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主任は○○好きでした

「………何を言ってるんだ、君は」


今度は完全に眉を寄せ、呆れかえる部長。

若干面倒くさそうな顔をしているのが心に突き刺さる。


ぐすん。


「いや、これはこれで可愛いじゃないか。なぁ及川くん、やっぱり俺と……」

「相原…?」

「――はいはい、仕事しますって…」


事情はわからないまでも何やら不審なものを感じたらしい部長に睨まれ、あっさり前言を撤回する主任。

そして改めて高瀬に向き直り、冷静に諭す。


「及川くん、君を捨てるのなんだのという話はまず意味がわからない」

「だ、だって、アレク君がいれば私なんて部長には…っ」


手間の掛かる部下として切り捨てられても文句は言えないと焦る高瀬。

その背後では、一見仕事に戻ったように見えた主任が、「ナイナイ」と思い切り首を振っている。

それを再びジロリと横目で睨みながら、部長は言う。


「よく考えてみろ」


考える?


「確かにアレキサンダーのおかげで妙な霊に取り憑かれる事はめっきり減った。

だが、そもそもアレキサンダーが俺を守っているのは君に命じられたからじゃないのか?」

「…?そりゃ、確かにアレク君には部長を守るように言い聞かせましたけど…」


ほとんど自由意思で部長の下にいるのだから、自分の手柄ではない。

そういえば、明らかに馬鹿にした顔の部長が。


「…言っておくが、それは普通じゃない。

今まで少なからず動物霊に取り憑かれることはあったが、今回のようなケースは初めてだ。

リチャードもアレキサンダーも、明らかに君の影響を受けている」

「私の影響…」


断言されると、確かにちょっと否定しにくい。

霊力をたんまり与えているのは間違いないし…。


「それにな、君は俺がアレキサンダーの飼い主だというが、飼い主の定義とは何だ」

「……毎日餌をくれて世話をしてくれる人…?」


定義と言われると難しいが、思いつくのはそれくらいだ。


「俺はアレキサンダーに餌を与えたこともなければ、世話をした覚えもない」

「あ」


――――そう言われると、確かに。


霊体だから世話をする必要はないとは言え、餌(霊力)をあげているのは高瀬、つまりは――――。


「アレキサンダーの主人は、間違いなく君だ」

『ワンッ!!』


合わせるように、勢いよく声をあげたアレク君。


「それはすなわち、君が俺の役に立っている―――――そういうことだろう?」

『くぅ~ん、くぅ~ん』


甘えた声を上げ、すりすりと高瀬に頭をこすりつけるアレク君。


なんだろう。

そういうことにしときなよ、と唆されている気分になる。


これ、やっぱり飼い主は部長じゃないのか?え?部長に似てきてるぞ?

……でも、いいのかな。それでいいのかな??


「…部長…!!一生付いてきます…!!お給料をもらえる限り…!!」

「……そうか」


心からの誠意を表したつもりだったのだが、部長の様子がおかしい。


…あれ?部長なんでそこでちょっと悲しそうな顔になるんですか?

そして主任、「金の切れ目が縁の切れ目か…」とかつぶやかないでください。

これが大人の世界です。


捨てられないことが確定し、ほっと一息着いたところで、ふとあるものが目に入った。

高瀬がすがりついていたのと反対側の腕にかかっている、小さな紙袋。


「部長?それなんですか?」


またしてもお土産だろうか。

それはそれで嬉しいけれど、ちょっとサイズがおかしい。


「……置き土産、といったところだろうな。どうしようかと考えたんだが、君に渡しておこうかと…」

「置き土産?」


どういう意味だろうかと紙袋の中を覗き込み…その理由をすぐに悟る。


「これ…あの時の…」


さっちゃんが持っていた、幼児の人形。

いろいろあって、すっかり忘れてしまっていたが…。


「どこにあったんですか?」


尋ねる高瀬に、「自宅に落ちていた」と答え、そのまま紙袋ごと手渡す部長。


「処分は君に任せる」

「…処分、って…」


確かに部長の家にあっても困るだろうが、処分というのはさすがに…。

どうするべきかと袋に入ったままの人形を目線の高さにまでもちあげ、考え込む高瀬。


「それ、いらないら俺がもらってもいいかな」

「主任?」


後ろから声をかけられ、振り向いたすぐそこに主任の腕が。


「前に君が言ってた、あの子が持ってた人形ってやつだろ?俺が預かるよ」

「でも…」


いずれ持て余す時が来るのではないだろうかと渡すのをためらう高瀬。


「大丈夫。落ち着いたら()()()に渡してやろうかと思ってさ」

「あ…」


そうか、室井社長に――――。


「形見、ってわけでもないけどね」


そう言いながらひょいっと高瀬の腕から紙袋をとりあげ、感慨深げに目を細める。


「その人形…」


あの時はてっきり、幼い少女が人形を欲しがっているのだとばかり思っていたが、今考えればあれはきっと、人形を娘と―――幸希ちゃんと重ねていたのだろう。

全てがわかった今となっては、なんだか少し物悲しい。


「んじゃ、ちょっとロッカーにでも置いてくるわ」


しんみりする高瀬とは反対に、軽い調子で紙袋を手に部屋を出て行く主任。

その背中は、いつもと何ら変わりなく思えるが……。


「初恋は実らないって本当なんですねぇ…」

「…相原のことか?」


さすがに部長も、言いたいことはわかったようだ。

それに頷き、高瀬が続ける。


「さっき話してたんですけど、主任の好みのタイプって、箱入りお嬢様で手間のかかる女性、なんですって。……まんま、ですよね」


やっぱり初恋だったんじゃないのかなぁとぼそりと漏らす。


「かもしれないが、…終わったことだ」


そう、本当なら、ずっと以前に終わっていたはずのこと。

でも、当事者たちにとっては、今回のことでようやく。


「全部、終われたのかもしれません」


しみじみと、今回の顛末を思い返す高瀬。

主任にとっては、いい区切りとなったのかもしれない。


いい加減あの人もそれなりの年だ。

そろそろ踏ん切りをつけて結婚を考えても―――――。


「――――!そうだ、中塚先輩とお似合いじゃないですか!?」


いいことを思いついた、と声を上げる高瀬。

主任の言っていたタイプからすると真逆だが、ここはいっそ全く違うタイプに行くというのも悪くないと思う。


「余計なお節介は辞めなさい。――自分に跳ね返ってくるぞ」

「…う」


なんだろう。脛に傷が。

二人共歳は近いし、独身だし、悪くはないと思ったのだが。


「うまくいかないもんですねぇ…」

「…むしろ、なぜ今君たちがそんな会話をしていたのかが気になるんだが…」

「え?」


なぜって…………。

あ。


「―――――そういや、私主任に告白されてました!!」


そうそう、大切なことを忘れていた。


「そうですよ、最初その事を部長に訴えようと思ってたんです!部長、聞いてください、主任がロリコンだったんですよ!!」


告白よりも、これ大事。


「……ひとつ聞くが、君は18歳以下か?」

「いえ、20歳をとっくに過ぎた大人ですが」

「なら、君に告白してもロリコンにはならないだろう。

それに、相原の趣味ならよく知ってる。…アイツは、ロリコンにだけはならない」

「なんでそんな断言……」


できるのか、と言いかけた言葉が、次の衝撃の一言にすべてかき消された。


「あいつは、巨乳好きだ」


「………」


――――――くっそぅ皆どいつもこいつもっ。

貧乳好きはどこかにいねぇかっ!!!

今日も更新頑張ります( ´∀` )b

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