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いざ敵陣へ。

「受けざるを得なくなるって…なんですかそれ!?」


びっくりしてロールケーキが口から飛び出すかと思った。


「文字通りだ。上の判断には従わざるを得ない」


そう言いながら相当不本意な決定なのだろう。

眉間のしわがいつもよりも3割増ほど多いように見える。


「ですが、あちらの会社は経済状況が不透明という話では?」


主任に変わって資料をまとめていた中塚女史も同じく眉をひそめた。

引き継ぐにあたって個人的に調べた情報もあるようだが、どちらにせよあまり芳しくはなかったという。


「その通りなんだが、こちらとしてはひとまず不動産賃料の全額を一括で支払ってもらえれば後はどうなっても構わないだろうという考えらしい。……あちらにはその用意があるようだ」


え~っと、それはつまり。


「テナントとして入ったあとは潰れようがどうしようがうちはノータッチ、それで構わないってことですか!?」


「……上層部としては、最初から切り捨てて構わないという考えなわけですね」


「そうなるな…。実際問題あの経営状況で大きな店舗を新たに開業したところで採算が取れるとはとても思えない。もって半年が関の山だと試算しているんだが……」


「私の考えも同じです。上は何を考えているんでしょう…」


――なんだか不穏な気配がでてきた。


「相原もこの件に関しては驚いていたようだ。紹介はしたものの、受けるとは考えていなかったようだな」


「……」


もしかして、それで慌てて戻ってくるとか、そういうことなのだろうか。


「相手側は近日中にもテナントを出したいと申し出てきている。判断を急ぐ必要がある」


「ですが…」


やはり、問題があるのではないかと食い下がる中塚女史。

それに首を振って部長は言った。


「上層部を説得するための手段として、彼が経営する”ユウキドラッグストア”の本社の視察を行うことになった。……○○県にある」


それは、彼の故郷。そしていまごろケンちゃんが到着しているはずの場所である。


「早ければあすにでもここを出てそちらに向かう予定だ。相原もそれに同伴する」


「…まぁ。急なお話ですわね」


疑念を隠せない中塚女史。


「はいはい!は~い!!!」


そこに元気よく手を挙げたのは高瀬だ。


「……なんだ、及川くん」


「私!私もついていきます!秘書高瀬、ぴっちり部長の補佐をしますよ!」


精一杯キリっとした顔で宣言するが。


「…まだ口にクリームがついている。それを拭いてからものを言いなさい」


ありゃ。


「君は中塚くんとともに相原が抜けた穴を埋めて欲しい。さすがに二人連れて行くというのは社の状況的にも難しいからな…」


「出張費用の必要経費が、ですか?」


「その通りだ…」


はぁ、とため息をつく部長。

要するに、穴埋め云々は後付けで、2人分しか経費が落なかったので必然的により重要度の高い方を選んだと。


「ずるい!」


「…子供のようなセリフを吐くんじゃない。仕方がないだろう」


「確かに、宿泊したとして部長と主任でしたらホテルの部屋もツインルームひと部屋で済みますものねぇ…」


経費はもちろんそのほうが安く済む。


…しかし中塚女史、なぜそこで含み笑う。

もしかしてあなたも結構腐ってますか。


だが宿泊、という言葉に部長は首を振る。


「新幹線を使えばそれほど時間はかからない。日帰りで行く予定だ」


ということは、ほとんどとんぼ返り状態になるのではなかろうか。


「だったら……」


「君はおとなしくしていなさい。さっきもそう言ったろう」


「え~……」


ここまで巻き込んでおいてそれはないと思う。


「敵陣に乗り込むんですよ!?ここからが本番じゃないですか!」


私を連れて行かずしてどうするかね!?と勢い込んでみるが、部長は冷たい。


「…ただ、経済状況の資料を確認に行くだけだ。君が思っているようなことは想定していない」


そうは言うが、私は既に知っている。


「部長、現実は常に想定の斜め上を行くものなんですよ?」


「……特に君の周りではな」


あれ。

これ、ただ単に私の周辺が非常識なだけと思われてないか?


否定……はできない!!くやしいです!


地団駄を踏み、中塚女史になだめられているところで、部屋の扉が叩かれた。


トントン…。


「相川、ただ今出社いたしました」


「主任!」


慌てて振り返ったそこには、昨日と変わらぬ主任の姿。


「おや、及川くんに中塚くん。随分迷惑をかけたみたいで済まなかったね」


「いえ…」


「その通りです」


遠慮がちな中塚女史に代わって、そのものずばり肯定した高瀬に主任がニコリと笑う。


「あとで埋め合わせはするよ。……それ、最近オープンしたカフェテリアの商品だろ?今度、近くの系列店でパンケーキを始めるらしいから、それでどう?」


「「のった」」


中塚女史と2人、声を合わせてガッツポーズを取る。

お主もやるな、中塚女史。

高瀬と手を取り合ったあとは、何事もなかったかのようにあっさりビジネス用笑顔を浮かべるのが流石だ。


私も是非見習いたい。


猫をかぶるのだ。ドラ○もん的な鋼鉄の猫を。


「んじゃ、二人共あとでお昼に時間空けといてね……」


ひらひらと手首を振りながら言うと、改めて部長に向き直る。


「んで、状況は最悪って聞いたけど?」


「明日、本社に向かう予定になった。お前も行けるな?」


「了~解」


「必要な資料を集めて用意しておいて欲しい。ついでに新幹線の手配も頼めるか」


「新幹線の方は私が…」


「んじゃ、俺は資料の方を整理してくるわ。助かるよ、中塚くん」


「いえ…」


控えめに頭を下げる中塚女史。

話はひとまずまとまったらしい。


「そういえば及川君。幼馴染の便利屋君から今朝電話があったんだけど」

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