突撃賢治の朝ごはん!
ブクマ&評価よろしくお願いします(切実)!
「はっ…!今なんだか部長に蔑まれてる気配がする…!」
『きゅい?』
『くぅ~ん』
『………』
心なしかさっちゃんにも哀れまれている気配がしたのは気のせいだろうか。
うん、きっと気のせい。
考えてみれば、わざわざ新幹線に乗る部長たちにとり憑く必要はない。
駅までは過去に行ったことがあるので、そこで合流すればいいのだ。
霊体に距離も時間も関係ない。到着時刻の少し前になったら用意をすればいいだけだ。
なんてお手軽でしょう。
ということで、時間まで別のことをして過ごすことを決めた。
あちらの到着予定は12時すぎ。
そしてこちらは現在9時。
特攻しますはケンちゃんの事務所です。
「たのもーーーーーう!!!!!!!」
ガンガンガンガンガン!!!
遠慮なく扉を叩き、ノブをガチャガチャと回すと。
「あ、あいてた。なんて無用心」
いいながらも遠慮なくズケズケと中に入る。
「…うぅ…。タカ子、ラーメンは机の上にあるから…」
ソファの上からのっそりと腕だけ起こした賢治が、テーブルの上に置かれた白いビニール袋を指差すが、いやいや、そうじゃない。
「誰がわざわざお土産を取りに来るかっっつの」
まぁ、もらえるものは貰いますがね。
「こっちについたのは3時間前なんだぜ…?ぶっ通しよ。」
「それはお疲れ様でした。でもその鬼畜ルートを指示したのはどうせ竜児でしょ」
「せいかい…」
…ぐぅ。
「寝るな」
そのまま再び毛布をたくしあげて体を丸めた賢治を、揺すり起こす。
「よし、ハムちゃんアレク君、やっておしまい」
『きゅい~!』
『わふ!!』
「お・・・!?」
「ふふふ…。これぞ野性爆弾…」
2匹ともすっかり野生は失っている模様だがそこはまぁ多めに見てくれ。
飛び込んできた動物霊に、一気に賢治の目も覚めたようだ。
本来触感などはないはずだが、霊感がそれなりに強い賢治にとっては実体同様に感じられる。
なんというか、ズッシリ重いらしい。
実際にはハムスターはともかく土佐犬に突進されれば相当なダメージだろうが…。
「なんだよタカ子、お前いつの間にブレーメンの音楽隊の仲間入りを…」
「してないよ?猫と鶏とロバとか仲間にしてないよ!?」
いるのはハムスターと犬だけだ。
「猫はタカ子だろ…。あとは鶏とロバか…」
「探さないで!」
新たなるブレーメンを結成させるのはやめてほしい。
そしてさっちゃんにも気づいてあげて。
「あぁ、それが例の幼女かぁ…。なるほど、確かにクオリティが違う」
「失敬な」
自分でもなんとなくわかっていたが、改めて指摘されると腹が立つなと思っていると、再び入口の扉開いた。
「あれ?所長~お客さんっすか?」
「え?」
聞こえてきた別人の声に、高瀬がくるりと振り返る。
「あぁ、あれうちの所員」
「所員?人雇ってたんだ」
てっきり賢治一人かと思っていた。
やってきたのは、まだ20代そこそこといった様子の少々チャラ目な青年だ。
「さすがに24時間一人は無茶だろ~。…まぁ、竜児絡みはほぼ俺の仕事だけどな」
『魔王の相手はまだあいつには早すぎる』とこぼす賢治だが、竜児の相手をするには一体レベルはいくつあれば足りるのだろうか。
さすがは魔王レベル99。
「客じゃないんすか。んじゃ、なんか仲良さそうだし、所長の彼女さん?」
「「違う」」
ふたり揃って断言する。
その勢いに逆にびびったのか、一瞬目をぱちくりとさせた青年は、しかし流石に賢治が雇っているだけあってしぶとい。
「ま、なんでもいいっすけど。よかったから一緒に朝飯食ってきます?山ほどパンを買ってきたんで」
そう言って青年が掲げたのは、パンパンになった近くのコンビニの袋。
中には飲み物と菓子パンが山のように入っている。
「この仕事、いつ出動になるかわかんないんで、日持ちしそうな食料は欠かせないんすよ」
なるほど、そう言われれば確かにそうだ。
興味を惹かれて覗き込んでみると、なぜかやたらと同じメーカーのパンが多い。
「ヤ○ザキ春のパン祭り…?」
「さすがは所長の知り合い、鋭いっすね」
「いや、見りゃ分かるでしょ…」
「おかげでうちの備品の皿はほぼ真っ白。ま、ほとんど食器なんて使いませんけどね~」
HAHA!と笑う青年。相当なザイルメンタルと見た。
ふと思いついて聞いてみる。
「借金額は?」
「35億…ならぬ三千万っす」
「多っ!」
こんな過酷な環境で働くくらいだ、相当な訳ありとみたが、やっぱりそうだった。
「所長のおかげでヤクザの取立てもやんだし、ようやく完済の目処もたったんで、ホント所長には感謝感謝」
なむなむと賢治を拝む青年。
「ヤクザ…」
「夜逃げの手伝いをしてくれって依頼が元で知り合ったんだけど、両親だけ逃がして自分はヤクザの事務所に一人で乗り込もうとしてたから、こりゃ中々ガッツのある逸材だと思って」
さすがは魔王の下僕の配下だ。
というかガッツで済ませていい問題か?
「近くの工事現場から重機をかっぱらって組長宅に突っ込もうとしてたんだぜ?若いってすごいよな~」
「その一言で済ませちゃいけないと思う!」
結構だな、それ。
「自分、昔は工事現場でバイトしてたんで…」
てへ、じゃないよ?君。
「ま、相手が付き合いのある組長さんだったからさ。そこは穏便にね…」
「ケンちゃんが竜児みたいな台詞を…!」
ひぃ、と戦けば、あっさりと理由を告げる賢治。
「将棋だよ将棋。相手がいないってんでたまに付き合いを頼まれててさ」
あれ、思ったよりまともな理由だったな?
「まぁそれだけじゃないけど…」
……聞かなかったことにしよう。うん。
「つーわけで、これが哲也。こっちが俺の幼馴染みで妹分の高瀬」
「妹さんちわッス!」
「妹じゃなくて妹分の高瀬です」
そこんとこ間違っちゃアカン。
もっとも認めた覚えはないが。
「所長、逢引お疲れ様でっす。俺はこの後でまた出かけてくるんで、ごゆっくりどうぞ~」
「お~。頑張れよ~」
「ウッス!」
――――どうしよう。なんだかいろいろ突っ込みどころが多くてどこから突っ込めばいいかはわからない。
「とりあえず逢引って言われてるのは訂正しよう」
「無理無理、アイツ思い込み激しいから」
顔の前で手を振って無情に答える賢治。
「そういや、その2匹って妹さんのペットっすか?可愛いっすね」
「…え?」
青年――哲也の視線を追えば、そこには当たり前のように鎮座するアレク君と、いつの間にか賢治の肩の上に移動したハム太郎。
「あの子ってもしかして…」
「霊感あり。だが本人にはそのことに全く気づいてないから言ってやるなよ」
「は!?」
そんなのありか。
「言ったろ?思い込みが激しいって」
「そういう問題?」
「まぁいいんじゃね?本人が納得できるって言うなら」
明らかに幽霊と思しきものを見ても自分でそれを脳内処理できるというならまぁ…。
普通は高瀬達や部長のように見て見ぬふりをするか、あのお局のようにひたすらビビるかの2択だ。
そのまま特に気にした様子もなく当たり前のように菓子パンをひとつ咥えて外に出ていく哲也。
「強者だな」
さすがはケンちゃんの部下。