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犬のご褒美

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「行くよ!」と、勢い込んでやってきた病室の中。


時刻は通常の見舞い時間をとっくに過ぎ、病院全体がしんと静まり返っている。

受付を通る必要もない高瀬は先に病室に到着し、後から竜児がひっそりやってきた。


「なんて言って看護婦さんを誤魔化したの?」


「今日の怪我について、事件性があるかも知れないので、夜のうちにこっそり話しを伺いたいと…」


「おい」


何を問題を大きくしてやがりますか。


「大丈夫ですよ。個人のプライバシーで済ませればいい話です。それより彼は?」


「……寝てるみたい」


疲れも溜まっていたのだろう。こうして見ると、目の下にもクマが見える。


「さっちゃんとやらはいませんね…」


「うん、そうだね」


こちらにはやはりきていないらしい。

さて、ではこれからどうするか。

そう思い、竜児に向かって口を開きかけたその時。


ガタガタガタガタ。


「何?」


「……もしかすると……あぁ、やっぱり」


竜児は置かれていた主任の荷物を無造作に手に取ると、その中から振動するスマホを取り出す。


「バイブですね。着信のようですが」


「おいおい、勝手にとっちゃダメでしょ、それ一応プライバシー…」


「ですがタカ子、どうやら問題の”室井社長”からの着信のようですよ?」


「え!?」


そう言われて、慌てて着信画面に目が釘付けになった。


” 着信者  室井 幸樹  ”


「本当だ……」


「こんな夜更けになんのようでしょうねぇ。…とりあえず出てみますか?」


「はい!?」


何当たり前のように言ってんの!?そして当たり前のように電話に出るな!


「もしもし?」


『……お前、誰だ』


軽快な竜児の応答に、電話口からは明らかに警戒する声が聞こえてくる。


まぁ、それは当然だろう。


思っていた相手とまったく別の声が聞こえてくればそう言いたくもなる。


「僕はこの電話の持ち主の部下の友人で、弁護士です」


『……弁護士、だと?』


「ええ。僕の友人を通してご相談を頂きましたので」


「…ちょ、ちょっと竜児…」


そんなことばらしちゃっていいの…?


『相談?何を聞いた』


「それは個人情報なのでお伝えできませんね」


『相原に代われ』


「残念ながら、クライアントは現在安静にしていなければいけない状態ですので」


『…なに?』


「まぁ冬場にありがちな感電事故なのですが、大事をとって入院しているんです」


『入院…』


「ですので、一時的にこの携帯電話をお預かりした次第ですよ。…あなたのような方からの電話が入ることもあるかと思いまして」


『…相原め…』


室井の声が、以前会社で聞いた時と同じ人間とはとても思えないほど暗く重いものに変わる。

友人が弁護士に何を相談していたのか十分理解したのだろう。


わざとそう思わせるように誘導したのは竜児だ。


何が目的かはわからないが、きっと理由がある。


「…で、そちらは……あぁ、切られましたね。随分短気だ」


くっくっと笑う竜児が、スマホを元の場所に当たり前のように戻す。


「こらこら、笑ってる場合じゃないでしょ。後で主任にバレたらどうすんの?」


「どうもしませんよ、別に。少なくとも僕は嘘はいっていません。

まぁ、勝手に電話を出たことは問題かもしれませんが、これも調査の一環でしょう」


そう言われると、確かに。

主任は竜児に仕事の相談をしたわけではないが、賢治には間違いなく依頼をしており、その場には竜児も同席していた。


この段階で、”相談されていた”というのは全くの嘘ではない。

相手に対して主任には既に弁護士が付いていると思わせるあたりが相当曲者だが…。


「まぁ、これでしばらくは余計なちょっかいをかけてくることはないんじゃありませんか?

相手に後暗いことがあると思うから脅迫という手段に出るんです。こちらが正々堂々国家権力を振りかざす用意があると認識すれば相手も一応はひっこみますよ」


「う~ん、まぁ正論かな」


「ですが、先ほどちらりと確認させてもらっただけでも相当な件数の着信が入っていたようですね」


「室井社長から?」


「ええ。ほぼ毎日のように」


うわぁ~。それは主任も追い詰められるわ。


「今日も何も知らずに何度も電話を入れていたんでしょう」


「んで、つながったと思ったら竜児か…。結構なパンチ力だねぇ…」


相手からすれば鼻っつらを思い切り殴られたようなものだ。


「しかし室井社長とやらはどうもこの彼を随分恨んでいるようですね…」


「竜児もそう思った?」


「ええ、声に怨嗟がにじみ出ていましたから」


さすが弁護士、そういうところは見逃さない。


「やっぱり妹さんを死なせたのは主任だと思ってるのかな…?」


「それにしては冥婚の相手になれと脅すのは奇妙でしょう」


「ほら、妹に呪い殺させる気でいるとか…」


「自分が死ぬ原因となった男と死後結婚させられた妹が喜ぶと思いますか?」


「……微妙…」


「僕ならわざわざそんな面倒な手段を取ろうとは思いませんね」


そりゃそうだろう。

竜児ならそれこそ呪いなんて手段に頼らなくともいくらでも方法はある。


「この彼がその事件に対して何らかの負い目があるのは間違いないとは思いますが…さてさて、何が隠されてるんでしょうね…?」


「ちょっと竜児、そんな面白がるみたいに…」


「実際面白いじゃありませんか。他人事ですし」


「……私は一応当事者のつもりなんだけど?」


「あなたも他人ですよ、そこを勘違いしてはいけません」


一緒に巻き込まれてやるとは決めたが、立ち位置を間違ってはいけないと竜児はいう。


「霊だけの問題ならともかく、今回の件には複雑な人間関係や古い土地の因習なども関係してきているようです。あまり首を突っ込み過ぎると余計な蛇を出すことになりますよ」


藪をつついて蛇を出す、か。


「その辺は僕と賢治に任せておきなさい」


「でも、依頼を受けたのはケンちゃんだけで…」


竜児には直接関係のないことだ。


「勿論メインで動くのは賢治ですが、僕も協力はしますよ。……なに、必要経費はそこの彼へ請求すればいいだけのことです」


経費は実費で支払うと言っていましたから、と言い切る竜児。


「ついでに今日のタクシー代もつけておきますかね」


「さすがは悪徳弁護士…」


自分の損になることはしないか。


「勿論、タカ子の関係者でなければこんな面倒なことはしませんよ?」


「わかってる、感謝してるよ…」


2人が親身になってくれているのは全て自分のため。

それがわからないほど馬鹿でもない。


「死なばもろともとは言いましたが、爆散するつもりはありません。できる限りの防衛体制をとって、それでも危機的状況に陥ったなら、3人だけのシェルターにこもってしまえばいい」


「シェルター……?」


それはどういう意味だろう。


「……まぁ、まだ早計ですがね。僕たちにはタカ子には想像もつかないほどの深謀遠慮があるということです」


――なんだかなぁ。


よくわからないが、いろいろ考えてくれていることは間違いないのだろう。


「まぁ、とりあえずここにいてもこれ以上の収穫はなさそうですし、戻りますか?」


「うん、了解」


「では僕の家に」


「……へ?」


「大人しく番犬を演じた僕に、多少のご褒美は必要だと思いませんか?」

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