これ以上彼にかける言葉はないということだ。


 何を言ったとしても吉田の感情を逆なでるだけだからな。

 そう判断した俺は、そのままリングを降りて歓声の絶えないL組の方に戻っていった。


「あ、あの、お疲れ様、グレリアくん」

「おう、ありがとうよ」


 戻ってきてすぐエセルカが俺のことを迎え入れてくれた。

 普段のその顔のまま笑顔を浮かべてるもんだから、なぜか苦笑しているように見える。


「おいおいおいおい! グレリアすごいじゃねぇか!」


 そして俺を見つけてものすごい速度でやってきたセイルは目を輝かせて俺の方を見てきた。


「セイル、とりあえず落ち着け」

「落ち着いてなんかいられねぇよ! あそこまでストレートに勝利されるとこっちもスカッとするぜ!」


 腕をグッと構えるようなポーズをとってニカッと笑うのはいいんだが、彼の名前が呼ばれるとすぐにそちらの方に興味が移ってしまったようだ。


「お、今呼ばれたな。それじゃあ、いっちょ暴れてくるぜ!」

「おう、頑張ってこい」

「あ、あの! 頑張って!」


 俺とエセルカの声援を受けて、今度はセイルが貴族の……レイセル・今川と呼ばれた、貴族にしては筋肉質な男と相対するのだった。

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