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『きゅい?』


「あ、ハムちゃん」


一旦目を覚ましたところで、枕元にいつの間にか忍び寄っていた小さな影に気づく。


「どこにいってたの、まったく君は‥」


『きゅい~』


心なしか、「頑張りました」とでも言うように胸を張るハム太郎。

主任のことだけならまだいいが、ほかに何もしていないだろうな?ちょっと心配だ。


「ハムちゃんも今日は一緒に行く?」


『きゅ!』


ピシッと手をあげたハムちゃんに、いつもの調子で「よしよし~」とやりそうになって、はっと止めた。

いかん、これが原因でハムちゃんはハイパー化してしまったのだ。少し控えなくては。


『きゅう……』


褒めてくれないの?と若干悲しげな鳴き声。


でもいかん、ここは心を鬼にしよう。

あれ?でもチュッチュしなければいいんだよね、そうだよね?


「いいこいいこ、一緒に行こうね~ハムちゃん」


『きゅい~!』


欲望にまけて撫で倒せば、「これだよご主人!」と言わんばかりに身をよじるハム太郎。

可愛いやつだ。


「ハムちゃん、アレク君をどこかで見なかった?」


元はといえばそのために部長の所にあずけたはずなのだが。


「…え、見つけたの?」


『きゅい~!』


くいくいと高瀬のパジャマの裾を引っ張るハム太郎。

明らかに心当たりありと見た。


なんて優秀なんだろうかと改めて感動する。


「ちょっとまって、すぐ行くから…って…え?今すぐ?」


もしかして、このまま行けと?

せめて着替えさせて、お願いだから。


「このまま行けってことは…もしかしてすぐそばにいるってこと?」


『きゅ!』


どうやらそうらしい。


頼むから待ってくれと言い聞かせ、なんとか着替えを済ませると、いつの間にか玄関に立っていたハムちゃんがいち早く外へ飛び出していく。

独り言を言いながら外を歩くのはあまりに怪しいので、とりあえずスマホを手にして通話している風を装いながら歩くことにした。

まだ早朝5時、道を歩いているのはジョギングや犬の散歩をする人がほとんどで、しっかり上着を着たとは言え肌寒い。

その中、時折高瀬の肩に乗ったり、先に行ったりしつつハム太郎が高瀬を連れてきたのは、小さな近所のお社だった。


「お稲荷さん…」


そういえばこんなところにあったけ。


今まで意識したことはなかったが、そう言われると確かに。


住宅街の片隅に、ぽつんと残された緑の区画。

大きな御神木にはしめ縄が巻かれ、すぐそばには古びた赤い鳥居が建立されている。


「おいおい、ハムちゃん…。それはいくらなんでも…」


気づけばハム太郎は、狛犬ならぬ石造りの狛狐の頭の上にたって胸を張っているではないか。


何をしてるの、君は。


お稲荷さまに失礼だから降りてらっしゃい。


『きゅい?』


「可愛い顔してもダメ、ほらこっちに来て」


さすがに失礼だと肩の上にハム太郎を載せて、境内を歩き出す。


「ハムちゃん?アレク君はどこ?」


ぱっと見では見当たらないが…。


『きゅ~』


あれ~?おかしいな~とばかりにきょろきょろするハム太郎も、どうやらアレク君を見失ったらしい。


ここにいたのは間違いないようだが。

とりあえず一周回ってみることにしよう。


「さっちゃ~ん、アレク君~?」


どうせこんな時間に人もいないだろうと、堂々と名前を呼んで探してみる。


すると。


「いた」


神社の裏手に、姿を見つけた。

なにか、白いものがつみ上がった場所にいる。


あれは…。


「壊れた稲荷ギツネ…?」


お稲荷さんを祀るための瀬戸物で作られた狐の人形、あれだ。

近づいてみてみると、壊れたものだけではなく多くの狐がそこに集められている。

すぐそばには供養塔のようなものも見つかった。

どうやらこの神社では不要になった神棚などの供養を受け付けていたらしい。


中でもやはり稲荷だけあって狐が多い。


その山をいつものようにぼんやりと眺めるさっちゃんの姿がそこにはあった。

アレクくんは、その横に控えながらやはり困ったようにさっちゃんの様子を伺っている。


一体いつからそこにいたのだろうか?

でも、なんでこんなところに…。


「さっちゃん、おうちに帰ろ」


声をかけてみると、無反応かと思われたさっちゃんが、少しだけこちらをむいた。

家という言葉に反応したのだろうか。


「さっちゃんのおうち、見つけたかもしれないよ。……一緒に、来る?」


全ての始まりであり、鍵はこの子だ。


差し伸べた手を取るかどうかはこの子次第だが、できれば一緒に連れて行きたい。


「アレク君も一緒に連れて行くよ。部長もいるからさ」


『くぅ~ん』


それを聞いたせいか、ぽてぽてとこちらにむかって歩いてくるアレク君。

それをじっと見つめるさっちゃん。


――――来るかな…?


すぐ横に並んだアレク君を見下ろしていた高瀬だが、ふいにさっちゃんが動いた。


「さっちゃん…?」


アレクくんの横に立つつもりかと思われたさっちゃんだが、なぜか高瀬の前まで来ると、小さな両手を伸ばす。


「抱っこしてってこと?」


ちょっと懐かれ始めたと思っていいのだろうか。

そういえば昨日も人形ごとさっちゃんを抱っこした。

それが案外気に入ったのかもしれない。


「はいはい、抱っこね…」


ひょい、と抱き上げようとして、さっちゃんに触れた瞬間、一瞬ピシッ…!!!っと、指先から稲妻が走った。


そして電気信号のように頭の中に駆け巡る映像。

その中には、見覚えるのある姿がいくつかあった。


幼い二人の赤ん坊を抱いた一人の女性の姿に、大きくなっていく子供達。


―――――さっちゃんが、自分の記憶を見せてくれている。


そう直感し、見せられる映像に集中する。


…やがてたどり着いたのは、探していた真実。


「そうか…。そういうことだったんだ…」


ようやく全部が繋がった。

完全ではないけれども、知りたかったことの大半は理解できた。


――あまりに、残酷な現実も。


唇をきゅっと噛んだ高瀬は、けれど途中で止まってしまっていた腕をもう一度差し出し、今度こそしっかりとさっちゃんを抱き上げる。


「うんうん、わかったわかった。あなたが何を望んでいるのかはよくわかったから」


そのために、わざわざこの場所までやってきたことも。


「一緒に行こう。それで、ぜ~んぶ、キレイに片付けてこよう」


ね?と言いながら頭を撫でれば、無表情だったはずのさっちゃんの顔に、僅かな笑みが浮かぶ。

それは幼い子供のものではなく、まるで母親のような優しい笑顔。


「さぁ、取り返しに行こうね」


大切なものを。


『ワン!!』


僕もいますぜ!とばかりに吠えるアレク君。

だが残念、その上には既にハム太郎が騎乗済みで台無しだ。


すっかり子守犬と化してしまったアレク君が哀れ。


ペットは飼い主に似るというが、まさにその通り。

なんだか部長並みの珍道中になりそうだが、仕方ない。

別に新幹線に乗るわけでもないからまぁいいだろう。


「一旦おうちに帰ろう。そうしたら今度は……さっちゃんのおうちに、帰ろうね」


さぁ、決着を付けに行こうではないか。

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