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男同士の内緒話②

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「またその話かって顔だな?まぁそう言わずに聞けよ」


聞いてなんになるとは思ったが、一応は口をつぐむ。


「あの子はな、お前にとって必要だよ。あの馬鹿なところも含めて、俺達にはないものを持ってる」


……。


「お前には、お前と同じ目線でモノを見られる相手が必要だ。今の俺は彼女のおかげでようやくお前と同じ目線に立つことができた。だがそれも一時的なものらしい…」


その残念そうな口ぶりを意外に思う。


「大して面白いものでもないぞ…」


幽霊なんて、見えなければそれに越したことはない。


「お前のそれは諦めだ。所詮は同じモノを見ることのできる相手なんていない、ってな。自分と全然違う視界でモノを見ている相手とプライベートで四六時中一緒にいられるか?俺には無理だな」


「無理でもそうするしかないだろう」


――いや、そうしてきたんだ。


「例えばだがな、お前がそこに見えない落とし穴があるという。それを見ることのできない相手は信じずそこに落ちるだろう。その時、お前は何を思う?それみたことか?それとも、やっぱり、か」


――やっぱり、信じては貰えなかったか。


自分はきっとそう思うのだろうなと、言われなくてもわかっている。


「だが彼女なら違う。…まぁ、気づいててあえて自ら落ちていきそうなところはあるが、あの子なら、例えお前が見えない落とし穴に落ちたとしても、必ずお前をそこから引っ張り上げてくれるだろう。――――何やってるんですか部長!ってな」


想像できるだろ?と言われて、確かに簡単に声まで予想ができた。


「馬鹿な猫が飼い主の為に一生懸命頑張ってるんだ、そりゃ可愛くて仕方ないよなぁ…。――それが、恋愛感情に発展することはないと言い切れるか?」


「…少なくとも今の時点ではそのつもりはない」


彼女をそんな目で見たことは一度もないと断言できる。


「今の時点では、な。まだあの子をそばにおいて一ヶ月ちょっとだぜ?……いい加減、少しくらい自覚したほうがいい。お前はいつかあの子を手放せなくなる」


……俺が、彼女を?


「納得いかないって顔だな?…そう言っていられるのも今のうちだ。お前のそれはな、懐かれてる余裕だ。自分よりもあの子に信頼されてる幼馴染達を目の前にして、いつまでそれが持つかな?」


「彼女の幼馴染に嫉妬する、そういいたいのか」


確かに昨日、彼女自身の口からもそんな話は出たが…。

あの時に笑い飛ばした言葉が、今になって自分のもとに戻ってくる。


そうして、ようやくひとつ「あぁ」と納得がいった。


「…そうか。確かに、面白くはないかもしれないな…」


彼女相手には、「他の飼い主が見つかったなら構わない」といったが。

実際にこの目で、彼女が自分以外の人間に媚びて擦り寄る姿をみせられたとしたら。


――――気に入らない。


そう、思ってしまうのではないか。


「…少しは自覚してもらえたようでなによりだよ…」


「自覚…」


難しい顔で考え込む谷崎。


「ま、四六時中一緒にいるわけじゃないあの幼馴染よりはお前のほうが今は有利なんだ。今のうちにせいぜい手懐けておけよ」


「…わかってる」


恋愛がどうこうを抜きにしても、今更彼女のいない生活というのは考えづらい。

今だって、こうして何気なく生活できているのが彼女のおかげだということは理解している。

なにしろ、道を歩けば霊に取り憑かれるといった日常が彼女がやってきてから随分と変化を遂げた。

取り憑かれるとしても精々が害のない動物霊。

それさえも、彼女に頼めばあっという間に取り除いてくれる。


悩む必要すらなくなった。


「まぁ、問題は懐かれすぎてることだな。お前、あの子にオカン呼ばわりされてるからな…。

せめて名前で呼ばせるくらいにならないと男として意識はされないだろ」


「…それどころか俺の名前を覚えているかも怪しいな」


「さすがにそれは…」


「面と向かって『名前は知っているけど漢字が読めません』と言われたことがあるんだが」


しかも、苗字も間違っていた。

あれから彼女は一度も谷崎の名を呼んでいない。

それどころか、社外でも「部長」としか呼ばれた記憶がないのだが。


「…そういや俺も”主任”としか呼ばれたことがないな…」


後で名前を覚えているか確認しよう、と真面目な顔で呟く相原。


ぜひそうした方がいい。

恐らく五割の確率で間違っているだろう。


「…それで、話を戻すがな。どこまで調べは付いた?」


これ以上脱線し続けるつもりもないと、話を一気に引き戻す。

さすがにはぐらかすつもりもないのか、ようやく相原が口を開く。


「…狐憑き、って知ってるか」


「あぁ、話にはな」


「室井の家には、どうも昔からその手の噂が付きまとっていたらしい。それと、女児殺し、だそうだ」


「……女児殺し…?」


狐憑きはともかく、そちらはどうにもきな臭い。


「室井家では幸希以前ほぼ女児に恵まれず、代わりに近隣から丁稚奉公がてら幼い女児を引き取ってくることが多かったらしい。まぁ、貧しい農村では厄介者扱いの女児なんていくらでもいたろうからな。相手には困らなかっただろうが…」


「殺し、とつくからにはその子供たちは皆…?」


「まぁ、当時のことだから何とも言えないが、大切には扱っていたらしい。

それでもなぜか女児たちは皆一様に体が弱く、ほとんどが7歳を前にしてなくなってしまったと言うんだ。……7歳、聞き覚えがあるだろ?」


「…自宅で祀る、といっていた件か」


「あぁ、その通り。便利屋くんの調べによれば、室井家では引き取ってきた女児に対し、何か呪法的なものを施していた形跡があるんだそうだ。それによって彼女らは幼くして命を落とし…」


室井の家は、その間に繁栄を極めた。


「……怪しさ大爆発、ってな。まぁ、そのへんから狐憑きの噂が広まったんじゃないかってのが推測だが、便利屋くん曰く理由はもうひとつあるらしい。…なんでも、富山から室井家に入婿に入った男が、少々風変わりな稲荷信仰の持ち主だったみたいだ」


「稲荷信仰…」


なるほど、確かに狐だ。


「時代的なものもあったんだろうがな…。なにしろ当時は大飢饉後だ。五穀豊穣を司る稲荷を祀るってのはまぁわからない話じゃない。だが問題なのはここからだ。…どうもその男のいた村では、幼い女児を使った神降ろしが行われていたらしい」


―――――神降ろし。


それは、神を体の中に入れ、神託を受けたり、厄災を払ったりするという、あれだろうか。

簡単に言えば、イタコの神霊版だとでもいえばいいか。


「なんでもその村に強い霊力を持った少女が一人いたらしくてな…。飢饉の際にもいち早くそれを村人に伝えて蓄えをもたせていたって話だ。…おかげで男のいた村では奇妙なほど飢饉での死者が少なかったらしい。その後少女がどうなったのかはわからないが、彼女のおかげで命拾いをした男が、その信仰を室井家に持ち込んだ可能性は高い」


「だから、女児か」


「…そういうことなんだろうな」


霊力を持った少女の代わり。

だが、ただの村人の少女がそんなものを持ち合わせているはずがない。

だからこそ、何らかの呪法を彼女らに施した。

そう考えればひとまず筋は通っている。


「一応は当主の嫁にするって名目で引き取っていたみたいだからな。女児は一代につき1名。それで十分だったようだ。次の男の子が産まれると、また新しい女児を引き取り、育てる。その繰り返しだな。だが、近代に入ってくるとさすがにそれもままならなくなったのか、もしくは迷信として侮られたか…。とにかく、一時的にそれを行わない時期が出てくる。すると室井家はあっという間に衰退…。それを復活させたのが室井の祖父というわけだ」


「祖父?父親ではなくて、か?」


確か、室井家の再興は父親の代からだと聞いた覚えがあった。


「祖父の代で呪法のやり直しを行って、効果が出たのは次の代からってことだったのかもな。

とにかく、室井家には久方ぶりに女児が引き取られることになった。

――――それが、幸希と幸樹、2人の母親だ」

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