冬場の感電は危険です。
ブクマして下さった方に心からの感謝を( *´艸`)
その一押しを作者がウキウキで待ってます(笑)
「タカ子、お前部長さんの携帯番号知ってるか?」
到着したマンションの前で、賢治が後ろを振り返る。
「一応知ってはいるけど…なんで?」
自宅を目の前にしてわざわざ電話?
「こういう高級マンションはな、入るのにも入居者の許可が必要なんだよ。暗証番号があって、それを入力しないと中に入れない」
「おぉ」
さすが高級。
だがそんな事を言っている場合ではない。
「電話出るかな、部長…」
「ダメなら強行突破だな~。こういう時には竜児の口八丁が役に立つぜ」
「そこは国家権力の力と言ってください」
涼しいカオで強調するのは弁護士バッチ。
金色に輝くひまわり模様が実に眩しい。
「……あ、繋がった。……もしもし部長?及川ですけど………え?今救急車を呼ぶ所?」
「はぁ?」
賢治が「なんだそりゃ?」と首をかしげる。
「…主任が…?いや、タクシーを呼ぶくらいならむしろ今から迎えにいきますよ…!」
「なになに、どういう状況?」
「さぁ…」
呑気に話し合う二人に、話しながら激しく右手を上下に動かしていた高瀬が、スマホから手を離さぬまま、バシバシと賢治の肩を叩く。
「今ケンちゃんの車で部長の家の前まできてるんです!すぐに病院へ行けますから!」
「おやぁ~?」
「どうやら話がまとまりつつあるようですね。後で料金を請求したらどうですか?」
「それナイスアイディア!もらった!」
よっしゃ、と俄然やる気を出す賢治。
高瀬からなんの説明も受けずとも、あっさり状況を把握したようだ。
話が早くて助かるが、いい加減守銭奴すぎる。
「部長一人で主任を連れてこられますか?…無理?んじゃあ……」
「僕は無理ですよ。非力なので」
「タカ子だってんな無茶言わねぇって…。訳を話して車をここに止めさせてもらおうぜ。管理人に話を通しておくように伝えてくれ」
了解、と指先のサインで示して、部長にそれを告げる高瀬。
しばらくすると管理人らしき中年の男性が現れるのが見えたので、まずは竜児が交渉に向かった。
すぐに戻ってきた竜児が管理人に指定された駐車場所を指示し、そこに向かう。
「タカ子はどうする?先に降りるか?」
「ハムちゃんが引っ張ってるから、早く行ったほうがよさそ…」
「んじゃ竜児とここで先に降りろよ。車を止めたらすぐ行く」
「竜児も来るの?」
力仕事ではほぼ役に立たないが。
「弁護士がいたほうがいろいろと話が楽だろ」
「納得した」
なにかの時のため、ということか。
ビバ国家権力。
……っと、そんな場合ではない。
「じゃ、案内してね、ハムちゃん」
『きゅい!』
頼もしいぞ、ハム太郎改めハム子(仮)
※
「…なんですか、これ」
中から鍵を開けてもらって入った室内は、几帳面な部長の部屋とはとても思えないほど荒れていた。
部屋の中で嵐でも起こったかのようだ。
「ふむ。……これは霊障ですか」
つまりポルターガイスト、ということ。
「及川くん、彼は……?」
「前に話した、弁護士してる幼馴染です」
「はじめまして、どうもうちのものがお世話になっているようで」
頭を下げた竜児だが、どうにもそのセリフは挑発的である。
「うちの…?」
その言葉で、ちらりと高瀬を伺う部長。
その視線はあれですか。お前らデキてるのか的なやつですか。
いえいえ、違う違う。ただの幼馴染です。
「……まぁいい。とにかく相原の奴を先に病院に……」
「まずは状態を確認させてもらいましょう。彼はどこに」
「……こっちだ」
言おうとしたセリフを強引に竜児によって遮られ、若干ムッとしながらも部長が素直に案内する。
なんとかく予想はしていたが、この2人の相性は決して宜しくない。
部長、こっちを見ない。それは不可抗力です。私に竜児は止められません。
案内された居間で、ソファに横になったままピクリとも動かない主任。
「どうしてこんな状況に?」
「少し前、相原がうちを訪ねてきてな…。あの霊に会いたいというので会わせたんだが、相原が名前を呼んで手を伸ばした途端、強力な静電気のような放電が発生して…」
近くにあったものが吹っ飛ばされ、すぐに主任が感電したように倒れたと。
「あれがなんだったのか、俺にもわからない」
「部長、そういえばさっちゃんは…」
「消えた。アレキサンダーに後を追わせたが…」
「……」
やはり、主任とさっちゃんの関係が深いのは間違いなさそうだ。
「とりあえずソファに寝かせて、救急車を呼ぶかタクシーを呼ぶかと考えていた時に君からの連絡があったんだ。……随分タイミングが良かったな」
怪しげに眉間にシワを寄せる部長だが、それは当然のこと。
「多分ですけど、主任のことを心配してハムちゃんが私達をここに引っ張ってきたんですよ」
「なに?」
「私達…えっと、私と竜児と、こないだの便利屋の賢治、わかりますよね?その3人で食事に行った帰りに、突然ハムちゃんが現れて……」
ここまでひっぱってこられた、といえば、当たり前だが驚いた顔をする部長。
いつの間にかハム太郎が姿を消したことには気づいていても、まさか飼い主を呼んで戻ってくるとは思わなかったのだろう。
ハムちゃんの頭脳を舐めてもらっては困る。
ちゃんと飼い主だけではなく頭脳と労働力まで引き連れてきたのは流石だ。
「ただ気を失っているだけのようですが……感電したように見えたというのであれば、念の為に病院に連れて行ったほうが間違いはないでしょうね」
「お医者さんになんて伝えればいいかな?」
「濡れた手でコンセントに触れたとでも言えばいいでしょう。後で口裏を合わせればいいだけのこと」
「なるほど」
さすが竜児、即座にありえそうな言い訳を思いつく。
「んじゃ部長、そういうことでお願いします」
「あぁ…。わかった」
意識を取り戻したら、口裏合わせは必須です。
「相原は……大丈夫なのか?」
「まぁ霊障といえば霊障なんですが…。別に呪われたとかそういうのではないと思いますよ。なんだろうな…。う~ん。接触事故とかそんな感じ…?」
「なんだそれは…」
「私にも詳しくは説明できないんですけど、とりあえず実際の感電以外の霊的影響はないと思います」
「そうか…」
その言葉に、ようやくホッと息をつく部長。
冷静に見えて、意外とテンパっていたのかもしれない。
「今ケンちゃんが来るので、そうしたらみんなで主任を車に運びましょう」
「すまないな……世話をかける」
「部長のせいじゃありませんって」
今回の借りは全て主任につけておこう。
「ちなみにケンちゃんが後で請求書をよこしてくるかもしれませんがそれは全て主任に渡して下さい」
「………わかった」
部長、そんな目で見ないでください。いったじゃないですか。私にはこの二人は止められんのですよ。