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間章 追儺の夜に

節分当日に書いたものの再録です。

時期がおかしくてすみません(汗)

「部長、恵方巻きって食べました?」


いつから入ってきたのかわからないが、あからさまに商売目的で利用されている縁起物の例の奴。

嫌いじゃない。嫌いじゃないけど、無言で食べ終わったことはない。


「なぜそんな事に興味があるんだ」


「え、そりゃ世間話じゃないですか、節分あるある?」


其の辺はぜひサラッと流していただきたいものだ。

2月3日は節分。

豆を投げつけて鬼を追い払う日である。


「姪の家では豆まきをやると聞いたが、子供のいない人間にとっては大して普段と変わらないだろう。――それとも君は一人でも豆をまくのか」


「寂しい人みたいに言わないでください、涙が出ます」


君なら有り得そうだ、というその目はやめてください。

いくら私でも一人で豆まきはやりません。


「というか、我が家では豆まきはやりません」


「?子供の頃からか」


「ええ、まぁ」


それはそれで珍しい、とでもいう様子でこちらをみる部長に、高瀬が告げる。


「それは置いといてですね、実はうちの実家の近所に○○神社っていう神社がありまして…」


「突然話を変えたな?」


「そこは突っ込まないでいただきたい」


尺の都合です。


「節分の夜に各家から追い出された鬼を哀れに思ったその神社の神主さんが、節分の夜の間、その神社にだけは鬼を匿ってあげたっていう民話が残ってるんです」


詳しい話を忘れたが、昔話の教育テレビで子供の頃に見た覚えがある。

大人になってから一応調べたのだが、なぜか全く情報がなかった。


はて何故だろう。


「…だから?」


「夜にその神社に忍び込んだら鬼がわんさかいるんじゃないかっていって、鬼を夜襲してみたことがあります」


「………いつの話だ」


「あれは20歳の時でした」


今から7年も前の話である。あの頃は若かった。

成人式が終わってまもなくということもあり、テンションも比較的高かったのだ。


「流石にいい大人が夜中フラついていて通報されるのも嫌だったので、一応は幽体離脱して向かったんですよ?」


軽いお散歩的な感覚だったのだ。

別に本気で鬼がいると思っていたわけじゃない。


「そうしたら例の神社にぼんやりと明かりがついてまして、せっかくなので豪快に「たのもー!」と乗り込んでみたんですよ」


「…宮司に霊感があったらどうするつもりだ」


「残念ながらそこは普段無人です。節分でも特に祭りをやる気配はありませんでした」


だからこそ鬼も逃げ込んでこれたのかもしれない。


「そういえば神社の人間とかに姿を見られたことって一度もありませんね。あぁいう人って、意外と霊感とかとは別の次元で生きてるのかも」


そもそも才能のある人間は別として、神社や寺の修行をしても霊感は身につかないということだろうか。


「話は最後までちゃんと聞いてくださいよ…。で、ですね、乗り込んだところ、そこにいたのがなぜか子供のイメージまんまの真っ赤な顔に赤い角の鬼…」


「本当にいたのか!?」


お、部長が食いついた。


「の、仮装をしたおっさんの霊」


「…なんだそれは…」


がっくりと肩を落とす部長には悪いが、現実はそんなものだ。


「娘が小さな頃、鬼に仮装した自分に豆を投げさせて節分を祝ってたんだそうですよ~。

亡くなってからもその思い出が忘れられずに節分になるとついその姿で化けて出ちゃうんだとか…。

幼女姿だったんでものすごく喜ばれて、せっかくなので節分ごっこをして遊んだのもいい思い出です」


持参した豆を見せると、せっかくだから投げてくれ!とキラキラした瞳で言われて、一晩中追い回した。

日が昇る頃には満足して成仏をしたようだが…。


「結局鬼には会えませんでしたね~」


会ったのは鬼の仮装をしたおっさんだけだ。

まぁ、彼的にはいい供養になったかもしれない。


「なんかうっすら外に妙な気配はあったんですけど、入っては来なかったみたいで…」


「君が豆をまいてたからじゃないか…?」


「なるほど」


言われてみれば確かにと、ぽんと拳をたたく。

せっかく匿ってくれるはずの神社に行ったら先客がいた挙句に楽しそうに自分たちを追い払う儀式をやっている。


裏切りもいいところだ。


「――そりゃ逃げますね」


「今更か」


当時は全く気がつかなかった。

なにしろ追儺の儀式をしているというよりは、ほとんど遊びのつもりだったので。


「鬼には悪いことをしました」


「そう思うならもう夜襲はやめてあげなさい」


流石にもうやらないが、鬼のことまで思いやる部長、優しいな。


――自分は桃太郎状態のくせに。


「そうそう、んで話は元に戻るんですけど…」


「君の話には脈絡が無さ過ぎる」


「まぁまぁ…」


ただの世間話なのだからいいじゃないかとなだめ、先を続ける高瀬。


「私は子供の頃から豆まきをしたことがないって言ったじゃないですか。それも実は理由がありまして」


「理由?」


お、ちょっと食いついてきた。


「私の母親の旧姓は渡辺って言うんです」


「……それがどうした」


不思議そうな顔だが、実はこれ、わかる人間にはこれだけでわかる。

だがわからないようなので補足。


「部長は、酒呑童子って聞いたことありますか?」


「有名な京都の鬼退治の話…だったな」


うんうん、それで十分。


「京都のお武家さんが部下を連れて鬼を退治に行くんですけど、その時に連れて行った部下の一人が実はその前に一人で鬼の腕を切り落としてるんですね~」


後から乳母に化けてわざわざ取りに来るのだが。


「んで、その鬼の腕を切った部下の名前が『渡辺綱<わたなべのつな>』っていいまして」


つまりは、だ。


「そもそも渡辺という苗字の人間は鬼の天敵で、鬼が寄ってこない」


「それを知ってなお夜襲に行ったのか」


「当時は理由を知らなくて…」


特に気にもしていなかったのだが、数年前にテレビの苗字特集をやっているのを見て知った。

『うちは節分はやらないの?』と聞いた子供時代の私にろくな説明をせず、『よそはよそ、うちはうち!』と言い切った母親が全面的に悪いと思う。


「鬼にしてみれば相当な災難でしたよね」


天敵の身内に唯一のオアシスを占拠された状態。

今更ながらに気の毒すぎる。


「というか2月の初旬にパンイチの鬼を外へ追い出すとかそれ自体もはや鬼畜…」


「………」


あぁ、部長がまた遠い目になった。


「部長はなんか節分トークはないんですか?」


鬼にとりつかれた的な部長あるあるとか。

…あれ、鬼って取り付くんだっけ?ん?それは妖怪ウォ○チか?


「ないな…。君と同じ、豆をまいた記憶もないが…」


「部長の家って感じですね~」


やらなそう、そういうの。


「俺が物心つく前に亡くなった祖父が、歳の数だけ豆を食うんだと言い張って豆を喉に詰まらせ緊急搬送されたことがあるんだそうだ」


「――なんか思ったよりすごい話が出てきた!?」


ちなみに個数は70個以上あったそうだ。


「それ以来我が家では節分はなくなった」


「……お粗末さまです…」


だがいいオチがついた。


気を付けよう、鬼より怖い老人の誤飲。

そんなことはいいから早くから本編を出せや!と言う方は是非ポチっとブクマ&評価お願いします(*´ー`*)

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