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ラトゥムシリーズ

ご主人様発見報告。外伝1「メイド服はお手製です」


 

 今日という日は、素晴らしい快晴の日でした。

 と言っても、私の住んでいるこの村。レユラルがあるコアコセリフ国は万年雪が降る場所もある降雪地帯なので、晴れてない日は大体雪が降ってしまっているのですが。

 私がこの村に来て数週間。運のいいことに、私は乾燥期に入ったばかりのころに転居してこれたので、今のところ凍えるほどの寒さを体感したことはありませんが。

 どのくらい寒いものなのですかね。

 そんなことを考えながら、私は昨日出来上がったばかりの服に着替えていました。

 普段気慣れない服なので、少し時間がかかってしましましたが、これから朝の準備をするというのに、この格好をしないわけにはいきませんでした。

 滑らかな感触が指に伝わってきました。アレシアさんに用意してもらった生地がとても良いものだったのでしょう、こうして触れてみるだけで、人の肌に合った素材が使われているのだと分かります。

 少なくとも麻よりはずっと肌に優しい素材だとはわかります。

 肌に伝わってくる新しい感触に胸を躍らせつつも着々と着替えを進めていく。

 今日という朝を楽しみにして従者というものをやっていたと言っても過言ではありません。

 いえ、だいぶ過言かもしれません。


「よし、これで準備はいいですね」


 私は鏡の前に仁王立ちして、そうひとりごちました。

 鏡の中に映る自分の姿は想像以上に出来栄えがよく――、と言っても服装のですが――、今すぐ自慢してやりたくなるほどでした。

 ということで、リオさんに見せびらかすために自分の部屋の出口、今につながっているドアへと向かいました。

 ドアの向こうからは、誰かが歩いている音が聞こえてきます。ということはきっとリオさんも起きてきたのでしょう。

 私は思い切りドアを開けました。

 ドアの向こうには、いつものように仏頂面で食卓に着いているリオさんの姿がありました。もちろん、ほぼ休日に等しいのでラフなスタイルで。


「見てください、リオさん」


「なんだ……。うお」

 短い驚愕の声が聞こえてきました。

 ふふ、見るがいいのです。この私の艶姿を。

「なぜ給仕姿なんだ」

「ふっふっふ、これぞご奉仕するために生まれた服なのです!」

 そう、リオさんの言う通り、私が着てきたのは給仕服。しかも割と高級な、貴族様がたが自らの御付きに与える服をあつらえて見ました。

 このためにあつらえた白いエプロンドレスに、黒いワンピースドレス。同じく白いカチューシャで自慢のピンクブロンドをまとめているため、傍から見たら若干奇妙かもしれませんが。

 ボレロジャケットとか、コルセットドレスとかいろいろ悩んだ末にワンピースにしてみました。

 渾身の出来です。

 というわけで、渾身の作品を見せに来ました。

 どんどんと彼に近づいていく私の態度で何かを察したのでしょう。明らかに面倒くさそうな顔をしています。

 心が折れそうですけどそんなの関係ありません。

「ほれほれ、どうですか」

 ちょっと大胆に頬をつついて見せたりなんてしてみせます。

 ……誰も見てないはずですけど。

「やめろ、つつくな」

「むう、感想を言わない方が悪いんですよ?」

「やめろ。分かったから」

「ほう、何が分かったって言うんです?」

 最初に見るなり驚きで固まってた人が何か気の利いたことが出来るのでしょうか。

 まあ、私も私でこの人にそんな気を回せるとは思ってないのですが。

 ――ん、しかたありませんかね。

 今日はこのくらいにしておいてやりましょう。

 そう思って離れようとすると、腕を掴まれてしまいました。

「ほえ?」

 ふわりと、自分の髪の毛が視界の端で舞っていました。

 重力が急に働いたのではないかと思うほど急に、そして唐突に私の体は彼の体の方へと引き寄せられ、気が付いたときには頬から、馴染みのある麻の感触がしました。

 何事かと思って視線を迷わせていると、上に彼の顔がありました。

 いつも見ているはずの、彼の顔。

 そして、いつもよりもっと近くにある、彼の瞳。

 ああ、リオさんの目って、茶色だったんですね。

 そんなどうでもよいはずのことに気が付きました。

 ようやく事態を飲み込んで整理をすると、唖然としている間に腰に手を添えられていて、引き寄せられてしまっていたようです。

 これは、どういう事なんでしょうか。

「ほ?」

 リオさんにどういうつもりか聞こうとしたら、変な声が出てしまいました。

 情けない声をどうにかしようとしていると、不意に彼の体が自分から離れていくのを感じました。

 呆気に取られていると、目の前には立ち膝をしているリオさんの姿。そして、彼が立ち上がったであろう、椅子が横に転がっていました。床はいつものように床板です。

 そして、まるで離れたと思った彼の感触が、指先から伝わってきていると脳が遅れて理解しました。

 じんわりと、人肌の温かさが指先から伝わり、自分の手が誰か――目の前のリオさんに恭しく持ち上げられていました。

 ――えっと、これはいったい?

 困惑の渦に飲み込まれていると、指先に彼の顔が近づいて行き、彼の前髪の隙間から、目を閉じている彼の顔が見えました。

 指先に、ほんの少しの冷たさと柔らかさが伝わってくる。

「似合ってるよ、ブラン」

「ほお!」

「給仕にしては、君は出来が良すぎるよ、ブラン。そのまま給仕にしておくのはもったいないくらいだ」

 そげなこと言いますか、この人は。

 もうちょっと気の利いた場所で言えないんですか。

 文句の一つでも言ってやろうとして、彼がパッと目を開けるのが見えました。

 自分の腕と、彼の髪越しの上目遣いに見つめられて、背筋がぞくっとする。

「ほら、これでいいか。お姫様」

 正直、いくら根が熱血漢で堅苦しいおつむを持った帝国人だったとして。

 自分の好み直撃のイケメンときたら、ときめかないわけがないわけで。

 でもこんな事態は想定しているわけではなかったのですよ、ええ。そもそも想定していたらあんな態度なんて取れるわけないじゃないですか。相手はイケメンですよイケメン。生きてきて百何十年まともに意識なんてしたことなんてないんですから。大体この人だっていつもはもっと適当な反応をして茶化したりして、ってそれは私ですけどつまりええと。

 頭の中が割れそうになってしまうほど考え込んで、私は一つの行動に出ることにしました。

 私は、私は……。

 私は。


「ち、ちちちが!」


「ちが?」


「私は、服の出来栄えを、ですね?」




 日和ました。







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