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人見知り?

「で?初めてうちの事務所に来た感想は?」


所員がいなくなったところで、改めてにかっと賢治が笑った。

あたりを見回して、高瀬が完結に思ったことを答える。


「――案外綺麗」

「だろ?」


というか、モノがほとんどない。


「ここで生活してるんでしょ?もっと生活感があるものかと…」

「自炊なんて一度もしてないし、寝るのだってソファの上で数時間だしなぁ」


つまり生活感すら出ないレベルというわけか。


「ありがちな感じで大家の女の子とイチャイチャしたり…」

「そんな時間ナイナイ。つかここ、賃貸じゃなくて俺の所有」

「え!?」


古いとは言え、結構な街中にあるテナントビルの一室だが。


「大家のじいさんが昔からのご贔屓さんでさ。なくなる前に遺言書でこのビルくれたのよ。だからオーナーは俺」

「おぉ…」


やったな、賢治。


「遺産相続でトラブルとか起こらなかったの?」

「そこはほら、魔王のチカラで…」


なる程、最終奥義は国家権力だな。


「ってことは、そこまで無理しなくても結構な不動産収入があるんじゃん」

「人間怠けたらおしまいだって。稼げるときに稼いどくもんよ。それにビルの一部屋は哲也に部屋に貸してるしな」

「ケンちゃんは?」

「俺はほら、そこまでゆっくり寝ることってないし」

「……そのうち死ぬって、ケンちゃん」


過労死寸前な予感がする。


「そしたらタカ子に取り付いて死ぬまで見守ってやるからな~」

「そこまでしなくていいから」

「いやいや、んで竜児とタカ子が死んだら#三位一体__さんみいったい__#の浮遊霊になろうぜ!」

「戦隊モノの究極合体みたいに言わないで!?」

「イメージ的には阿修羅像…」

「仏像イケメンNo1でも断る!というか浮遊霊限定なの!?」

「じゃないとつまらないだろ~」

「まぁ確かに…」

「俺たち3人が揃うと結構な力になると思うんだよなぁ。直ぐに成仏するんじゃもったいないって」

「そういう問題?」

「ま、先の話だからよく考えよう」


どうしよう。死後の話を考えておけと言われてしまったのだが。

これ、プロポーズよりもとんでもない話ではなかろうか。

というか私たち三人は死んでも離れられない運命。

たとえ断ってももれなく付いてきそうで怖い。


「長生きしてね、ケンちゃん」

「打算ありきでも可愛いぞ、タカ子。俺頑張る」


――友情よ永遠に。


「ってか結婚しなよケンちゃん。んで死後は奥さんと子供を見守ってやるといい」

「この仕事で?そりゃ無理だろ~」


無理無理、と手のひらを振るケンちゃん。

だからやめろって言ってるのに、とはもう何度も繰り返しているので言わない。


「そういやタカ子」

「ん?」


ちょいちょい、と手招かれ、うかうかと近づき。


「……んにゃっ!?????」

「う~ん……お土産代?」


ほっぺにちゅ、ならぬおでこにちゅー。


「なにしてくれてんの!?」

「親愛の証?」

「欧米か」


ぺし、と頭を叩いてから、真面目にケンちゃんの顔をじっと見る。


「どったのケンちゃん。ケンちゃんにはラブ的なものは期待してないんだけど。

――その枠は既に竜児で埋まってるから」

「俺もそれは竜児に任せて兄貴枠をとったはずなんだけど、その枠がな~。まさかのオカンで上書きされるとは…」

「?」

「まぁ多少な、思う所があるとは言ったろ」


何でもないことのように言いながら、自分のしでかしたことに反省ゼロの賢治。


「寝起きに鴨がネギしょってやってくりゃ多少は手も出るってこと」

「…うーん」


どことなくケンちゃんらしくないような気もするが、今はそれどころではない。


――そう。オカンといえば部長だ。


「そうだよ部長!!!ケンちゃん、主任の依頼はどうだったの?それ聴きに来たんだけど」

「あいつら朝から○○県に向かったんだろ?聞いたけどさぁ」


すっかり脱線してしまったが、ようやく本題。


「そういやタカ子も一緒についてくって話じゃなかったのか?」

「それ、正確には憑いていくだから」

「あぁね…」


言葉のニュアンスだけで納得してくれるあたりさすがです。


「移動時間に張り付いててもしょうがないし、向こうについてから飛ぼうと思って」

「それで暇つぶしがてら…ってとこか?」

「あたり」


ケンちゃんの肩の上で今の今まで遊んでいたハム太郎が、ぴょんと高瀬の肩に移動する。


「んでさっきはスルーしたが、この子がさっちゃんだな?」

「そうそう……って、なんでソファの後ろに隠れてるの?」


いつの間に。


振り返ってソファの裏を見た賢治につられ、同じくそこを見てようやく気づいた。

ソファの裏で膝を抱えてこちらを伺っている。


「さっき哲也が来たあたりからだな…」

「あの子がなんか苦手だったの…?」


わからん。


だが、周囲をそぉっと見回したさっちゃんは、ようやくソファの影から出ると、再び高瀬に抱っこを求める。


「よいしょ‥っと」

「霊体相手にそれいらなくね?」


すかさず突っ込む賢治は無しだ。

なんとなくの気分と、反射的なものである。

先程哲也が去っていった扉をまだ見ているあたり、やはり何かあるようだが。


「人見知り、とかだったりしてな」

「?」

「ほら、お前んとこの主任や部長さんは別として、あんまり他の人間とは関わりたくないってことなんじゃねぇの?」

「あぁ…なる程」


それはあり得る。


「それかただ単に男が苦手、とか?」


ちらりと賢治が視線を送れば、確かにさっちゃんはどこかおびえているようにも見える。

彼女の境遇を考えれば、それもおかしくはない話だ。


「ケンちゃんはさ、どれくらい調べがついたの?」

「どれくらい?」

「う~んと…。例の室井さん家について」


さっちゃんから聞いて大体のことは掴めているが、一応は確認だ。


「そうだなぁ…。とりあえず室井家の財政状態から言わせてもらえれば、決して良くはない」

「良くない?」

「ん。ちょっとつつけば崩れ落ちる泥船だな」

「それは部長たちもなんとなく気づいてたみたいだけど…」

「んでもってその泥船を、一見豪華客船に見せるだけの何かの存在が今の室井家にはある」

「……それって」

「これに関しちゃ、直接その目で見てきたほうが早いだろうが…。

他にわかっているのは、その当代の「室井社長」とやらは元々そういう力を頼るのを忌避していたらしいって話だな」


――忌避、とは。


「元々あの主任さんのお友達らしく現実主義でそういう狐憑きだのなんだのってのは否定してたタイプらしい。

…そもそも、優しすぎたんだろうなぁ。自分の親兄弟を犠牲にした繁栄なんざ、望める性格じゃなかったってことだ」


世の中にはそれこそ誰を蹴おとしてでも自分の欲を満たそうとする人間がいるが、彼はそうではなかった。


「今回のこともさ。自分ではどうにもできなくて、あの主任さんに助けを求めてたってのが真相なんじゃないかって気がしてるんだよ。やたらと事業を拡大しようとしてるのも、どこかで止められるのを待ってるような…」

「それって…」

「まぁ、俺の憶測だけどな。…あの主任さんがそれに気づいてるかどうか…」


その賢治の言葉に高瀬が驚く。


「教えてあげなかったの!?」

「だってそれはあくまで俺の感想であって事実とは限らないからなぁ。頼まれた以上、調べ上げた事だけを報告するってのが誠実さだろ」

「でも…」


教えてあげたほうが、良かったのではないだろうか。


「どっちしろさ、真実ってのは自分の目で見つけるもんなんじゃねぇの?」

「………」

「そもそも人から教えられた言葉だけで納得できる話なら、わざわざ自分から首を突っ込んだりしないだろ」

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