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落とし前の行方

「いってらっしゃ~い」


ひらひらと手を振り、主任を見送った。

非常に複雑そうな……もっと言えば嫌そうな顔をしていたが、きっと幼馴染の為に実行してくれるだろう。

それが友情というものだ。


――――そして残されたのは、部長と二人。


二人連れでカラオケルームに入っていったかと思えば一人先に出て行くのだから、店員はますます怪しむだろうが…。

まぁ、そこは気にしたら負けだ。


「君も人が悪いな…」

「え?なんですか?」


しーらなーい、とそらっとぼけたフリをしてみるが、部長にはお見通しだった模様。


「相原が素直に病院に行けるように手を貸してやったんだろう」


――グダグダ考えて、本当はすぐにでも様子を見に行きたかっただろう彼に、口実を与えてやった。

まぁ、多少の恥は書くだろうが、それは我慢して欲しい。

一応意味はある。ちゃんと。


「本当に君は幼馴染という言葉に甘いんだな…」

「自分でも贔屓してる自覚はありますけどね」


しみじみと言われると、少し恥ずかしい。


「だが、君がこの場に残ったという事は、あちらは相原に任せておけば大丈夫…ということでいいのか?」

「何かあったら、主任についていったハムちゃんが知らせてくれると思いますよ」


当然のごとく背中に張り付いていったので、多分大丈夫だ。

ここ数日で、結構主任のことも気に入っている様子。


「しかし、どうしましょうねぇ、これ。

はっきりいって、私にもどう始末を付けていいのかさっぱりわからないんですけど」

「…君でも、か?」

「過大評価していただいているところ大変申し訳ないんですけど、私のは完全なる自己流で、別にオカルト関係に詳しいわけじゃありませんから」


高瀬が知っていることなど、ネットでググれば数秒で調べられるようなことばかりだ。

かつて知り合った修行中の山伏から教わった技もいくつかあるにはあるが…。

基本的には、それは”裏ワザ”と呼ばれるようなたぐいのものばかり。


「最悪、あの男に頼るっきゃないかなぁという気がしているのがちょっと腹立たしい」


そう――例のアイツだ。

きっとドヤ顔で待ち構えているだろう。

考えるだけで若干イラッとするが、背に腹は変えられない。


「あの男というのは?」

「…前に知り合った、呪術の専門家だそうです。何かあったら力を貸してやるとは言われてるんですけど…」


できれば、最終手段にしたい。


「部長はできるだけ近寄らないでくださいね。

その部長の体質も、あいつにとっては都合がいい可能性もありますし。

――――ってか、部長と私の関係がばれるとそこから身元が判明する恐れがあるので…」


それだけはなんとしても阻止したい。


「身元がばれるとまずい相手なのか?」

「身バレした瞬間監禁される恐れがあります」

「――よし、わかった。それは最終手段にしよう」

「ご理解いただけで何よりです」


ストーカーの怖さを知る部長。即答だ。


「しかし監禁とは穏やかじゃないな…?どういう関係なんだ」


そう聞かれると、少々返答に困る。


「なんというか、よく考えると部長との関係と大して変わらないような気も…」


ギブ&テイクという意味では非常に近い。

不満げな顔をする部長だが、ぜひそこはわが身を振り返っていただきたい。

流石に部長をアイツと同レベルに扱う気はないが、傍から見れば大差ないということだ。


「リアルな姿を知らないうちからプロポーズしてくるような危ない奴です」

「…その姿の君にか?」


ええ。この姿の私にです。


「ただ、さっきも言った通りの専門家で、恐らく室井家にかけられた呪法も、その男の一族の誰かがかけたものだと…」

「なに?」

「なんとなく気配でわかるんですよね、そういうのって。

同じような気配があるというか…。系統が同じというか…」

こればっかりはなんとなくのイメージなので非常に説明しづらい。


「あ、そうだ。そもそもの元凶をシメるって話なら、あいつも関係者ってことか」


何しろ同じ一族だ。

いいことを思いついたと、ぽんと拳をたたく。


「ただなぁ…。身バレする危険性だけが…」


室井家の事を依頼すれば、そこから主任――――ひいては部長にまでたどり着く可能性がある。

そこまで行けば既に喉元まで迫られているも同然だ。

う~ん、と考え込む高瀬。


「……本人に依頼させたらどうだ?」

「え?」


部長から出た思いもかけない発言。


「……先ほど君に言われた言葉を俺なりに考えたんだ。確かに、やったことの責任は自分でとる必要がある。なら、室井家に直接その男へ依頼をさせればい。――――かけられた呪いを解いてくれと」

「……なるほど」


それは、一理あるかも知れない。

問題があるとすれば、間接的に与えられた高瀬の霊力にあの男が気づくかも知れない、という1点だが…。


「でも私、あいつの気配を探って会いにいくことはできても、連絡先なんて知りませんよ?」

「君が知らずとも君の幼馴染は知ってるだろう」

「…確かに」


知ってるだろうな、確実に。

調べたとか言ってたし。


「命の危険を感じて依頼した、とすればそれほどおかしいとは思われないだろう。そこは相原に説得させればいい。嫌がるようならそれも自分の選択だ」


こちらから強制するようなことではない、と。


「そもそもの話だが、さっき君たちが言っていた”冥婚”とやらは、ただ写真を作っただけで成立するものなのか?」

「……そう言われると……」


何か、他に儀式的なものがあるのだろうか。


「でも、場所によっては写真じゃなくて単なる絵で済ませる場合も多いみたいですから、ほとんど形式的なものなんじゃないですか?」

「だとしても、供養をしようというのなら霊能者の一人やふたり、つなぎをとっていてもおかしくはない」


何しろ社会的に地位のある人間のすることだ。


「父親の三回忌の為とでも言えば、いくらでも誤魔化しようはある」


―――――そういえば、彼の父親が亡くなったのは2年前、と言っていたか。

確かにそれで理屈は通る。


「呪いをとけば命は助かっても会社が潰れるかもしれませんけど…。それでもやりますかね?」

「―――――それは、本人次第だな。

だが、その危険性があることを知りながら妹の供養を優先させたのだとしたら、可能性は十分だろう」


必ず呪いを解く方向に行くはずだと、部長は確信しているようだ。


「そううまくいけばいいですけどね…」

「後は相原次第だな…」


とりあえず一度主任が戻ってきたら、この話を持ちかけて見る必要がある。

それでダメなら…。


「どうしても幼馴染を見捨てられないというのなら、今度は相原本人に依頼させるしかない」

「…いいんですか?」

「いいもなにも、本人が決めることだからな。そのことに関して君が不利益を被るのは間違っている」

「部長…」


すっかり改心したらしい部長の言葉に、軽くジンときたが。


「それ、私がいなくなったら自分が困るって意味じゃありませんよね」

「……」


否定しないんかい。感動して損した。


「まぁ、主任と同レベルには大切にされてることはよくわかりました」


今回はそれで良しとしよう。


「とりあえず部長の案を採用して相手の出方をみる。それで行きますか」

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