聖白
ギルド・聖白。
城と見間違いそうな純白の建物は、人々からの任務依頼とギルド隊員の育成を行っている。入り口は三重の門により厳重に警備され、中に入ったそこは落ち着かないほどの広さを誇るロビー。依頼を受付するカウンターが東西南北に四つ配置され、室内はまるでホテルのように、休憩用のテーブルやソファー、演奏用ピアノ等が置かれていた。
一番奥に進むと扉があり、その中は依頼を完了したギルド隊員の報酬受け取り部屋となっている。更には二階と三階が設けられ、二階は会議室や来賓室、幹部用の部屋があり、三階はギルドマスター専用の大部屋が一つあるだけだ。加えて、地下には。
「よそ見をするな。死ぬぞ」
「はい!」
「そこ! 防壁甘い! もっと集中!」
「く……!」
「威力があれば良いわけじゃありません。コントロール出来ないなら使わないこと」
「は、はい! すみません!」
ギルド隊員たちの訓練所があった。総勢六十五名の隊員と、三名の幹部。だだっ広いその訓練所内で二人一組になり戦う。その様子を三人の幹部が周りながら見定め、鍛え上げるのだ。
その訓練所の一番奥に腕を組んでただ佇む青年が一人。耳に少しかかる程度の深い蒼色の髪と紫紺の瞳が特徴的だ。彼はなにも言わず、ただ黙って隊員たちの戦いを見つめている。その出で立ちはどこか儚げで、しかし有無を言わせぬ強い気迫があった。
だが彼が着ているのはこの場には違和感を覚える真っ白のローブ。上質で品のあるそれには金糸で百合をモチーフにした紋章が刺繍され、そしてそれはギルドの頂点に立つ証である。
そう。彼こそが『孤高の制裁者』と呼ばれるギルドマスター。
彼は暫くしてから隅の掛け時計に目をやり、時間を確認して大きく息を吸った。
「休憩だぁああテメエら!!」
「うおっしゃああ!!」
静かで儚いその見た目とは大違いの、馬鹿でかい声が訓練所を木霊する。その声を聞き、今まで一心不乱に集中していた隊員達が歓喜の声を上げた。そんな隊員たちとは裏腹に呆れた表情を浮かべる幹部三人。彼等はぞろぞろとギルドマスターの前へ集まっていく。
「ちょっとマスター! また休憩!? 訓練になんないじゃない!」
「同感ですね。持久力も鍛えたいところなのに」
「おい二人とも。マスターに口答えとはどういうことだ」
一番に悪態ついたのはブロンドの髪を二つに緩く三つ編みし、赤いカチューシャをはめた童顔の女。次に鮮やかな緑の髪を後ろでちょこんとしっぽ縛りにした男。そして唯一マスターを庇ったのは、少し暗めの金の短髪を逆立て鋭い目を光らせる青年だった。
「んなことどうでもいいんだよ。ちょっとお前らに提案があるんだけど、聞いてくんね?」
「なによ。またくだらないことだったらぶん殴るわよマスター」
「くだらなくねえよ!! いいか、よく聞け!!」
幹部三人も、六十五名の隊員も全員が見守るなかでギルドマスターである蒼髪の彼はにやりと笑い、八重歯を光らせた。
「俺、学園に通いたい!」