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出陣、ギルドマスター!  作者: あみーご
1.学園に通いたい!
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魔力を封印されている感覚を例えるなら便秘


 ようやくミルシアから解放された俺。聖白の中庭に出て、目を閉じて意識を集中させた。頭のなかである建物の位置と方角を鮮明に描く。



「転移」


 そして粒子が散るように俺の姿はそこから消えた。

 次に目を開けたとき、視界に広がるのはこの国で一番巨大な城の入り口。でもまるで魔王の城みたいに真っ黒だ。心の底から趣味悪いと思う。心の底から。

 急に現れた俺に驚くこともなく、肝の据わった門番二人は一歩前に出た。



「名を名乗れ」


「聖白ギルドマスターだ。見て分からないか」


「ッ、申し訳ございません! その、御召し物がいつもより……いえ、失礼致しました」


 小汚ないってことですね。分かります。なんかゴメンね。



「いや、いい。ブラスディア国王にお目通し願いたい」


「はい。国王様は自室でお休みになられています。こちらへ」


 ゆっくり門を開けていく門番に促され中に入った。ていうか俺、めっちゃ猫被ってます。格好つけてます。ギルド以外での俺は"寡黙でクールな男"だから。なりきってるから。『ちーっす! 国王いる?』とか言えたらどんだけ楽なんだろうね。今度言ってみようかな。


 そんなことを考えながら城の中に入り、真っ赤な絨毯を踏みしめながら奥へ向かう。魔力で動くエレベーターに乗り、どんどん上へ上っていった。つーか家にエレベーターとか! まじ魔力の無駄! そんなんだから国王メタボるんだよ。


 着いたのは最上階。シャンデリアがきらきら彩る無駄に長い廊下を抜け、一番奥にたどり着いたとき、前を歩んでいた門番が扉の前でひざまずいた。



「国王様。聖白ギルドマスター様がお見えです」


「……通せ」


 低くどっりした声が響く。その声に従い扉を開けたそこはこれまた立派な部屋。国王の趣味である絵画が壁の至るところに飾られ、ぎっしりと本の詰められた本棚が左右に設置されている。


 奥には漆塗りの広い書斎机と、その机に両肘をついて組んだ手の甲に顎をのせる国王がいた。真っ白の髭を生やし、細められた目は獣のように鋭く、年のせいで重みを持った瞼がその瞳に乗っている。黒のローブを着ているせいで中の服は見えないが、手入れのされた王らしい白髪の長髪がそれだけで威厳を放っていた。そして、少しメタボだ。


 すぐさま仮面を消した俺は王の前まで歩みでて片膝をつき、右手を胸に当てて頭を下げる。



「突然の訪問申し訳ございません。ご相談したい件があり、伺わせて頂きました」


「……聞こう。お主、下がってよいぞ」


 そう告げられた門番は深く頭を下げ、部屋を出た。そして扉が閉められ、暫くしてから王の肩が震え出す。



「……ぶっ、あーはっはっは!! お前なんだその小汚ない格好は!! お似合いだな!!」


「黙れジジイ!!」


 あの恥ずかしい格好をやめていきり立つ俺。そういえば、この王のあまりの変わりように最初は全然慣れなかったな。



「カエル! カエルがくっついているぞ! お前のペットか!? ぶはははは!」


「なんだと!? くそっ、まだついてたか!」


 ローブを脱いでパンパンすると、小さいカエルが五~六匹転がった。これやったやつ何がしたかったの? 馬鹿なの?



「って、そうじゃなくて。話があんだけど」


「そういえばそうだったな。なんだ、言ってみろ」


「俺、学園に通いたいんだけど」


 いたって真面目な顔で告げる。王は眉間にシワを寄せ、暫く黙ったままだった。なんだよ。ここでも反対されんのか?



「フィアよ。一つ聞こう」


 少しの緊張。なんだかんだ言ってもこいつは迫力がある。



「……それ、なんでワシに言う?」


「親がいねーんだよ! どうやって通うのかなんも分かんねーんだよ! 察しろよ!」


「なんだ、そういうことか。もしやお前はワシを実父とでも思っておったのかと……」


「なんて図々しい。せめて祖父だろ」


 若干ひきつった顔で冷たく答えた。しかし反対する様子はないので少し緊張がほぐれる。



「学園か。まあ、一つの勉強かもしれんな。いいだろう。ワシが手配しておいてやる」


「あっさりだな」


「お前がここにいるということはエスカやマリムの許しは貰ったのだろう。ならばワシから言うことはない。それにアークと同じクラスにすれば心配はないだろう」


 そう。アークは普通に学園に通っている。アークは聖白ギルドの幹部扱いではあるが、実は聖白ギルドには所属していない。同い年だし、仲良いし、戦うときもあいつとが一番息が合う。俺が聖白ギルドを建てる前から慕ってくれた大事な友人だ。なので俺の右腕……みたいな感じで聖白にいる。


 所属はしていないということで、アークも俺と同様、一般には名前や顔が出ていない。エスカとかマリムとかは顔も名前も全部有名だからね。羨ましいわ。それにアークは俺みたいにギルドの依頼任務とかの仕事も受けられないようになってるから、きちんと学園に通っているのだ。たまにサボってくっついてきたりするけどね。



「俺いつから通えるの?」


「もう明日から行けるだろう。制服ももう用意させた」


「いつ!?」


「さっき、思伝しでんで」


 どや顔の王。テレパシーっすか。あんたそれ得意だもんね。だが残念だったな! 俺もできる!



「しかしフィア。お前はそんなことより気にかけることがあるだろう」


「は?」


「魔力はどうするつもりだ」


 一瞬思考が止まる。忘れてた。本当に。え、どうしよう。こんなナリでもギルドマスターを名乗っているので、魔力の量は桁違いです。凄いです。いっぱいあります。『こんなに魔力量あるのって孤高の制裁者くらいじゃね!?』という噂が多分立つ。



「それになぁ、魔法の授業など必要ないだろう。それにお前は知識もある。学園に通う意味など無いと、ワシは思うがな」 


「おいジジイ!! 何言ってんだ!! 学園はな……」


「分かっておるわ。遊んだり遊ばれたり、青春したいのだろう? お前も子供じゃな」


 なんだ分かってんじゃん。



「そこで、だ。ワシがお前の魔力を抑えてやろう!」


「ま、マジで!?」


 当たり前だが、自分で自分の魔力を抑えることはできない。魔力使って魔力抑えるのに魔力使うとか意味わかんないからね。つうか俺の説明が意味わかんねえな。



「俺の魔力抑えられんの!?」


「……多分」


 多分かい! でもそうだ。抑える魔力が多ければ多いほど力を使う。魔力封印の魔法は一度膨大な魔力を使って封印してしまえば、あとはその魔法をかけた本人の許可で魔力を解放したり、再び封印したりできる。その時に魔力は使わない。

 つまり初めが肝心なわけで。最初さえクリアすればオッケーだけど、その最初がめっちゃきついって感じ。アークももちろん魔力封印がかかってるが、それをかけたのはエスカ。そのあと疲れきったのか、死んだように動かなかったエスカにアークが必死で謝っていたのをよく覚えてる。



「私を甘く見ているようだなフィア! 一国の王に不可能は無い! ぶはははは!」


「いいから早くやってくれ」


 気持ち悪い笑いから目を離す俺に、王は席を離れて俺の目の前に立った。二度ほど深呼吸し、真剣な瞳で俺の額に人差し指と中指の先を当てる。



「沈めし力は想いの宵闇。結ばれし契約は我の力を以て。応えよ、魔力封印」


 封印するため、王の凄まじい量の魔力が額に流れ込んでくるのを感じる。その魔力は額の皮膚の下で蠢き、俺の魔力を吸収しながら一センチ四方に固まったのが分かった。外からは見えないが、額のなかに魔力のプレートが埋め込まれたのを感じる。


 でもさ。ちょっと待って。

 ちょっと、これ……



「抑えすぎじゃない!?」


 ヤバイってこれ! 例えるならあれだ。元の魔力がドッカーン!!って感じだとしたら、今は『ちょろん…』みたいな!



「ふっ、馬鹿め。貴様、丁度良いバランスを残して封印するというのが一番難しいのを知らんのか。ハァ……ハァ、ましてやお前のようなアホみたいな力、バランスなどに気を使わずひたすら力を流し込んでガッと封印するので精一杯ゲホゲホッ!」


「なに威張ってんだよ! 疲れきってんじゃねえか!」


 一瞬にして目の下にクマができ、汗びっちょりの王。こうなったらもう只のおっさんにしか見えない。そのままふらふら椅子に腰掛け、書斎机にぐでんと寝そべる。



「とりあえず今は解除だな。ほれ」


 王が人差し指を振った瞬間、俺の魔力が一気に戻った。なんか変に気持ちいい感じだ。ずっと我慢してたウンコが出きった時みたいな。



「いや、それにしてもさ。あんなに抑えられて大丈夫かな俺。自分の体じゃないみてえなんだけど」


「おい、フィアよ。お前は生まれながらにしてそのくらいの魔力しか無い者がいることを知っているか」


 急に真面目になった王にびっくりする。そして今の問い。確かに魔力量は努力により増えるが、持って生まれた量がそもそも少なければ周りに追い付けない。だから能無しと言って冷たい目で見られると、聞いたことがある。 



「いい機会だ。魔力の少ない者が学園でどんな扱いをされるのか、身を以って確かめてみろ」


 言われてみれば一理あるかもしれない。俺は戦いの場でばかり生きてきたから、確かに魔力の少ない者が差別される場面など見たことがなかった。それを知れる機会なのだ。それも自分自身の体で。

 納得したよ。納得したけど。



「おいジジイ。お前その言い訳いま考えたろ」


「こ、これだから子供は。ワシがそんな風に見えるか」


「つーかさっきから五月蝿いんだけど! 疲労のあまり膝がガタガタ笑ってるよ!?」


「武者震いだ」


「ごまかしてんじゃねえよ!」


 それから色々話し合い、学園に通うための条件が出された。学園では絶対身分を明かさないこと。学園長以外の教師にも秘密にすること。


 それは逆に不便そうだと思ったけど、自分の生徒がギルドマスターだと知ったら身構えてしまい、特別視してしまう可能性があるかららしい。でもこんな条件に意味はない。何故ならそんなことは分かってるからだ。だってそうだろ? 俺は普通の生活がしたいから学園に行くのに、普通じゃないことを自らバラしてどうする!! そんなのはただの馬鹿だ!!



「制服と、必要なものを詰めた鞄を聖白ギルドのお前の部屋に届けるよう伝えた。いいか、フィア。明日は早起きして、制服着て、届いた鞄をそのまま持っていくんだ。興味本意で中身出すなよ? お前は忘れっぽいからな」


「分かった」


「そうしたら七時半までにギルド近くの公園に転移しろ。アークをそこへ迎えに行かせるから、一緒に行くんだ。魔力封印はそのあとだな。ワシに思伝で伝えろ」


「……分かった」


「ハンカチ、ティッシュを忘れるな。それから髪の色は変えてけよ? ギルドマスターが蒼髪なのは有名だからな。それと……」


「分かった! 分かったから! 口うるさいジジイだな!」


「なんだと!? ワシの心配が分からんか!!」


「はいはい」


 王の話を最後まで聞かずに扉へ向かう。だがその扉を開けて出て行く前に、俺は拗ねる王の方を振り返った。



「……ありがとな」


 聞こえたか分からないが、恥ずかしいのでそのままエレベーターまで走る。なんで城のなか転移禁止なのかね、もう!


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